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第一章 少女が死んだ
ホームルーム
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月曜日。
俺は学院側の要望通り、新任の教師として初出勤した。
俺が教師として学校に潜入調査をしていることは、校長と教頭、そして白鳥萌の担任教諭だった大野櫻子のみが知っており、他の教員には全く知らされていなかった。
朝の職員会議の前に、俺は校長室で校長と教頭と打ち合わせをし、その席には大野も同席していた。
「大野先生。こちらが本日からあなたのクラスの副担任として赴任していただいた佐藤さんです」
教頭は相変わらずの笑顔で探偵を紹介した。
「初めまして、白鳥萌さんのクラスの担任をしておりました、大野櫻子と申します」
大野は人見知りするたちなのか、その表情には不安と自信の無さが見え隠れしていた。化粧気も薄く、服装も地味でシンプルな物を好むからなのか、34歳という年齢よりもいくぶん上に見えた。
「まぁ、佐藤さんという名前は偽名なのですけどね。本業の方に差し支えがあるかもしれないということで」
教頭が小さく声を出して余計なことを言って笑った。
「そうなんですね。とにかく、調査にはできるだけ協力いたします。白鳥さんの死の真相・・・いえ、彼女が自殺でないことを証明して、生徒達の動揺をおさめてください」
同席していた校長や教頭の目を意識しているのか、大野は緊張感を隠せない、か細い声でそう呟いた。
「では、そろそろ朝の職員会議が始まりますので、我々も行くとしましょうか。佐藤さん、ご案内しますよ」
教頭の後ろについて、俺は大野と連れ立って職員室へと案内される。
そこで簡単な自己紹介と、他の教師への挨拶を済ませると、俺は大野の後について白鳥萌が在籍していた、大野の受け持つクラスへ向かった。
「それで、実際に白鳥萌に対する虐めはあったのですか?」
俺は大野に問いかけてみた。
「白鳥さんに限っては、彼女が虐められていたという事実はありません。彼女はただ物静かな目立たない生徒というだけで、私が把握していた虐めではありませんでした」
「それは、白鳥萌は虐められてはいなかったが、クラスには他に虐めの事実が存在する、ということですか?」
俺の問いに、大野は足を止めて周囲を窺い、俺の問いに頷く。
「そのことを、学校側も把握しているのですか?」
「はい・・・ご存知なのは、校長と教頭と、学年主任の皆川先生だけですが」
俺は、学校側の体質に疑問を感じた。久米川教頭は、事実が明らかになっても隠蔽はしないと語っていたが、それは信じていいことなのだろうか?現にこうして虐めの事実を把握していても、学校全体で共有せずに一部の関係者だけでとどめている。仮に白鳥萌の死の理由が、虐めによる自殺だとして、本当に学校は事実を世間に公表するのか疑問だ。
「大野先生から見て、このクラスはどのようなクラスなんですか?」
「我が校は、都内でも有数の進学校です。生徒達は皆んな真面目で、真剣に勉学に励んでいます。ふざけたり、遊んだり、バイトをする生徒など特別な理由でも無い限りはいません。きっと、佐藤先生も生徒達に接すれば、私の言ったことがわかると思います」
廊下は静まり返っている。どこのクラスからも生徒の嬌声などは聞こえず、教師がホームルームを進行している声しか聞こえない。どうやら、どこのクラスの生徒も、大野が言っていたように品行方正らしい。
「ここです。ここが私の担任をしているクラスです」
大野は教室の扉の前で足を停めて探偵に言った。
「今日のところはとりあえず、先生の紹介と授業に立ち会っていただければ大丈夫です」
大野はそう言って扉を開けて教室へ入った。
大野に続いて俺も教室に入ると、その瞬間、生徒達から発せられる空気が張り詰めた。
「皆さん、おはようございます。今日から嶋崎先生の代わりに副担任を担当してもらいます、佐藤先生を紹介します」
そう言って大野は俺に生徒達に挨拶するように促した。
俺は、少し気恥ずかしい気持ちを隠しながら、生徒達にその気持ちを見透かされないように簡単に自己紹介をし、挨拶をした。
そのあと、大野の進行でホームルームが始まり、簡単に生徒の一人ひとりが名前を名乗って、俺に挨拶をした。
ホームルーム終了後、俺は大野と連れ立って職員室へと戻るため、教室を出て職員室へ向かった。
「どうでしたか、うちのクラスの生徒達は?」
「そうですね、とても品行方正というか、真面目に勉学に勤しむ優等生の集まりというか」
「変わった評価をされるんですね。あとで、クラスの25人分の顔と名前の資料を差し上げますね。早めに生徒の顔と名前を一致させるようにしてください」
「いえ、それでしたら心配には及びません。既に全員の顔と名前は覚えましたから」
「えっ!25人全員ですか!?」
大野が俺の発言に驚きを示した。
「昔から記憶力だけはいいので」
俺は、はにかみながらぎこちない笑顔を返した。こういう時だけは、自分の能力が発揮されるな、と俺は思った。
「ところで大野先生、あの25人の中で誰が虐めをしていて、誰が虐められているのかを教えてもらえませんか?」
「わかりました。それも資料を作っておきます。いちおう、全員分の大まかな特徴ですとか、成績も載せておきます」
「助かります、お忙しいでしょうけど、よろしくお願いします。ところで、1人だけ今日、欠席していたようですが」
「えぇ、例の虐められている彼女なんですが、たぶん保健室にいると思います。後で様子を見に行ってみます」
「それでしたら、私も一緒に行ってもいいでしょうか?」
「えっ。はい、わかりました。あとでご案内します」
俺は学院側の要望通り、新任の教師として初出勤した。
俺が教師として学校に潜入調査をしていることは、校長と教頭、そして白鳥萌の担任教諭だった大野櫻子のみが知っており、他の教員には全く知らされていなかった。
朝の職員会議の前に、俺は校長室で校長と教頭と打ち合わせをし、その席には大野も同席していた。
「大野先生。こちらが本日からあなたのクラスの副担任として赴任していただいた佐藤さんです」
教頭は相変わらずの笑顔で探偵を紹介した。
「初めまして、白鳥萌さんのクラスの担任をしておりました、大野櫻子と申します」
大野は人見知りするたちなのか、その表情には不安と自信の無さが見え隠れしていた。化粧気も薄く、服装も地味でシンプルな物を好むからなのか、34歳という年齢よりもいくぶん上に見えた。
「まぁ、佐藤さんという名前は偽名なのですけどね。本業の方に差し支えがあるかもしれないということで」
教頭が小さく声を出して余計なことを言って笑った。
「そうなんですね。とにかく、調査にはできるだけ協力いたします。白鳥さんの死の真相・・・いえ、彼女が自殺でないことを証明して、生徒達の動揺をおさめてください」
同席していた校長や教頭の目を意識しているのか、大野は緊張感を隠せない、か細い声でそう呟いた。
「では、そろそろ朝の職員会議が始まりますので、我々も行くとしましょうか。佐藤さん、ご案内しますよ」
教頭の後ろについて、俺は大野と連れ立って職員室へと案内される。
そこで簡単な自己紹介と、他の教師への挨拶を済ませると、俺は大野の後について白鳥萌が在籍していた、大野の受け持つクラスへ向かった。
「それで、実際に白鳥萌に対する虐めはあったのですか?」
俺は大野に問いかけてみた。
「白鳥さんに限っては、彼女が虐められていたという事実はありません。彼女はただ物静かな目立たない生徒というだけで、私が把握していた虐めではありませんでした」
「それは、白鳥萌は虐められてはいなかったが、クラスには他に虐めの事実が存在する、ということですか?」
俺の問いに、大野は足を止めて周囲を窺い、俺の問いに頷く。
「そのことを、学校側も把握しているのですか?」
「はい・・・ご存知なのは、校長と教頭と、学年主任の皆川先生だけですが」
俺は、学校側の体質に疑問を感じた。久米川教頭は、事実が明らかになっても隠蔽はしないと語っていたが、それは信じていいことなのだろうか?現にこうして虐めの事実を把握していても、学校全体で共有せずに一部の関係者だけでとどめている。仮に白鳥萌の死の理由が、虐めによる自殺だとして、本当に学校は事実を世間に公表するのか疑問だ。
「大野先生から見て、このクラスはどのようなクラスなんですか?」
「我が校は、都内でも有数の進学校です。生徒達は皆んな真面目で、真剣に勉学に励んでいます。ふざけたり、遊んだり、バイトをする生徒など特別な理由でも無い限りはいません。きっと、佐藤先生も生徒達に接すれば、私の言ったことがわかると思います」
廊下は静まり返っている。どこのクラスからも生徒の嬌声などは聞こえず、教師がホームルームを進行している声しか聞こえない。どうやら、どこのクラスの生徒も、大野が言っていたように品行方正らしい。
「ここです。ここが私の担任をしているクラスです」
大野は教室の扉の前で足を停めて探偵に言った。
「今日のところはとりあえず、先生の紹介と授業に立ち会っていただければ大丈夫です」
大野はそう言って扉を開けて教室へ入った。
大野に続いて俺も教室に入ると、その瞬間、生徒達から発せられる空気が張り詰めた。
「皆さん、おはようございます。今日から嶋崎先生の代わりに副担任を担当してもらいます、佐藤先生を紹介します」
そう言って大野は俺に生徒達に挨拶するように促した。
俺は、少し気恥ずかしい気持ちを隠しながら、生徒達にその気持ちを見透かされないように簡単に自己紹介をし、挨拶をした。
そのあと、大野の進行でホームルームが始まり、簡単に生徒の一人ひとりが名前を名乗って、俺に挨拶をした。
ホームルーム終了後、俺は大野と連れ立って職員室へと戻るため、教室を出て職員室へ向かった。
「どうでしたか、うちのクラスの生徒達は?」
「そうですね、とても品行方正というか、真面目に勉学に勤しむ優等生の集まりというか」
「変わった評価をされるんですね。あとで、クラスの25人分の顔と名前の資料を差し上げますね。早めに生徒の顔と名前を一致させるようにしてください」
「いえ、それでしたら心配には及びません。既に全員の顔と名前は覚えましたから」
「えっ!25人全員ですか!?」
大野が俺の発言に驚きを示した。
「昔から記憶力だけはいいので」
俺は、はにかみながらぎこちない笑顔を返した。こういう時だけは、自分の能力が発揮されるな、と俺は思った。
「ところで大野先生、あの25人の中で誰が虐めをしていて、誰が虐められているのかを教えてもらえませんか?」
「わかりました。それも資料を作っておきます。いちおう、全員分の大まかな特徴ですとか、成績も載せておきます」
「助かります、お忙しいでしょうけど、よろしくお願いします。ところで、1人だけ今日、欠席していたようですが」
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