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第3章 サイコパスと炎上アイドル
27 後悔
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あたしは、あたしのことが嫌いだ。
頭悪いし、性格悪いし、取り柄ないし、協調性ないし、計画性ないし、人に迷惑かけてばかりだし、すぐに人を怒らせちゃうし。
短所ばかりの自分が、昔から大嫌いだった。
そんなあたしが自分のことを好きになるためには、他の誰かに好きになってもらうしかなかった。みんなに愛される自分でないと、自分を愛せなかった。
だからあたしはアイドルになりたかった。
だって、アイドルってみんなに好きになってもらうのが仕事でしょ?
残念ながら中学卒業前に受けたオーディションには落ちちゃったけど、ウィーチューブで【リカリカ】として配信をするようになってからは、ツイッターや動画のコメントを通していろんな人から『かわいい』『おもしろい』と声をかけてもらえるようになった。見ず知らずの人からそういうことを言ってもらえるのって、なんだか本当のアイドルになったみたいでワクワクする。
リアルでもネットでも、たくさんの人から好きだと言ってもらえるのはやっぱり嬉しかった。
だけど、本当のあたしは誰かに本気で好きになってもらえる人間じゃない。
中学生の頃、何人かの男子に告白されたことがある。当時のあたしは誰かに好きと言ってもらえるだけで嬉しくて片っ端から付き合ったけど、結局どれも長続きしなかった。所詮あたしは見た目が可愛いだけで、その部分に飽きられてしまったら、あとはただのバカで性格の悪い女でしかない。しかもそのせいで男を取っ替え引っ替えしていたように思われてしまい、中学では嫌な思いをさせられることも多かった。
今の学校にはあたしに憧れてくれている人がたくさんいるみたいだけど、反対にあたしのことを嫌っている人もたくさんいる。
その違いは簡単なことだ。
あたしに憧れているのは、あたしの表面的な可愛さに騙されている人たち。
あたしのことを嫌っているのは、本当のあたしが見えている人たち。
だからあたしは本当の自分を偽るために、全力でかわいい子ぶって生きている。
男遊びは絶対にしない。彼氏を作る気はないと最初から周囲に公言しておく。
体のメンテナンスは怠らない。これは神様があたしに与えてくれた唯一の武器だ。
配信では必ずマスクを着ける。素顔じゃなくて、あたしの醜い本性を隠すために。
おバカなのはもうキャラとして立てちゃおう。案外需要があるみたいだから。
それでも性格の悪さとかはどうしたって出ちゃうから、そこは全力で笑顔を振りまくことでカバーする。
そうでないと、誰もあたしのことを好きになってくれないんだ。
前に「ファンのみんなはありのままのあたしを~」なんて悟ったようなことを言ったけど、とんでもない。ありのままのあたしなんて、とてもじゃないけどファンのみんなには見せられない。
だからあたしはこれからも自然体を偽っていく。多くの人から好きだと言ってもらえる自分を守るために。
そんな嘘だらけの人生だけど、たった二人だけ、偽りない本当のあたしを認めてくれる人がいた。
一人目は、あたしのおばあちゃんだ。
あたしの家族はみんなあたしのことを大事に育ててくれたけど、お父さんやお母さんが褒めてくれるのは、いつだってあたしのお利口な部分だけだった。だからあたしはお父さんやお母さんの前では、いつもお利口な娘でいなくちゃいけなかった。
だけど、おばあちゃんはあたしがどんな子でもいいって言ってくれた。ただあたしが存在してくれているだけで幸せなんだと言ってくれた。
今でも中学生に上がって程なくしておばあちゃんが天国に行ってしまったことが、あたしの人生で一番悲しかった出来事だ。
そして二人目は、天王皇帝くん。
あたしがウィーチューバーだってことを唯一知っている、一つ年下の男の子。
あたしの頼れるパートナー。
おばあちゃんと違って、たぶんコーダイはあたしのことを好きでも何でもない。
だけど、彼は誰よりもあたしという人間を認めてくれた。
彼はあたしの嫌な部分を知った上で、それでも変わらない態度であたしに付き合ってくれた。サイコパスだから、ただ気にしてなかっただけかもしれないけど。
でもそれだけじゃなくて、彼はあたしの良いところをたくさん見つけてくれた。単にかわいいとか、スタイルがいいとか、そんな表面的なことじゃなくて、本当のあたしを見てくれた。偽らないあたしを否定しないで受け入れてくれた。最初は学校の先生みたいなことを言うやつだと思っていたけど、最近はあたしもそれが自分の長所だって心から思えるようになった。
コーダイのおかげで、あたしはあたしのことがちょっとだけ好きになれた。
彼と一緒にいられたら、あたしは自分のことがもっと好きになれる気がした。
そんなことを考えているうちに、あたしは彼のことも好きになっていた。
勢いでキスまでしちゃったけど、向こうはまるで気にしてないみたい。こんな美少女からキスされても平然としているなんて、やっぱりサイコパスなんだな。そういうところもまた良いんだけど。
でもそんな彼を、あたしはついに失望させてしまった。
最初は水着撮影を進んで引き受けようという彼にちょっと反発しただけだった。それも馬鹿みたいな理由でだ。
あたしが大勢の人から性的な目で見られることを躊躇わない彼の態度が気に食わなかっただけ。
甘いチョコレートでも食べればすぐに忘れられそうな、些細な反感だった。
こんな気持ちに、サイコパスな彼が気づいてくれるわけなんかなかった。いや、サイコパスじゃなくても無理か。あたしだって人の気持ちなんて全然分からないし。
でもそれがたまらなく嫌で、苛立ったあたしはついにあの写真を彼に見せてしまった。彼が知らない大人の女性と密着している写真を。
あれは3日くらい目にあたしの——【エリカ】のツイッターアカウントのタイムラインに流れてきたものだった。
投稿主のことはよく分からない。フォローした覚えのないアカウントだった。誰かが名前やIDを変更したのかもしれないし、フォロワーだからと何も考えずにフォロバしていたのかもしれない。
ただそんなことより、あたしはコーダイとその女との関係が気になって仕方がなかった。
もちろんあたしに二人の関係を問いただす資格なんてないことは分かっていたから我慢していたけど、あの時は苛立つあまり、つい彼を問い詰めてしまった。
彼はただのゼミの先輩だと答えた。
あたしはその言葉を信じなかった。
いま思うと、コーダイはきっと嘘なんかついてなかった。もし本当に二人がそういう関係にあったとしたら、彼なら隠すことなく正直に答えただろう。彼はそういうヒトだ。
あの時は溢れるような感情が抑えられなくて、こんな簡単なことも考えられなかった。
そしてあたしは「もう二度と来ない」と言って、彼の家を飛び出してしまった。
あれから3日経った今、あたしはすごく後悔している。
コーダイは何も悪くなかった。
悪いのは、あたし。全部があたしの独り相撲。
ああ、コーダイと仲直りしたい。
ちゃんと謝って、これからも【リカリカ】のプロデューサーを続けてほしいってお願いしたい。
けど、もうダメかもしれない。今回のことで、たぶん彼には本気で愛想を尽かされてしまった。そりゃそうよね、コーダイだって機械じゃなくて人間なんだから。こんな嫌な女が近くにいたら迷惑に決まってる。
そう思うと、気軽に謝りにも行けなかった。
このまま仲直りできなかったらどうしよう……
もしコーダイと別れることになったら、ウィーチューブのことも考え直さないといけない。ライブ配信なら一人でも続けられるけど、動画の編集なんてあたしにはできない。こういう時はアシスタントを雇わなくちゃいけないのかな。でもそう簡単に適任の人なんて見つかるとは思えない。
やっぱりあたしは、コーダイがいい。
明日にでもLINEで「ごめんなさい」って言ってみようかな——
そんな暗いことばかり考えている間に、いつの間にか学校に着いてしまった。
最近は学校があまり面白くない。学校以外の時間が楽しかったからかもしれないけど、それだけじゃなくて、近頃はクラスの友達もなんだかよそよそしい感じがする。あたし、何か嫌われるようなことしたっけ。心当たりはないけど、また中学生の頃みたいになるのは嫌だな。
玄関に到着し、最下段にある自分の下駄箱を開け、中に手を伸ばす。
ビチャ。うわっ、なんだこの感触。
慌てて手を引っ込め、下駄箱の中を覗き込むと、なぜかあたしの上履きがびしょびしょに濡れていた。
頭悪いし、性格悪いし、取り柄ないし、協調性ないし、計画性ないし、人に迷惑かけてばかりだし、すぐに人を怒らせちゃうし。
短所ばかりの自分が、昔から大嫌いだった。
そんなあたしが自分のことを好きになるためには、他の誰かに好きになってもらうしかなかった。みんなに愛される自分でないと、自分を愛せなかった。
だからあたしはアイドルになりたかった。
だって、アイドルってみんなに好きになってもらうのが仕事でしょ?
残念ながら中学卒業前に受けたオーディションには落ちちゃったけど、ウィーチューブで【リカリカ】として配信をするようになってからは、ツイッターや動画のコメントを通していろんな人から『かわいい』『おもしろい』と声をかけてもらえるようになった。見ず知らずの人からそういうことを言ってもらえるのって、なんだか本当のアイドルになったみたいでワクワクする。
リアルでもネットでも、たくさんの人から好きだと言ってもらえるのはやっぱり嬉しかった。
だけど、本当のあたしは誰かに本気で好きになってもらえる人間じゃない。
中学生の頃、何人かの男子に告白されたことがある。当時のあたしは誰かに好きと言ってもらえるだけで嬉しくて片っ端から付き合ったけど、結局どれも長続きしなかった。所詮あたしは見た目が可愛いだけで、その部分に飽きられてしまったら、あとはただのバカで性格の悪い女でしかない。しかもそのせいで男を取っ替え引っ替えしていたように思われてしまい、中学では嫌な思いをさせられることも多かった。
今の学校にはあたしに憧れてくれている人がたくさんいるみたいだけど、反対にあたしのことを嫌っている人もたくさんいる。
その違いは簡単なことだ。
あたしに憧れているのは、あたしの表面的な可愛さに騙されている人たち。
あたしのことを嫌っているのは、本当のあたしが見えている人たち。
だからあたしは本当の自分を偽るために、全力でかわいい子ぶって生きている。
男遊びは絶対にしない。彼氏を作る気はないと最初から周囲に公言しておく。
体のメンテナンスは怠らない。これは神様があたしに与えてくれた唯一の武器だ。
配信では必ずマスクを着ける。素顔じゃなくて、あたしの醜い本性を隠すために。
おバカなのはもうキャラとして立てちゃおう。案外需要があるみたいだから。
それでも性格の悪さとかはどうしたって出ちゃうから、そこは全力で笑顔を振りまくことでカバーする。
そうでないと、誰もあたしのことを好きになってくれないんだ。
前に「ファンのみんなはありのままのあたしを~」なんて悟ったようなことを言ったけど、とんでもない。ありのままのあたしなんて、とてもじゃないけどファンのみんなには見せられない。
だからあたしはこれからも自然体を偽っていく。多くの人から好きだと言ってもらえる自分を守るために。
そんな嘘だらけの人生だけど、たった二人だけ、偽りない本当のあたしを認めてくれる人がいた。
一人目は、あたしのおばあちゃんだ。
あたしの家族はみんなあたしのことを大事に育ててくれたけど、お父さんやお母さんが褒めてくれるのは、いつだってあたしのお利口な部分だけだった。だからあたしはお父さんやお母さんの前では、いつもお利口な娘でいなくちゃいけなかった。
だけど、おばあちゃんはあたしがどんな子でもいいって言ってくれた。ただあたしが存在してくれているだけで幸せなんだと言ってくれた。
今でも中学生に上がって程なくしておばあちゃんが天国に行ってしまったことが、あたしの人生で一番悲しかった出来事だ。
そして二人目は、天王皇帝くん。
あたしがウィーチューバーだってことを唯一知っている、一つ年下の男の子。
あたしの頼れるパートナー。
おばあちゃんと違って、たぶんコーダイはあたしのことを好きでも何でもない。
だけど、彼は誰よりもあたしという人間を認めてくれた。
彼はあたしの嫌な部分を知った上で、それでも変わらない態度であたしに付き合ってくれた。サイコパスだから、ただ気にしてなかっただけかもしれないけど。
でもそれだけじゃなくて、彼はあたしの良いところをたくさん見つけてくれた。単にかわいいとか、スタイルがいいとか、そんな表面的なことじゃなくて、本当のあたしを見てくれた。偽らないあたしを否定しないで受け入れてくれた。最初は学校の先生みたいなことを言うやつだと思っていたけど、最近はあたしもそれが自分の長所だって心から思えるようになった。
コーダイのおかげで、あたしはあたしのことがちょっとだけ好きになれた。
彼と一緒にいられたら、あたしは自分のことがもっと好きになれる気がした。
そんなことを考えているうちに、あたしは彼のことも好きになっていた。
勢いでキスまでしちゃったけど、向こうはまるで気にしてないみたい。こんな美少女からキスされても平然としているなんて、やっぱりサイコパスなんだな。そういうところもまた良いんだけど。
でもそんな彼を、あたしはついに失望させてしまった。
最初は水着撮影を進んで引き受けようという彼にちょっと反発しただけだった。それも馬鹿みたいな理由でだ。
あたしが大勢の人から性的な目で見られることを躊躇わない彼の態度が気に食わなかっただけ。
甘いチョコレートでも食べればすぐに忘れられそうな、些細な反感だった。
こんな気持ちに、サイコパスな彼が気づいてくれるわけなんかなかった。いや、サイコパスじゃなくても無理か。あたしだって人の気持ちなんて全然分からないし。
でもそれがたまらなく嫌で、苛立ったあたしはついにあの写真を彼に見せてしまった。彼が知らない大人の女性と密着している写真を。
あれは3日くらい目にあたしの——【エリカ】のツイッターアカウントのタイムラインに流れてきたものだった。
投稿主のことはよく分からない。フォローした覚えのないアカウントだった。誰かが名前やIDを変更したのかもしれないし、フォロワーだからと何も考えずにフォロバしていたのかもしれない。
ただそんなことより、あたしはコーダイとその女との関係が気になって仕方がなかった。
もちろんあたしに二人の関係を問いただす資格なんてないことは分かっていたから我慢していたけど、あの時は苛立つあまり、つい彼を問い詰めてしまった。
彼はただのゼミの先輩だと答えた。
あたしはその言葉を信じなかった。
いま思うと、コーダイはきっと嘘なんかついてなかった。もし本当に二人がそういう関係にあったとしたら、彼なら隠すことなく正直に答えただろう。彼はそういうヒトだ。
あの時は溢れるような感情が抑えられなくて、こんな簡単なことも考えられなかった。
そしてあたしは「もう二度と来ない」と言って、彼の家を飛び出してしまった。
あれから3日経った今、あたしはすごく後悔している。
コーダイは何も悪くなかった。
悪いのは、あたし。全部があたしの独り相撲。
ああ、コーダイと仲直りしたい。
ちゃんと謝って、これからも【リカリカ】のプロデューサーを続けてほしいってお願いしたい。
けど、もうダメかもしれない。今回のことで、たぶん彼には本気で愛想を尽かされてしまった。そりゃそうよね、コーダイだって機械じゃなくて人間なんだから。こんな嫌な女が近くにいたら迷惑に決まってる。
そう思うと、気軽に謝りにも行けなかった。
このまま仲直りできなかったらどうしよう……
もしコーダイと別れることになったら、ウィーチューブのことも考え直さないといけない。ライブ配信なら一人でも続けられるけど、動画の編集なんてあたしにはできない。こういう時はアシスタントを雇わなくちゃいけないのかな。でもそう簡単に適任の人なんて見つかるとは思えない。
やっぱりあたしは、コーダイがいい。
明日にでもLINEで「ごめんなさい」って言ってみようかな——
そんな暗いことばかり考えている間に、いつの間にか学校に着いてしまった。
最近は学校があまり面白くない。学校以外の時間が楽しかったからかもしれないけど、それだけじゃなくて、近頃はクラスの友達もなんだかよそよそしい感じがする。あたし、何か嫌われるようなことしたっけ。心当たりはないけど、また中学生の頃みたいになるのは嫌だな。
玄関に到着し、最下段にある自分の下駄箱を開け、中に手を伸ばす。
ビチャ。うわっ、なんだこの感触。
慌てて手を引っ込め、下駄箱の中を覗き込むと、なぜかあたしの上履きがびしょびしょに濡れていた。
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