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 自首

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「だけど、裁判所なんていきなり言われても困る」


あたしは言った。


「いきなりでも何でも、とにかく今日中に行かないといけないから」


「何で今日中?」


「今夜には刑務所に入るから」


あたしは驚き、言葉を失った。そこまで事態は進んでいるのか。それはどういう経緯なのだろう。ユウヤという人間が分からなくなった。もっとじたばたしそうなのに。


「だから来られる?」


「何? あたしは裁判所で証言をするの?」


弁護士や検事に尋問される場面を思い浮かべた。


「ん? まあ、それもあるかも」


「他にも?」


「え? ああ、あの文章を作る予定なんだよ」


「文章?」


「そう、文章。口約束だけだと信用できないだろ? 俺もあとで逃げられないように自分自身にケジメをつけておきたい」


分からなくなった。文章とは何なのか。


「言っただろ、弁償するって。その証拠を裁判所で残しておくんだよ。口約束だけだったら、あとで『知らない』と言ったらそれまで。ただ紙に書いてあるだけでも、『知らない』と言ったらそれまで。でも、裁判所で確認してもらったものを『知らない』とは言えない」


「え? そのためにあたしが行くの?」


「そう。犯人と被害者が一緒でないと。だから、妹にも……」


「妹はいまは無理だって」


文書で『弁償』の確約を残すのは、誠実さをアピールして、その悪い評価を少しでも減ずるための戦略なのかもしれない、とあたしは読んだ。


しかし、被害者が証言するのなら、加害者のことをできるだけ悪く言うだろう。あたしだけでなくゆきちゃんも証言すれば、悪い評価が増すだけだ。ユウヤには不利になる。それにもかかわらず、ゆきちゃんを同席させたがるユウヤの意図が分からなかった。


「まあ、仕方ないか。じゃ、怜佳だけでも早く来てよ。裁判所には無理にお願いしてる。本当は駄目なんだけど、『今日、刑務所に入る』と言ったら、『仕方ないから早く来なさい』って言われたんだよ。自分で言うのも何なんだけど、『君は被害者のことを一番に考えている』って褒められたよ」


ユウヤの口調は、やや自分に酔っているように響いた。また、その言葉は謝罪の意を見せびらかすようでもあった。


同時に、他人事を語るかのようにも聞こえた。刑務所がどんなところか知らないけれども、楽しいところではないだろう。これからそんなところへ行こうというのに、まるでピクニックに行くかのような調子なのだった。


どんなことも軽く考える習慣が、この場合にも及んでいるように思われる一方、暗い刑務所生活を前に、敢えて明るく振る舞い、自らを鼓舞しているのかな、とも考えられた。どちらなのかは分からなかった。
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