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きっかけ
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「何すんのよっ」
あたしは怒った。
「これが悩みの原因だろ。だったら捨ててしまえばいい」
「そんな」
あたしにはヒロにものをはっきり言えないという負い目があった。ユウヤの言葉はその負い目にズバッと突き刺さった。
「これくらいの荒療治をしなければ、こいつは変われない」
ユウヤの無言のメッセージが聞こえてくるようだった。それはよく耳にする「お前のこと思って、厳しくするのだ」に重なった。
しかし、携帯電話は母に買ってもらったものだ。携帯電話に罪はない。納得し難いと思っていると、
「ケータイは弁償するよ」
ユウヤはあたしを見た。そして真剣な顔をして続けた。
「いまは彼氏のことは忘れてほしい。二人だけの時間を大切にしたいんだよ」
「二人だけの時間って……、彼女さんは」
「そういう問題じゃないんだよ」
では、どういう問題なんだろう。
「一期一会って知ってる?」
ユウヤはあたしに訊いた。あたしは正確には知らなかった。
「中学生にはまだ難しいか。一人一人とちゃんと向き合うってことだよ。彼女だとか、そんなの関係ないから。怜佳が男だったとしても、俺は同じことを言うよ」
他人の携帯電話をいきなり破壊するという暴挙を前にして、あたしの頭は痺れていた。そのせいか、正誤、善悪の境界が曖昧になっていた。そんな頭で、
「もしかして、この人は袖振り合うも他生の縁と考えてあたしに関わっているのだろうか」
と、考え、あたしのような中学生であっても、真剣に対してくれていると嬉しく思い始めていた。
単純すぎないか。あるいは、無防備すぎないか。頭の隅に、そんな思いはあった。
しかし、あたしの心の底に、自分では制御できない、脳を支配する何かが潜んでいた。優しい言葉をかけられると、その何かが、靭のように飛び出してくる。すると、どうしようもなく切ない気持ちにさせられ、また、どうしようもなく懐かしい気持ちにさせられ、相手にしがみ付きたいという欲求に駆られるのだった。
この欲求が警戒心を抑え込んでいた。結果、現実を無視して、あたしはユウヤを善人だと決め付けてしまっていた。全く見知らぬ男なら、もう少し警戒はしただろう。けれども、あたしはユウヤの歌を五回も聴いているうえに、今日は向かい合って食事までしたのだ。全くの未知ではなかった。歌詞には優しさが溢れている。ユウヤを悪い人だと言い切れるのだろうか。
あたしは怒った。
「これが悩みの原因だろ。だったら捨ててしまえばいい」
「そんな」
あたしにはヒロにものをはっきり言えないという負い目があった。ユウヤの言葉はその負い目にズバッと突き刺さった。
「これくらいの荒療治をしなければ、こいつは変われない」
ユウヤの無言のメッセージが聞こえてくるようだった。それはよく耳にする「お前のこと思って、厳しくするのだ」に重なった。
しかし、携帯電話は母に買ってもらったものだ。携帯電話に罪はない。納得し難いと思っていると、
「ケータイは弁償するよ」
ユウヤはあたしを見た。そして真剣な顔をして続けた。
「いまは彼氏のことは忘れてほしい。二人だけの時間を大切にしたいんだよ」
「二人だけの時間って……、彼女さんは」
「そういう問題じゃないんだよ」
では、どういう問題なんだろう。
「一期一会って知ってる?」
ユウヤはあたしに訊いた。あたしは正確には知らなかった。
「中学生にはまだ難しいか。一人一人とちゃんと向き合うってことだよ。彼女だとか、そんなの関係ないから。怜佳が男だったとしても、俺は同じことを言うよ」
他人の携帯電話をいきなり破壊するという暴挙を前にして、あたしの頭は痺れていた。そのせいか、正誤、善悪の境界が曖昧になっていた。そんな頭で、
「もしかして、この人は袖振り合うも他生の縁と考えてあたしに関わっているのだろうか」
と、考え、あたしのような中学生であっても、真剣に対してくれていると嬉しく思い始めていた。
単純すぎないか。あるいは、無防備すぎないか。頭の隅に、そんな思いはあった。
しかし、あたしの心の底に、自分では制御できない、脳を支配する何かが潜んでいた。優しい言葉をかけられると、その何かが、靭のように飛び出してくる。すると、どうしようもなく切ない気持ちにさせられ、また、どうしようもなく懐かしい気持ちにさせられ、相手にしがみ付きたいという欲求に駆られるのだった。
この欲求が警戒心を抑え込んでいた。結果、現実を無視して、あたしはユウヤを善人だと決め付けてしまっていた。全く見知らぬ男なら、もう少し警戒はしただろう。けれども、あたしはユウヤの歌を五回も聴いているうえに、今日は向かい合って食事までしたのだ。全くの未知ではなかった。歌詞には優しさが溢れている。ユウヤを悪い人だと言い切れるのだろうか。
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