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【4】心外ですわ!
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「双方、構えよ」
ラングロア公爵の呼びかけに応じ、アルバンは帯剣を抜く。
しかしそのまま地面へと置くと、おもむろに両拳を握り締めた。
「……あら、あらあら?」
その姿を見やり、アリーヌは思わず口元が緩んでしまう。
「あくまでも、対等な立場で……というわけかしら?」
「いえ、違います」
アリーヌの問いかけに対し、アルバンは首を横に振って否定した。
そして、両拳を胸の位置に構えたまま、己の想いを言葉にして届ける。
「アリーヌ・ラングロア公爵令嬢。貴女は私の妻となる御方です。故に、怪我の一つも負わせることなく、場外へとお連れすることを約束いたします」
そう伝えると、アルバンは握っていた両拳を緩めて腕を下ろす。
その姿はどこからどう見ても無防備だが、アルバンの表情は自信に満ち溢れていた。
その一方、
「……それ、わたくしを倒すよりも、よっぽど難しそうね」
アリーヌは眉を寄せ、酷く詰まらなそうな顔を作っていた。
「はい、確かにそうとも言えます。怪我を負わすことなく場外へとお連れするには、貴女を抱き抱えなければならないかもしれませんので……その無礼、今回だけはお許し願います」
「……構わないわ。できるものならね」
何だろう……?
何かが変わった。よく分からないけど、アリーヌ様の何かが……。
アルバンは、ほんの少しだけ気付いた。
でも、それは完璧とは程遠いものだった。
故に気にせず合図を待った。
決闘の合図を。
既にこの時、アリーヌから愛想を尽かされているとも知らずに……。
「――始めっ!!」
ラングロア公爵が声を上げる。
すると、アルバンは両手を下ろしたままゆっくりとアリーヌの許へ向けて歩み出す。
「さあ、大人しく私に抱き抱えられてください。そして共に場外へと向かいましょう」
それは愛の告白か。
白馬に乗った王子様が、囚われの王女をお姫様抱っこするかのように、アルバンは両手を前に出してアリーヌに触れようとする。だが、
「それ無理」
「え? ――っっっっっ」
たった一言。
そしてグーパン。
それはまさに一瞬の出来事だった。
決闘場の内部で観戦していた他の花婿候補たちは、アルバンが遥か彼方へとぶっ飛ばされていく姿を、顔を上げて見送った。
「うんうん、結構遠くまで飛びましたわね? おかげさまでスッキリしましたわ。さあ、次はどの殿方がわたくしのお相手をしてくださるのかしら……って、あら?」
そして数分後、その全てが決闘場から逃げ出していた。
「お父様、先ほどまでいらした殿方たちはどちらに?」
「全員、帰ったぞ……はぁ」
アリーヌが疑問を投げかけると、父は頭を抱えながら言葉を返した。
それもそのはず、ただのグーパン一つで、アルバンは此処から見えなくなるほど遠くまで飛ばされてしまったのだ。
ちょっとした力自慢の男たちでは、アリーヌの相手になど成り得ない。目の前の事実を受け入れた結果、花婿候補は誰一人残ることがなかった。
「あら、そうでしたの? 詰まらない殿方ばかりですわね」
肩を竦めるアリーヌの姿を見て、ラングロア公爵は深いため息を吐きながら訊ねる。
「……アリーヌ、まさかとは思うが……楽しんでないよな?」
「それは心外ですわ、お父様♡」
と言いつつも、アリーヌの口元は嬉しそうに緩んでいた。
ラングロア公爵の呼びかけに応じ、アルバンは帯剣を抜く。
しかしそのまま地面へと置くと、おもむろに両拳を握り締めた。
「……あら、あらあら?」
その姿を見やり、アリーヌは思わず口元が緩んでしまう。
「あくまでも、対等な立場で……というわけかしら?」
「いえ、違います」
アリーヌの問いかけに対し、アルバンは首を横に振って否定した。
そして、両拳を胸の位置に構えたまま、己の想いを言葉にして届ける。
「アリーヌ・ラングロア公爵令嬢。貴女は私の妻となる御方です。故に、怪我の一つも負わせることなく、場外へとお連れすることを約束いたします」
そう伝えると、アルバンは握っていた両拳を緩めて腕を下ろす。
その姿はどこからどう見ても無防備だが、アルバンの表情は自信に満ち溢れていた。
その一方、
「……それ、わたくしを倒すよりも、よっぽど難しそうね」
アリーヌは眉を寄せ、酷く詰まらなそうな顔を作っていた。
「はい、確かにそうとも言えます。怪我を負わすことなく場外へとお連れするには、貴女を抱き抱えなければならないかもしれませんので……その無礼、今回だけはお許し願います」
「……構わないわ。できるものならね」
何だろう……?
何かが変わった。よく分からないけど、アリーヌ様の何かが……。
アルバンは、ほんの少しだけ気付いた。
でも、それは完璧とは程遠いものだった。
故に気にせず合図を待った。
決闘の合図を。
既にこの時、アリーヌから愛想を尽かされているとも知らずに……。
「――始めっ!!」
ラングロア公爵が声を上げる。
すると、アルバンは両手を下ろしたままゆっくりとアリーヌの許へ向けて歩み出す。
「さあ、大人しく私に抱き抱えられてください。そして共に場外へと向かいましょう」
それは愛の告白か。
白馬に乗った王子様が、囚われの王女をお姫様抱っこするかのように、アルバンは両手を前に出してアリーヌに触れようとする。だが、
「それ無理」
「え? ――っっっっっ」
たった一言。
そしてグーパン。
それはまさに一瞬の出来事だった。
決闘場の内部で観戦していた他の花婿候補たちは、アルバンが遥か彼方へとぶっ飛ばされていく姿を、顔を上げて見送った。
「うんうん、結構遠くまで飛びましたわね? おかげさまでスッキリしましたわ。さあ、次はどの殿方がわたくしのお相手をしてくださるのかしら……って、あら?」
そして数分後、その全てが決闘場から逃げ出していた。
「お父様、先ほどまでいらした殿方たちはどちらに?」
「全員、帰ったぞ……はぁ」
アリーヌが疑問を投げかけると、父は頭を抱えながら言葉を返した。
それもそのはず、ただのグーパン一つで、アルバンは此処から見えなくなるほど遠くまで飛ばされてしまったのだ。
ちょっとした力自慢の男たちでは、アリーヌの相手になど成り得ない。目の前の事実を受け入れた結果、花婿候補は誰一人残ることがなかった。
「あら、そうでしたの? 詰まらない殿方ばかりですわね」
肩を竦めるアリーヌの姿を見て、ラングロア公爵は深いため息を吐きながら訊ねる。
「……アリーヌ、まさかとは思うが……楽しんでないよな?」
「それは心外ですわ、お父様♡」
と言いつつも、アリーヌの口元は嬉しそうに緩んでいた。
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