上 下
1 / 15

【1】花婿探し、始めますわ!

しおりを挟む
「お父様、わたくし決めました! 結婚相手を探そうと思います!」

 その一言から、アリーヌ・ラングロアの花婿探しは始まった。但し、

「あぁ、わたくしよりも強い殿方が現れるといいのですが……」

 その道のりは、血で血を洗う長い戦の幕開けでもあった。

 お転婆公爵令嬢のアリーヌ・ラングロアは、両親が持ってくる縁談には見向きもせず、お茶会や夜会での誘いにも一切靡くことがなかった。

 理由は単純。
 自分よりも弱い相手と付き合いたくないから。ただそれだけだ。

 アリーヌが幼い頃に読んだ絵本には、ドラゴンに囚われた王女と、白馬に乗った王子様が登場する。王子がドラゴンを倒して王女を救い出すだけの、いわゆる王道の物語だ。

 とはいえ子供心は真っ直ぐで純粋だ。アリーヌはその絵本を読んでからというもの、結婚相手はドラゴンよりも強くなくてはならないと心に決めていた。
 しかしながら、現実でドラゴンを倒すほどの猛者は滅多に現れない。それこそ【勇者】の称号を持つ者や、冒険者の中でもほんの一握りに限られる。

 故に、アリーヌは待つことにした。
 ドラゴンに囚われた王女のように、いつの日か白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるその日を夢見て、己の拳を鍛えながら……。

 そして今現在。
 アリーヌが結婚相手を探すと宣言した翌日、父はラングロア領内にて御触れを出す。

 ――我が娘、アリーヌ・ラングロアと一対一の決闘を行い、見事勝利した者には、結婚を許可する。

 これは何の冗談か。
 可憐で華やか容姿端麗、けれども驕ることなくお淑やかさを兼ね備えた非の打ち所の無い公爵令嬢、それがアリーヌ・ラングロアの人物像だ。

 そのアリーヌと、よもや一対一の決闘を行うなど、誰が想像するだろうか。
 そしてその褒美に当たるものがアリーヌ自身となれば、誰もがラングロア公爵は気が狂ったに違いない、と確信した。

 しかしながら、これは嘘でも偽りでもない。現に御触れは出ているし、公爵邸への門は開かれている。

 ざわつきながらも領民は声を掛け合い、それは領内を越えて伝わり始める。

 おかしな条件ではあったが、もし本当にアリーヌとお近づきになることができるならば、否、結婚することができるのであれば、こんなにも美味しい話はない。

 下級貴族でも、ゴブリンに後れを取る程度の冒険者でも、そこら辺にいるただの村人でさえも、アリーヌと一対一で戦って負けるはずがない。そう思った。そしてアリーヌを手中に収めることができる。公爵家の仲間入りをすることができる。そう思い込んでしまった。

 故に、気付けば大勢の男たちがラングロア邸の敷地内に用意された決闘場へと押し掛けていた。その中には女性も混ざっており、性別の垣根を越えた人気振りだ。

「見てください、お父様! こんなにもたくさんの殿方が、わたくしとの決闘を望んでいるのですね……!」
「うむ、そうだな! こんなにもたくさんの男たちが、お前との結婚を望んで……ん? 今お前、決闘を望んでいると言わなかったか?」
「はあぁ、腕が鳴りますわね!」

 御触れの効果は抜群であり、アリーヌと父は大いに喜んだ。
 だが、二人は気付いていない。

 アリーヌと一対一の決闘で勝利した者が、アリーヌと結婚することができるという唯一無二の条件、これこそが大問題であり、アリーヌの結婚相手を探すには悪手としか言いようがないということに……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

悪役令嬢に転生したので断罪イベントで全てを終わらせます。

吉樹
恋愛
悪役令嬢に転生してしまった主人公のお話。 目玉である断罪イベントで決着をつけるため、短編となります。 『上・下』の短編集。 なんとなく「ざまぁ」展開が書きたくなったので衝動的に描いた作品なので、不備やご都合主義は大目に見てください<(_ _)>

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

処理中です...