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【57】黒い繋がり
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ゼッグは昔話を始めた。
かつて、エイジェーチ家はアウダー・ワーグとかかわったことがある。
アウダー曰く、ホビージャ王家内で派閥争いが始まると。そして第三王子の派閥へと入り、資金援助をしてほしいと話を持ち掛けれた。
王位継承権の順位こそ低いが、第三王子派には多数の貴族が付いており、いずれはホビージャ国の王となる日も近いと評されていた。
それがたとえどの派閥であろうとも、王族との繋がりが生まれることは利益となる。
アウダーは、第三王子派の筆頭に有名な貴族の名を口にしていた。それが事実であれば、もはや盤石とも言えるだろう。
故に、裏の取れない怪しい誘いであることは承知の上で、ゼッグはアウダーの話に乗って資金援助をすることを決めた。
つまり、度々アウダーがエイジェーチ家を訪ねていたのは、資金回収が目的だったのだ。
だがその後、第三王子の派閥が奴隷売買に加担していることがゼッグの耳に入った。
派閥争いに敗れるだけならばまだしも、それが明るみに出てしまえば、エイジェーチ家はお終いだ。
悩んだ末に、ゼッグはアウダーとの関係を断つことを決めた。
資金繰りが上手くいかないと嘘を吐くことで、第三王子派への資金援助を取り止め、徐々に疎遠となる形を作り、アウダーとの縁を切ることに成功した。……そう思っていた。
しかしその後、エイジェーチ家は王家から理不尽な扱いを受けることが増えた。
黒い噂が流れ始めたのも、この頃であった。
「……つまり、エイジェーチ家は身代わりにされたということですね」
話の流れから推測するに、恐らくゼッグは第三王子を裏切った背信者として目を付けられたのだろう。
真偽は定かではないが、アウダー個人が王家に伝手があることは間違いなさそうだ。
「理解できたならば、大人しくしておけ。手を出せば消されるぞ」
敵は強大だ。
奴隷商人を捕まえることで、その流れ自体は止めることができるかもしれない。
だが、その裏に潜む黒幕を逃がしては意味がない。
そしてその黒幕がアウダーではないことが判明した。
この依頼は相当な覚悟を持たなければ達成することができないだろう。
だが、俺の顔色は明るい。
「安心しました。義父さんが根っからの悪人ではないと知ることができて」
ゼッグの理念は、エイジェーチ家の繁栄なのだろう。
そのためならば、たとえ家族であろうとも駒の一つとして利用する。
但し、だからと言って何でもするわけではない。
ゼッグにはゼッグのプライドがあるのだ。
「義父さん、貴方を軽蔑することができればどれほど楽だったか……それだけが残念でなりません」
ロザリーに促し、俺たちは再び席を立つ。
もう、此処には用はない。
「おい、何処に行くつもりだ」
「もちろん、アウダー・ワーグ男爵のところです」
居場所は既に突き止めている。イルリが調べてくれていた。
「リジン、私の話を聞いて何も理解できなかったのか? そんなことをすれば、エイジェーチ家だけでなく、ローグメルツ家にも影響が……」
「ご安心なく。俺たち、結婚していませんので」
そう言って、指輪を外してみせる。ロザリーも同じく。
当然、ゼッグは呆気に取られていたが、お構いなしだ。
ロザリーと俺はゼッグに一礼し、屋敷をあとにした。
※
「良い策だった。助かったよ、ロザリー」
「……ええ」
街路に戻るまでの道中、俺はロザリーに声を掛ける。
これで一つ、依頼達成に近づくことができた。
すると、ロザリーは先ほど外した指輪をまた嵌め直し、ジッと見ながら返事をする。
その横顔は、少しだけ残念そうに見えた。
かつて、エイジェーチ家はアウダー・ワーグとかかわったことがある。
アウダー曰く、ホビージャ王家内で派閥争いが始まると。そして第三王子の派閥へと入り、資金援助をしてほしいと話を持ち掛けれた。
王位継承権の順位こそ低いが、第三王子派には多数の貴族が付いており、いずれはホビージャ国の王となる日も近いと評されていた。
それがたとえどの派閥であろうとも、王族との繋がりが生まれることは利益となる。
アウダーは、第三王子派の筆頭に有名な貴族の名を口にしていた。それが事実であれば、もはや盤石とも言えるだろう。
故に、裏の取れない怪しい誘いであることは承知の上で、ゼッグはアウダーの話に乗って資金援助をすることを決めた。
つまり、度々アウダーがエイジェーチ家を訪ねていたのは、資金回収が目的だったのだ。
だがその後、第三王子の派閥が奴隷売買に加担していることがゼッグの耳に入った。
派閥争いに敗れるだけならばまだしも、それが明るみに出てしまえば、エイジェーチ家はお終いだ。
悩んだ末に、ゼッグはアウダーとの関係を断つことを決めた。
資金繰りが上手くいかないと嘘を吐くことで、第三王子派への資金援助を取り止め、徐々に疎遠となる形を作り、アウダーとの縁を切ることに成功した。……そう思っていた。
しかしその後、エイジェーチ家は王家から理不尽な扱いを受けることが増えた。
黒い噂が流れ始めたのも、この頃であった。
「……つまり、エイジェーチ家は身代わりにされたということですね」
話の流れから推測するに、恐らくゼッグは第三王子を裏切った背信者として目を付けられたのだろう。
真偽は定かではないが、アウダー個人が王家に伝手があることは間違いなさそうだ。
「理解できたならば、大人しくしておけ。手を出せば消されるぞ」
敵は強大だ。
奴隷商人を捕まえることで、その流れ自体は止めることができるかもしれない。
だが、その裏に潜む黒幕を逃がしては意味がない。
そしてその黒幕がアウダーではないことが判明した。
この依頼は相当な覚悟を持たなければ達成することができないだろう。
だが、俺の顔色は明るい。
「安心しました。義父さんが根っからの悪人ではないと知ることができて」
ゼッグの理念は、エイジェーチ家の繁栄なのだろう。
そのためならば、たとえ家族であろうとも駒の一つとして利用する。
但し、だからと言って何でもするわけではない。
ゼッグにはゼッグのプライドがあるのだ。
「義父さん、貴方を軽蔑することができればどれほど楽だったか……それだけが残念でなりません」
ロザリーに促し、俺たちは再び席を立つ。
もう、此処には用はない。
「おい、何処に行くつもりだ」
「もちろん、アウダー・ワーグ男爵のところです」
居場所は既に突き止めている。イルリが調べてくれていた。
「リジン、私の話を聞いて何も理解できなかったのか? そんなことをすれば、エイジェーチ家だけでなく、ローグメルツ家にも影響が……」
「ご安心なく。俺たち、結婚していませんので」
そう言って、指輪を外してみせる。ロザリーも同じく。
当然、ゼッグは呆気に取られていたが、お構いなしだ。
ロザリーと俺はゼッグに一礼し、屋敷をあとにした。
※
「良い策だった。助かったよ、ロザリー」
「……ええ」
街路に戻るまでの道中、俺はロザリーに声を掛ける。
これで一つ、依頼達成に近づくことができた。
すると、ロザリーは先ほど外した指輪をまた嵌め直し、ジッと見ながら返事をする。
その横顔は、少しだけ残念そうに見えた。
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