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【55】婚約破棄の破棄
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ローグメルツ家でメルーネさんとお茶会を堪能してから暫く。
俺たちは再びエイジェーチ家の門前まで足を運んでいた。
「おい、貴様! 止まれ!」
当然と言うべきか、門番に止められてしまう。
俺の姿を見たら追い払うようにと、ホゲットからきつく言われているのだろう。
だが、今回は状況が異なる。
一度目とは違う立場で俺はここに来た。
「ホゲットを呼んでくれ。俺の大切な人を連れてきた」
「大切な人……?」
門番は俺の横に立つロザリーへと目を向ける。
訝しんでいるが、新たな訪問者を前にして、一応報告することを決めたようだ。
渋々といった感じで門番は屋敷へと向かう。
そして再度、ホゲットを門前まで連れてきた。
「ったく! この俺様の手を何度煩わせれば気が済むのだ! ゴミクズ共めが!」
「も、申し訳ございません……」
門番を口うるさく罵り、ホゲットが俺と目を合わせる。それからすぐに、ロザリーへと視線を移した。
「この女はなんだ、貴様のコレか」
そう言って、ホゲットは小指を立てる。
と同時に舌打ちし、唾を吐いた。
「ふん、何度来ても無駄だ。とっとと帰れ!」
一度目と同様に俺を追い払おうとするが、その言葉に従うつもりはない。
俺は左手を顔の前に上げてみせた。その薬指には、黄金色に輝く指輪を嵌めている。
「これは彼女との……ロザリー・ローグメルツとの結婚指輪だ」
その台詞に続けて、ロザリーも薬指に嵌めた指輪をホゲットに見せ付ける。
「は? ……だからなんだ? 貴様らが結婚していようがいまいが俺様には何の関係もないことだ。だからさっさと――」
「分からないのか?」
口を挟む。
「エイジェーチ子爵家の四男であるこの俺が、ローグメルツ伯爵家の令嬢と夫婦になるという意味が、本当に理解できないのか?」
「ローグメルツ……伯爵家だと……!?」
子爵家と伯爵家。
それを聞いて、ようやくホゲットも察したらしい。
「父さんに伝えてくれ。息子が帰ってきたと」
「ぐっ、しかし……」
「そうしなければ後悔することになるぞ」
「っ! ……クソがっ、暫くそこで待っていろ!」
捨て台詞を吐いたあと、ホゲットは憤った足取りで屋敷の中へと戻っていく。
その背を見送り、門番は落ち着かない様子だ。
「第一段階は上手くいったな」
「私の案だもの。当然よ」
小声で言い合い、口元を緩める。
ロザリーと俺の結婚、それはもちろん嘘だ。
この指輪はメルーネの持ち物であり、それを借りただけに過ぎない。つまり、結婚指輪でも何でもない。
しかしこれこそがロザリーの策だった。
十年前にロザリーと俺は婚約を破棄したが、俺たちは互いに想いを寄せていた。そして婚約破棄という困難を乗り越えて結ばれていた。
そして今回、実家へと挨拶に来たという体で、話を通すことにした。
エイジェーチ家としては、過去に失敗した政略結婚が予期せぬ形で成功していたということになる。
この結果、ローグメルツ伯爵家との深い繋がりができたわけだ。
当然、降って湧いた朗報に乗らない手はないだろう。
「父さん、お久しぶりです」
門前で暫く待っていると、父さんがホゲットを従えて姿を現した。
ゼッグ・エイジェーチ子爵――俺の義父であり、育ての親だ。
「……入れ」
ロザリーと俺を一瞥し、一言。
再び屋敷へと戻っていく。
「行こう」
「ええ」
俺はロザリーと共にゼッグの背を追いかける。
ロザリーの策、第二段階の開始だ。
俺たちは再びエイジェーチ家の門前まで足を運んでいた。
「おい、貴様! 止まれ!」
当然と言うべきか、門番に止められてしまう。
俺の姿を見たら追い払うようにと、ホゲットからきつく言われているのだろう。
だが、今回は状況が異なる。
一度目とは違う立場で俺はここに来た。
「ホゲットを呼んでくれ。俺の大切な人を連れてきた」
「大切な人……?」
門番は俺の横に立つロザリーへと目を向ける。
訝しんでいるが、新たな訪問者を前にして、一応報告することを決めたようだ。
渋々といった感じで門番は屋敷へと向かう。
そして再度、ホゲットを門前まで連れてきた。
「ったく! この俺様の手を何度煩わせれば気が済むのだ! ゴミクズ共めが!」
「も、申し訳ございません……」
門番を口うるさく罵り、ホゲットが俺と目を合わせる。それからすぐに、ロザリーへと視線を移した。
「この女はなんだ、貴様のコレか」
そう言って、ホゲットは小指を立てる。
と同時に舌打ちし、唾を吐いた。
「ふん、何度来ても無駄だ。とっとと帰れ!」
一度目と同様に俺を追い払おうとするが、その言葉に従うつもりはない。
俺は左手を顔の前に上げてみせた。その薬指には、黄金色に輝く指輪を嵌めている。
「これは彼女との……ロザリー・ローグメルツとの結婚指輪だ」
その台詞に続けて、ロザリーも薬指に嵌めた指輪をホゲットに見せ付ける。
「は? ……だからなんだ? 貴様らが結婚していようがいまいが俺様には何の関係もないことだ。だからさっさと――」
「分からないのか?」
口を挟む。
「エイジェーチ子爵家の四男であるこの俺が、ローグメルツ伯爵家の令嬢と夫婦になるという意味が、本当に理解できないのか?」
「ローグメルツ……伯爵家だと……!?」
子爵家と伯爵家。
それを聞いて、ようやくホゲットも察したらしい。
「父さんに伝えてくれ。息子が帰ってきたと」
「ぐっ、しかし……」
「そうしなければ後悔することになるぞ」
「っ! ……クソがっ、暫くそこで待っていろ!」
捨て台詞を吐いたあと、ホゲットは憤った足取りで屋敷の中へと戻っていく。
その背を見送り、門番は落ち着かない様子だ。
「第一段階は上手くいったな」
「私の案だもの。当然よ」
小声で言い合い、口元を緩める。
ロザリーと俺の結婚、それはもちろん嘘だ。
この指輪はメルーネの持ち物であり、それを借りただけに過ぎない。つまり、結婚指輪でも何でもない。
しかしこれこそがロザリーの策だった。
十年前にロザリーと俺は婚約を破棄したが、俺たちは互いに想いを寄せていた。そして婚約破棄という困難を乗り越えて結ばれていた。
そして今回、実家へと挨拶に来たという体で、話を通すことにした。
エイジェーチ家としては、過去に失敗した政略結婚が予期せぬ形で成功していたということになる。
この結果、ローグメルツ伯爵家との深い繋がりができたわけだ。
当然、降って湧いた朗報に乗らない手はないだろう。
「父さん、お久しぶりです」
門前で暫く待っていると、父さんがホゲットを従えて姿を現した。
ゼッグ・エイジェーチ子爵――俺の義父であり、育ての親だ。
「……入れ」
ロザリーと俺を一瞥し、一言。
再び屋敷へと戻っていく。
「行こう」
「ええ」
俺はロザリーと共にゼッグの背を追いかける。
ロザリーの策、第二段階の開始だ。
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