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【53】エイジェーチ家
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城下町を暫く歩くと、そこそこ大きな屋敷が姿を現す。これがエイジェーチ家の屋敷だ。
見た目は十年前と全く変わっていないが、屋敷の入口に立つ人物の顔に見覚えは無い。あの門番は俺が家を飛び出したあとに雇われたのだろう。
「一先ず、ここで待っていてくれ。俺一人で行ってみる」
「危なくなったらすぐに合図しなさい。助けに行くから」
「心強いな」
「あたしがボコボコにしてやるね! リジンの親をボコボコに!」
「ノア、レイが暴走しないように頼んだ」
「任せてくれ」
三人を街路に待たせたまま、一人でエイジェーチ家の門扉の前へと歩み寄る。
当然、門番に立ち塞がれてしまった。
「何か御用でしょうか」
「リジンだ。息子が帰ってきたと父さんに伝えてくれ」
「息子……?」
「伝えれば分かる」
「……少々お待ちを」
不審な顔をしながらも、門番は屋敷の中へと入って行く。
そして暫くすると、屋敷から戻ってきた。しかし一人ではない。
門番の後ろを面倒臭そうに歩いてくる人物がいた。
俺はその男のことをよく知っている。
「ホゲット様、こちらの方です」
門番は、屋敷から連れ立った男に状況を説明する。
「ほう? こいつがエイジェーチ家の人間を騙る輩か……ペッ!」
ホゲットと呼ばれた男は、俺と目を合わせて、更にじっくりと頭の先から足の先まで値踏みするように見たあと、詰まらなそうに唾を吐いた。
「知らんな。なんだこの小汚い輩は? コレが我がエイジェーチ家の一員だと貴様は信じたのか?」
「いえ、そんなつもりは……」
「ならばさっさと追い払え!」
門番に怒声を浴びせると、更にもう一つ唾を吐く。
当然、ホゲットは嘘を吐いている。
何故ならば、ホゲットはエイジェーチ家の三男坊であり、俺の一つ上の兄に当たるからだ。
「ホゲット兄さん、俺の顔を忘れたのか」
「チッ、だから知らんと言ってるだろうが!」
声を掛けられ、ホゲットは嫌な表情を隠そうともせずに口を開く。
「いいか! エイジェーチ家は今も昔も三兄弟だ! お前など見たことも喋ったこともない! だから今すぐ消えろ! さもなくばこの場で始末してもいいんだぞ!」
ホゲットが門番に視線を向ける。
と同時に、門番は武器を手に取り、構えてみせる。
「……はぁ、雇い主がコレだと仕事するのも大変だな」
エイジェーチ家の門番に同情するよ。
これ以上は話し合うこともできそうにないので、仕方がないが一時撤退だ。
しっしと追い払われた俺は、三人が待つ街路へと戻った。
「どうだった? 途中、樽みたいな恰好の男が出てきたが……」
「樽……ああ、ホゲットか。アレは俺の兄だ」
「兄? アレがか? ……血の繋がりを全く感じさせないな」
「正解だよ」
驚くノアを褒めて、俺は肩を竦める。
「ダメだった。兄に門前払いされたよ」
両親と話をしたかったのだが、ホゲットの独断でエイジェーチ家の敷居を跨ぐことができなかった。
しかし、このまま黙って引き下がるわけにはいかない。次の策を考える必要があるだろう。
「どうするね? いっそのこと、あたしが屋敷破りしてリジンの父母を見つけ出すのも有りかもしれないね」
「大事になるから止めてくれ」
気持ちは嬉しいが、今はまだ押さえておいてもらいたい。
レイが動くときは、即ち戦闘が始まったときだ。
「次の手は私に任せなさい」
とここで、ロザリーが声を上げる。
「ロザリー、何か案があるのか」
「元々、考えていたことがあるの。だからそれを試してみるわ」
何故だろうか。
その口元は少しだけ上がっているように見えた。
見た目は十年前と全く変わっていないが、屋敷の入口に立つ人物の顔に見覚えは無い。あの門番は俺が家を飛び出したあとに雇われたのだろう。
「一先ず、ここで待っていてくれ。俺一人で行ってみる」
「危なくなったらすぐに合図しなさい。助けに行くから」
「心強いな」
「あたしがボコボコにしてやるね! リジンの親をボコボコに!」
「ノア、レイが暴走しないように頼んだ」
「任せてくれ」
三人を街路に待たせたまま、一人でエイジェーチ家の門扉の前へと歩み寄る。
当然、門番に立ち塞がれてしまった。
「何か御用でしょうか」
「リジンだ。息子が帰ってきたと父さんに伝えてくれ」
「息子……?」
「伝えれば分かる」
「……少々お待ちを」
不審な顔をしながらも、門番は屋敷の中へと入って行く。
そして暫くすると、屋敷から戻ってきた。しかし一人ではない。
門番の後ろを面倒臭そうに歩いてくる人物がいた。
俺はその男のことをよく知っている。
「ホゲット様、こちらの方です」
門番は、屋敷から連れ立った男に状況を説明する。
「ほう? こいつがエイジェーチ家の人間を騙る輩か……ペッ!」
ホゲットと呼ばれた男は、俺と目を合わせて、更にじっくりと頭の先から足の先まで値踏みするように見たあと、詰まらなそうに唾を吐いた。
「知らんな。なんだこの小汚い輩は? コレが我がエイジェーチ家の一員だと貴様は信じたのか?」
「いえ、そんなつもりは……」
「ならばさっさと追い払え!」
門番に怒声を浴びせると、更にもう一つ唾を吐く。
当然、ホゲットは嘘を吐いている。
何故ならば、ホゲットはエイジェーチ家の三男坊であり、俺の一つ上の兄に当たるからだ。
「ホゲット兄さん、俺の顔を忘れたのか」
「チッ、だから知らんと言ってるだろうが!」
声を掛けられ、ホゲットは嫌な表情を隠そうともせずに口を開く。
「いいか! エイジェーチ家は今も昔も三兄弟だ! お前など見たことも喋ったこともない! だから今すぐ消えろ! さもなくばこの場で始末してもいいんだぞ!」
ホゲットが門番に視線を向ける。
と同時に、門番は武器を手に取り、構えてみせる。
「……はぁ、雇い主がコレだと仕事するのも大変だな」
エイジェーチ家の門番に同情するよ。
これ以上は話し合うこともできそうにないので、仕方がないが一時撤退だ。
しっしと追い払われた俺は、三人が待つ街路へと戻った。
「どうだった? 途中、樽みたいな恰好の男が出てきたが……」
「樽……ああ、ホゲットか。アレは俺の兄だ」
「兄? アレがか? ……血の繋がりを全く感じさせないな」
「正解だよ」
驚くノアを褒めて、俺は肩を竦める。
「ダメだった。兄に門前払いされたよ」
両親と話をしたかったのだが、ホゲットの独断でエイジェーチ家の敷居を跨ぐことができなかった。
しかし、このまま黙って引き下がるわけにはいかない。次の策を考える必要があるだろう。
「どうするね? いっそのこと、あたしが屋敷破りしてリジンの父母を見つけ出すのも有りかもしれないね」
「大事になるから止めてくれ」
気持ちは嬉しいが、今はまだ押さえておいてもらいたい。
レイが動くときは、即ち戦闘が始まったときだ。
「次の手は私に任せなさい」
とここで、ロザリーが声を上げる。
「ロザリー、何か案があるのか」
「元々、考えていたことがあるの。だからそれを試してみるわ」
何故だろうか。
その口元は少しだけ上がっているように見えた。
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