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【9】思考を止めろ
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「この依頼……罠か」
依頼掲示板に貼られてあったものを思い出す。
モルサル街からリンツ街へと続く谷あいには、山賊の住処があるらしい。その山賊たちの討伐依頼があったはずだ。
谷あいに潜む山賊たちは、交易馬車を狙うとされていたが、実際にはもっと質が悪かった。
交易馬車と、そこに乗り合わせた客たちが手を組み、冒険者パーティーを騙して護衛を依頼する。そして隙を見て殺し、金品を奪っていたというわけだ。
いつも同じ場所で同じ手口を続けることで、架空の山賊像が出来上がってしまったのだろう。
幌を閉める。そしてすぐ、ロザリーを守るように幌との間に立つ。
このままではまずい。
護衛依頼を受けたパーティーは、既に死んでいる。つまりこの場に俺たちの味方は誰もいないことになる。
すぐに逃げた方がいいだろう。
否、外に出た瞬間に一斉攻撃を受けるのは目に見えている。
では、どうする?
油断していると見せかけて、その隙を突いて数名でも倒した方が逃げやすくなるだろうか。二人揃って生き残るには、それが無難な案かもしれない。
「ロザリー」
「貴方に従うわ」
名を呼んだ。するとロザリーは、何も聞かずとも理解し、俺の考えを察してくれた。右手には杖を持ち、呪文を唱え始める。
「……聞こえるぞ」
耳をすます。
護衛が全員死んだのを確認し終えたのだろう。数名分の足音がこちらへと近づいてくるが、幌を挟んだ向こう側で音が止まった。
無論、幌側だけではない。
小窓を挟んだ両側にも二名ずつ移動する足音が聞こえる。
もうすぐだ。
幌が開いた瞬間、馬車内から勢いよく駆け出そう。
奴らが驚いている隙に、一人か二人、息の根を止めておきたい。
両側の奴らのことは、この際無視しても構わないだろう。ロザリーが逃げる道を作る。それが優先事項だ。
逃げ切ることができなくとも、ロザリーの魔法がある。これで更に一泡吹かせることができるはずだ。
再びできた隙を見て、残る数名を行動不能にする。
さあ、奴らが動くよりも先に始めよう。
そう思って、腰に差した短剣を二つ引き抜き、両手に持って構えたところで、ロザリーの小さな声が耳に届いた。
「退いて」
「え?」
――刹那、馬車内が赤に染まった。
ロザリーが火炎魔法をぶっ放したのだ。
「お……おぉ」
幌側が焼け焦げ、半壊状態になっている。
思考する時間が無駄だと言わんばかりの一撃に、俺は目を丸くした。
だが、驚いている暇はない。相手は冒険者殺しだ。目を丸くする暇があるなら、手足を動かすべきだ。
俺は思考を止め、すぐさま馬車の外へと飛び出した。
と同時に、腰を抜かして尻餅を突いた奴の喉首に狙いを定める。そして躊躇うことなく短剣を突き立てた。
「ぐっ、……が、がっ」
苦悶の表情が、俺の顔を見る。
しかし言葉を交わすことは無い。こいつは今この瞬間を以って死を迎えるのだからな。
依頼掲示板に貼られてあったものを思い出す。
モルサル街からリンツ街へと続く谷あいには、山賊の住処があるらしい。その山賊たちの討伐依頼があったはずだ。
谷あいに潜む山賊たちは、交易馬車を狙うとされていたが、実際にはもっと質が悪かった。
交易馬車と、そこに乗り合わせた客たちが手を組み、冒険者パーティーを騙して護衛を依頼する。そして隙を見て殺し、金品を奪っていたというわけだ。
いつも同じ場所で同じ手口を続けることで、架空の山賊像が出来上がってしまったのだろう。
幌を閉める。そしてすぐ、ロザリーを守るように幌との間に立つ。
このままではまずい。
護衛依頼を受けたパーティーは、既に死んでいる。つまりこの場に俺たちの味方は誰もいないことになる。
すぐに逃げた方がいいだろう。
否、外に出た瞬間に一斉攻撃を受けるのは目に見えている。
では、どうする?
油断していると見せかけて、その隙を突いて数名でも倒した方が逃げやすくなるだろうか。二人揃って生き残るには、それが無難な案かもしれない。
「ロザリー」
「貴方に従うわ」
名を呼んだ。するとロザリーは、何も聞かずとも理解し、俺の考えを察してくれた。右手には杖を持ち、呪文を唱え始める。
「……聞こえるぞ」
耳をすます。
護衛が全員死んだのを確認し終えたのだろう。数名分の足音がこちらへと近づいてくるが、幌を挟んだ向こう側で音が止まった。
無論、幌側だけではない。
小窓を挟んだ両側にも二名ずつ移動する足音が聞こえる。
もうすぐだ。
幌が開いた瞬間、馬車内から勢いよく駆け出そう。
奴らが驚いている隙に、一人か二人、息の根を止めておきたい。
両側の奴らのことは、この際無視しても構わないだろう。ロザリーが逃げる道を作る。それが優先事項だ。
逃げ切ることができなくとも、ロザリーの魔法がある。これで更に一泡吹かせることができるはずだ。
再びできた隙を見て、残る数名を行動不能にする。
さあ、奴らが動くよりも先に始めよう。
そう思って、腰に差した短剣を二つ引き抜き、両手に持って構えたところで、ロザリーの小さな声が耳に届いた。
「退いて」
「え?」
――刹那、馬車内が赤に染まった。
ロザリーが火炎魔法をぶっ放したのだ。
「お……おぉ」
幌側が焼け焦げ、半壊状態になっている。
思考する時間が無駄だと言わんばかりの一撃に、俺は目を丸くした。
だが、驚いている暇はない。相手は冒険者殺しだ。目を丸くする暇があるなら、手足を動かすべきだ。
俺は思考を止め、すぐさま馬車の外へと飛び出した。
と同時に、腰を抜かして尻餅を突いた奴の喉首に狙いを定める。そして躊躇うことなく短剣を突き立てた。
「ぐっ、……が、がっ」
苦悶の表情が、俺の顔を見る。
しかし言葉を交わすことは無い。こいつは今この瞬間を以って死を迎えるのだからな。
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