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【39話】え、もっといい部屋に移るんですか?

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 冒険者ギルドに戻ってきたノアとロイルの二人は、受付嬢にウォーウルフ五体分の魔石を渡した。
 クエストを貼りに行った職員から話を聞いていたのだろう。受付嬢は驚きの表情を浮かべている。

「ウォーウルフ五体を、お二人で倒されるとは……」

 驚くのも無理はない。
 ウォーウルフの危険度はゴブリンやコボルトよりも高く、たった二人で倒し切るのは至難の業と言えよう。それもただの二人ではない。
 一人は元いたパーティーをクビになった女性。
 そしてもう一人は、先日冒険者登録を済ませたばかりの青年だ。

 だが、この二人はパーティー結成初日にゴブリンを十体以上倒してみせた。
 それだけでなく、今度はウォーウルフの群れも……。

「では、こちらが今回の報酬になります。お納めください」

 受付嬢から、クエストの報酬を受け取る。
 その額、なんと銀貨十五枚。

「一体につき、銀貨三枚か……まあまあかな?」

 ゴブリンの三倍の値がついたことに納得し、ロイルはノアと手を繋いで受付を後にする。
 行く先は二人が寝泊まりする宿部屋だ。

 扉を開けて室内に入る。
 汚れを払い、ベッドに腰掛けると、互いに顔を見合わせて笑う。

「この部屋の宿泊代が、二人で一泊、銀貨一枚か……」

 今回の報酬は、銀貨十五枚。
 互いに銀貨七枚ずつを取り、残った一枚で美味しいものを食べることを決めた。
 だが、それとは別に、ロイルはもう一つ提案を持ち掛ける。

「ノア、よかったらだけど、もう一つ豪華な部屋を借りない?」
「え、部屋を……?」

 ロイルの提案は、一つ上の位の部屋を借りるというものだった。
 確かにノアとロイルの腕があり、二人が共に協力し合い冒険を続けるのであれば、銀貨と言わず大銀貨、金貨、そして大金貨だって稼ぐことが出来るかもしれない。

「わたしは構わないよ。……あ、でも」

 但し、ノアにはどうしても譲れない部分があった。
 それを恥ずかしそうに口にする。

「ベッドは……くっついてる方がいい、な」

 ほんの少しの距離でも、ロイルと離れたくない。
 そんなことを考えてしまい、それが言葉として紡がれてしまった。
 すると、ロイルは意地悪そうな笑みを浮かべて、ノアの顔を覗き込む。

「だったらさ、同じベッドに寝る?」
「ッ!! ――そ、それはダメッ!!」

 さすがにそれはまずい。
 何がまずいのかはっきりとは言えないが、もしそんなことをすれば、自分はきっとおかしくなってしまうだろう。ノアはそう思った。

「分かったよ」

 喉を鳴らして笑いをこらえたまま、ロイルはノアの両手を掴み、優しく擦る。そして、

「気が変わったら言ってね? 僕はいつでも大歓迎だから」
「っっっ」

 すぐにまたからかわれた。
 ノアは頬を膨らませてそっぽを向く。

「よし、善は急げだ。早速宿部屋の変更を伝えに行こう」
「もう、ロイルはいつもわたしをからかうんだから……」

 ベッドから立ち上がり、ロイルは部屋の外に出る。
 その背中を見ながら、ノアは安心したかしていないかのような溜息を吐く。

「――本気なんだけどなあ」

 ぽつりと呟いたロイルの言葉は、残念ながらまだノアの耳には届いていなかった。
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