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【24話】敬語は無しで、と言われてしまいました
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宿部屋を出て朝食を済ませたノアとロイルは、ギルドの談話室でソファに腰掛け、今日の予定を再確認する。
「今日はまず、ノアの魔力量の底上げから始めよう。それが終わったら、丁度良さそうなクエストの受注だね」
「はい。えっと……よろしくお願いします」
ノアは自分の手をロイルの前へと伸ばす。その手を優しく握るロイルは、【隠蔽】と【魔眼】、二つのスキルを同時に発動した。
「それじゃあ、始めるよ」
ノアの身体の奥底に眠る魔力を人為的に起こし、引っ張り出す。魔力の流れを視て、実際に動かすことが可能なロイルだからこそ出来る芸当だ。
ロイルの【魔眼】のおかげで、昨日一日だけでノアの魔力量はゼロから十マナへと増えた。そして今日もまた、魔力量を増やすことが出来る。
ノアは、ワクワクが止まらなかった……だが、
「――あっ、あの、ちょっと止めてください」
ロイルが【魔眼】スキルを発動し、ノアの中に眠る魔力を起こそうとする。しかしその瞬間、急激な眩暈と頭痛がノアを襲う。一気に汗が溢れ出し、呼吸するのも一苦労な状態へと陥ってしまった。
「ごめん、ノア。無理させすぎたかも……」
具合が悪そうなノアの姿を見て、ロイルは【魔眼】を解く。但し、手は握ったまま、不安そうな表情でノアの様子を窺う。
「い、いえ……大丈夫です。ロイルのせいじゃありませんから……」
せっかくロイルが【魔眼】を使って魔力量の底上げをしてくれているのだ。それを中断するだなんてとんでもない。
多少の辛さは我慢すればいい。強くなるために必要なことなのだから、この程度で弱音を吐いていては冒険者などやっていけないだろう。しかし、
「……まだ途中だけど、今日の計画は白紙にしよう」
「え」
「僕も少し、急ぎすぎたみたいだ。ノアが強くなるのが嬉しくて、つい調子に乗ってしまったよ……ごめん」
「そんなっ、ロイルは謝らないでください、わたしが弱いのが原因なんですから……ッ」
「それは違うよ、ノア」
ノアの手を握ったまま、ロイルは横に首を振る。【魔眼】ではない普通の瞳で、目を合わせた。
「ノアはさ、僕が出会った人の中で一番強い。恐らくそれはこれから先も変わることはないと思う。……でも、強いからといって、何でも出来るわけじゃない」
無理はさせない。
ノアに出来る無理のないペースで魔力量を増やしていけばいいのだ。
「だからノア、きつい時はきついと言って。僕たちは仲間なんだからね」
「……うぅ、分かりました」
ゆっくりと呼吸を整え、ノアは頷いた。
暫く間を空けてから、ロイルが口を開く。
「じゃあ、今日は丸一日ゆっくりしよう。稼ぎは昨日の分があるから問題ないし」
ニコリと笑い、ロイルは席を立つ。
そして何をしようかと再び思案顔になり、すぐに閃く。
「何か美味しいものを買ってくるよ。宿は同じ部屋を取っておくから、ノアは休んでて」
「ありがとうございます、ロイル……」
「ああそれと」
受付に行こうとするロイルは、振り返ってノアの顔を見る。
「そろそろ、敬語は無しで。いいね、ノア?」
「え、ええっ? そんな急に言われても……」
「難しい?」
「難しいです……」
「そっか。でもダメだよ。名前だって呼び捨てに出来るんだから、これぐらいは出来ないとね?」
「……ロイルって、結構意地悪ですよね」
「あれ? やっと気づいたの?」
おどけるように肩を竦め、ロイルは口元を緩める。
その姿を見たノアもまた、おかしくて笑みをこぼした。
「それで、ノアは何か食べたいもののリクエストはある?」
「リクエスト……ううん」
「無いの? それなら僕が適当に買ってきちゃうけど」
ノアは席を立ち、ロイルの手を自ら握る。
その行動に少し驚いたロイルだったが、何をしたいのかを理解した。
「お留守番は寂しいから、ロイルと一緒に行きたい」
「体調は大丈夫?」
「うん、散歩するぐらいなら平気。だからついて行ってもいい?」
ノアのお願いに、ロイルは嬉しそうに笑う。
そして一言、
「それじゃあ、今日は一日デートってことで」
「デ、……デート、かぁ……」
その言葉を前に、ノアは案の定、顔が赤くなるのであった。
「今日はまず、ノアの魔力量の底上げから始めよう。それが終わったら、丁度良さそうなクエストの受注だね」
「はい。えっと……よろしくお願いします」
ノアは自分の手をロイルの前へと伸ばす。その手を優しく握るロイルは、【隠蔽】と【魔眼】、二つのスキルを同時に発動した。
「それじゃあ、始めるよ」
ノアの身体の奥底に眠る魔力を人為的に起こし、引っ張り出す。魔力の流れを視て、実際に動かすことが可能なロイルだからこそ出来る芸当だ。
ロイルの【魔眼】のおかげで、昨日一日だけでノアの魔力量はゼロから十マナへと増えた。そして今日もまた、魔力量を増やすことが出来る。
ノアは、ワクワクが止まらなかった……だが、
「――あっ、あの、ちょっと止めてください」
ロイルが【魔眼】スキルを発動し、ノアの中に眠る魔力を起こそうとする。しかしその瞬間、急激な眩暈と頭痛がノアを襲う。一気に汗が溢れ出し、呼吸するのも一苦労な状態へと陥ってしまった。
「ごめん、ノア。無理させすぎたかも……」
具合が悪そうなノアの姿を見て、ロイルは【魔眼】を解く。但し、手は握ったまま、不安そうな表情でノアの様子を窺う。
「い、いえ……大丈夫です。ロイルのせいじゃありませんから……」
せっかくロイルが【魔眼】を使って魔力量の底上げをしてくれているのだ。それを中断するだなんてとんでもない。
多少の辛さは我慢すればいい。強くなるために必要なことなのだから、この程度で弱音を吐いていては冒険者などやっていけないだろう。しかし、
「……まだ途中だけど、今日の計画は白紙にしよう」
「え」
「僕も少し、急ぎすぎたみたいだ。ノアが強くなるのが嬉しくて、つい調子に乗ってしまったよ……ごめん」
「そんなっ、ロイルは謝らないでください、わたしが弱いのが原因なんですから……ッ」
「それは違うよ、ノア」
ノアの手を握ったまま、ロイルは横に首を振る。【魔眼】ではない普通の瞳で、目を合わせた。
「ノアはさ、僕が出会った人の中で一番強い。恐らくそれはこれから先も変わることはないと思う。……でも、強いからといって、何でも出来るわけじゃない」
無理はさせない。
ノアに出来る無理のないペースで魔力量を増やしていけばいいのだ。
「だからノア、きつい時はきついと言って。僕たちは仲間なんだからね」
「……うぅ、分かりました」
ゆっくりと呼吸を整え、ノアは頷いた。
暫く間を空けてから、ロイルが口を開く。
「じゃあ、今日は丸一日ゆっくりしよう。稼ぎは昨日の分があるから問題ないし」
ニコリと笑い、ロイルは席を立つ。
そして何をしようかと再び思案顔になり、すぐに閃く。
「何か美味しいものを買ってくるよ。宿は同じ部屋を取っておくから、ノアは休んでて」
「ありがとうございます、ロイル……」
「ああそれと」
受付に行こうとするロイルは、振り返ってノアの顔を見る。
「そろそろ、敬語は無しで。いいね、ノア?」
「え、ええっ? そんな急に言われても……」
「難しい?」
「難しいです……」
「そっか。でもダメだよ。名前だって呼び捨てに出来るんだから、これぐらいは出来ないとね?」
「……ロイルって、結構意地悪ですよね」
「あれ? やっと気づいたの?」
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「それで、ノアは何か食べたいもののリクエストはある?」
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「うん、散歩するぐらいなら平気。だからついて行ってもいい?」
ノアのお願いに、ロイルは嬉しそうに笑う。
そして一言、
「それじゃあ、今日は一日デートってことで」
「デ、……デート、かぁ……」
その言葉を前に、ノアは案の定、顔が赤くなるのであった。
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