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【12話】実はわたし、魔力の総量が世界最高レベルのようです
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――エレズニア皇国。それがノアとロイルの二人が住む国の名前だ。
王都の中心に位置する冒険者ギルドは、国の内外から数えきれないほどの人々が足を運ぶ。ギルドで働く職員は勿論、冒険者や行商人、エレズニアの国兵等々……。
故に、ここは広い。
百名以上が楽に入ることの出来るロビーには、受付やクエスト掲示板が設置されており、他にも飲食可能な談話室に、汚れを落とすのに必要なギルド浴場、そして冒険者専用の宿部屋が存在している。
その一角、ボドとエリーザの二人とよく顔を合わせるのに使用していた場所――談話室の中に、ノアとロイルの姿はあった。
「まずは、互いのスキルを教え合おう」
フカフカのソファに腰を下ろしたロイルが、口を開く。
「賛成です。……ただ、その、」
その提案には何も反論することはない。
互いが持つスキルを理解し合うことで、戦闘時の立ち回り方を確立することが可能であると考えたからだ。
しかし、そんなことよりももっと大事な点が一つ。
「ち、近すぎません……か? その、隣通しに座らなくても……」
「そう? だってこの方が話し易いし」
「ッ、……それはそうかもしれませんけどっ」
ノアとロイルは、二人用ソファに仲良く腰掛けている。
肩が触れ合うほどの距離感であり、横を向くとすぐ近くにロイルの顔がある状態だ。
「あとさ、この方が見せやすいんだよね」
「え?」
「僕のスキルのこと」
ノアの緊張を和らげようと、ロイルが優しく微笑む。
そして左手の人差し指と中指を立てる。
「【魔眼】と【隠蔽】、これが僕の持つ二つのスキルだよ」
「ま……【魔眼】? ですか? それって、どのようなスキルなんでしょうか? あとそれと【隠蔽】も……」
ロイルの所持スキルを聞いたノアは、小首を傾げる。
それは、どちらも聞き覚えの無いスキルだった。
「【隠蔽】はその名の通り、好きなものを隠すことが出来るスキルだね。例えば、僕が持ってるスキルを他の人が調べようとしても、このスキルの効果で隠し通すことが出来るんだ」
「スキルを隠せる……凄いですね、色んなことに応用出来そう」
このスキルのおかげで、ロイルはもう一つのスキルを誰にも知られずに今日まで生きることが出来た。そしてノアが言うように、様々な使い方が可能であり、凡庸性に優れたスキルである。
「で、【魔眼】については実際に見せた方が早いから――」
「えっ、……あっ!?」
言われて、ノアはロイルの目を見た。
と同時に、声が漏れる。
「目が、白くなってます……」
ノアの言葉の通り、ロイルの両目は白へと染まっていた。
「【魔眼】スキルを発動中、僕の目は白くなっちゃうんだ。実はこれも【隠蔽】で隠すことが出来るんだけど、ノアに見てもらう為だから、今は使ってないよ」
真っ白な瞳が、ノアの目を見つめる。
視線を外すことなく、ロイルはそのまま話を続ける。
「【魔眼】を発動してる時、僕はこの世に存在する全ての魔力の流れを瞳に捉えることが出来る」
「魔力の……流れ、ですか?」
魔力は、スキルを使用する際に必要となるものであり、目には見えない。
故に、魔力の流れを捉えると言われても、ノアは何が何やらサッパリであった。
「たとえば、あそこに座ってる人や、受付にいたギルド職員の人、彼等の内に秘められた魔力がどのぐらいあるのか、この目で視るだけで分かるんだ。勿論、ノアの魔力もね」
「わたしのも……そ、それなら一つ聞いてもいいですか?」
「なに? 何でも言ってよ」
「わ、わたしの魔力量って、やっぱりゼロなんでしょうか……」
「ノアの魔力量? ゼロだよ」
「……そう、ですよね」
あっさりと、何でもないことのように告げる。
分かっていたことだが、ノアはロイルの言葉に落胆した。しかし、
「で、それとは別に、眠ってる分の魔力を合わせた総量の方なんだけど」
「え?」
真っ白な瞳をノアに向けるロイルは、くくっと喉を鳴らして笑う。
「ちょっと魔力が多すぎて数値化するのが面倒なんだよね……だから敢えて言うなら、一万以上ってところかなあ」
「……一万以上? あの、私の魔力量はゼロって言いましたよね?」
「うん、言った。でもそれは今使える魔力量がゼロってことで、総量とは別だよ」
わざわざスキルを発動して魔力量を測ってくれたのだ。冗談ではないのだろう。
だが、マナが万を超えるというのは、言いすぎな気もする。それが事実であれば、世界最高レベルだ。それにノアには聞き覚えの無い言葉が一つ。
「魔力総量……って、魔力量とは違うんですか?」
「似て非なるものだね」
ノアの疑問に、ロイルは一つずつ丁寧に説明していく。
人は生まれながらに魔力を持ち、それは成長すると共に量が増えていく。
魔力量が五マナの冒険者が、経験を積むことで更に三マナ増えた場合、その冒険者の魔力量は八マナとなる。
世界共通認識として、その人物が現在使用可能な魔力のことを「魔力量」と称しているのだ。
そしてロイルは、魔力量とは別に「魔力総量」という言葉を用いる。
その人物が現在使用可能な魔力は、あくまでただの量であり、総量ではない。
成長する過程で増えるであろう全ての魔力、つまり今はまだ眠っている分の魔力を含めたものを、魔力総量と呼んでいた。
ノアは生まれつき魔力ゼロだ。それは冒険者になった今も変わらない。
では何故、魔力を必要とするスキルを覚えることが出来たのか。ずっと疑問に感じていた。
そして今、ロイルがその答えを「魔力総量」という形で示そうとしている。
「そうだなあ……こうすれば分かりやすいかも」
「ッ!?」
不意に、手を握られる。またしてもロイルが、ノアの手を取ったのだ。
驚きと恥ずかしさに肩を竦めるが、それもすぐ別のものにとって代わることとなる。
王都の中心に位置する冒険者ギルドは、国の内外から数えきれないほどの人々が足を運ぶ。ギルドで働く職員は勿論、冒険者や行商人、エレズニアの国兵等々……。
故に、ここは広い。
百名以上が楽に入ることの出来るロビーには、受付やクエスト掲示板が設置されており、他にも飲食可能な談話室に、汚れを落とすのに必要なギルド浴場、そして冒険者専用の宿部屋が存在している。
その一角、ボドとエリーザの二人とよく顔を合わせるのに使用していた場所――談話室の中に、ノアとロイルの姿はあった。
「まずは、互いのスキルを教え合おう」
フカフカのソファに腰を下ろしたロイルが、口を開く。
「賛成です。……ただ、その、」
その提案には何も反論することはない。
互いが持つスキルを理解し合うことで、戦闘時の立ち回り方を確立することが可能であると考えたからだ。
しかし、そんなことよりももっと大事な点が一つ。
「ち、近すぎません……か? その、隣通しに座らなくても……」
「そう? だってこの方が話し易いし」
「ッ、……それはそうかもしれませんけどっ」
ノアとロイルは、二人用ソファに仲良く腰掛けている。
肩が触れ合うほどの距離感であり、横を向くとすぐ近くにロイルの顔がある状態だ。
「あとさ、この方が見せやすいんだよね」
「え?」
「僕のスキルのこと」
ノアの緊張を和らげようと、ロイルが優しく微笑む。
そして左手の人差し指と中指を立てる。
「【魔眼】と【隠蔽】、これが僕の持つ二つのスキルだよ」
「ま……【魔眼】? ですか? それって、どのようなスキルなんでしょうか? あとそれと【隠蔽】も……」
ロイルの所持スキルを聞いたノアは、小首を傾げる。
それは、どちらも聞き覚えの無いスキルだった。
「【隠蔽】はその名の通り、好きなものを隠すことが出来るスキルだね。例えば、僕が持ってるスキルを他の人が調べようとしても、このスキルの効果で隠し通すことが出来るんだ」
「スキルを隠せる……凄いですね、色んなことに応用出来そう」
このスキルのおかげで、ロイルはもう一つのスキルを誰にも知られずに今日まで生きることが出来た。そしてノアが言うように、様々な使い方が可能であり、凡庸性に優れたスキルである。
「で、【魔眼】については実際に見せた方が早いから――」
「えっ、……あっ!?」
言われて、ノアはロイルの目を見た。
と同時に、声が漏れる。
「目が、白くなってます……」
ノアの言葉の通り、ロイルの両目は白へと染まっていた。
「【魔眼】スキルを発動中、僕の目は白くなっちゃうんだ。実はこれも【隠蔽】で隠すことが出来るんだけど、ノアに見てもらう為だから、今は使ってないよ」
真っ白な瞳が、ノアの目を見つめる。
視線を外すことなく、ロイルはそのまま話を続ける。
「【魔眼】を発動してる時、僕はこの世に存在する全ての魔力の流れを瞳に捉えることが出来る」
「魔力の……流れ、ですか?」
魔力は、スキルを使用する際に必要となるものであり、目には見えない。
故に、魔力の流れを捉えると言われても、ノアは何が何やらサッパリであった。
「たとえば、あそこに座ってる人や、受付にいたギルド職員の人、彼等の内に秘められた魔力がどのぐらいあるのか、この目で視るだけで分かるんだ。勿論、ノアの魔力もね」
「わたしのも……そ、それなら一つ聞いてもいいですか?」
「なに? 何でも言ってよ」
「わ、わたしの魔力量って、やっぱりゼロなんでしょうか……」
「ノアの魔力量? ゼロだよ」
「……そう、ですよね」
あっさりと、何でもないことのように告げる。
分かっていたことだが、ノアはロイルの言葉に落胆した。しかし、
「で、それとは別に、眠ってる分の魔力を合わせた総量の方なんだけど」
「え?」
真っ白な瞳をノアに向けるロイルは、くくっと喉を鳴らして笑う。
「ちょっと魔力が多すぎて数値化するのが面倒なんだよね……だから敢えて言うなら、一万以上ってところかなあ」
「……一万以上? あの、私の魔力量はゼロって言いましたよね?」
「うん、言った。でもそれは今使える魔力量がゼロってことで、総量とは別だよ」
わざわざスキルを発動して魔力量を測ってくれたのだ。冗談ではないのだろう。
だが、マナが万を超えるというのは、言いすぎな気もする。それが事実であれば、世界最高レベルだ。それにノアには聞き覚えの無い言葉が一つ。
「魔力総量……って、魔力量とは違うんですか?」
「似て非なるものだね」
ノアの疑問に、ロイルは一つずつ丁寧に説明していく。
人は生まれながらに魔力を持ち、それは成長すると共に量が増えていく。
魔力量が五マナの冒険者が、経験を積むことで更に三マナ増えた場合、その冒険者の魔力量は八マナとなる。
世界共通認識として、その人物が現在使用可能な魔力のことを「魔力量」と称しているのだ。
そしてロイルは、魔力量とは別に「魔力総量」という言葉を用いる。
その人物が現在使用可能な魔力は、あくまでただの量であり、総量ではない。
成長する過程で増えるであろう全ての魔力、つまり今はまだ眠っている分の魔力を含めたものを、魔力総量と呼んでいた。
ノアは生まれつき魔力ゼロだ。それは冒険者になった今も変わらない。
では何故、魔力を必要とするスキルを覚えることが出来たのか。ずっと疑問に感じていた。
そして今、ロイルがその答えを「魔力総量」という形で示そうとしている。
「そうだなあ……こうすれば分かりやすいかも」
「ッ!?」
不意に、手を握られる。またしてもロイルが、ノアの手を取ったのだ。
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