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【1話】魔力ゼロと判明した途端、婚約を破棄されました

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 雨の止まない、ある日のこと。

 ノア=アルゴールは、婚約者に己の秘密を打ち明けた。
 そして返ってきた言葉は……

『ノア。悪いけど、きみとの婚約は破棄させてもらうよ』

     ※

 生まれつき、ノアは魔力がゼロだった。
 侯爵位を授かるアルゴール家の者たちは、誰もが高い魔力を有しており、長女であるノアも両親の期待を一身に背負っていた。

 同じく侯爵位のホルストン家の嫡男――モルドアとの婚約が決まり、両家は固い絆で結ばれることとなった。

 だが、ノアが歳を重ねるにつれ、両親たちは次第に焦り始める。
 それもそのはず、ノアの魔力量が一向に増えず、ゼロのままだったからだ。

『何故だ? 何故お前は魔力がゼロなのだ? それでも私の娘か?』

 父の言葉に、ノアは頭を下げることしか出来ない。
 魔力量を増やす為、私設兵を引き連れ魔物狩りに励んだのは、一度や二度ではない。
 それでも結果は空しかった。

 暫くすると、魔力がゼロであることを、ノアは両親から伏せておくように命じられた。
 もし、ホルストン家の耳に入れば、ノアとモルドアの婚約が破談になるかもしれないからだ。

 けれどもノアは、隠し事をしたまま結ばれることを望まなかった。
 己の秘密――魔力ゼロであることをモルドアに打ち明け、全てを受け入れてもらおうと考えた。

 しかし結果は、婚約破棄。

 元々、これは政略的な婚約であった。
 アルゴール家は、王家とのパイプを持つホルストン家との関係を強固とする為に。
 逆にホルストン家は、高い魔力量を有するアルゴール家の血を加え、地位を盤石のものとする為に。

 だからこれは、当然の結末だ。魔力がゼロのノアには、何の価値もない。

 雨に打たれながら岐路に着いたノアは、モルドアとの婚約を破棄された旨を両親へと伝える。すると、唯一の価値を失くしたモノを見るかのような視線をぶつけられ、一言。

『失せろ、この出来損ないが』

 その台詞を最後に、ノアはアルゴール家を追放されることとなった。

     ※

 雨はまだ止まない。降り続いている。
 とはいえ、ノアの胸は躍っていた。口元には笑みを浮かべている。

 アルゴール家を追放されたノアだが、己の境遇に悲観はしなかった。
 政略結婚の駒として利用されることは無くなり、その呪縛から解放された今、新たな一歩を踏み出す良い機会なのだ。

 魔力ゼロのノアが、誰にも言わずに秘密にしていた将来の夢がある。
 それは、賢者になることだ。

 アルゴール家の屋敷には数多くの書物があり、中には冒険譚も含まれる。
 それを目にして、文字を読み進め、冒険の世界に焦がれた。
 幾つもの魔法を扱う賢者に、憧れた。

 魔力ゼロでも冒険者になることは出来る。そしていつの日か、賢者になってみせる。
 その思いを胸に抱きながら、ノアは単身、王都を目指すことにした。
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