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【107】

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 皇城の一室に案内された二人は、テーブル上に置かれたものに目を落とす。

「お城で豆菓子が出るだなんて、なんだか珍しいわね」

 淹れ立てのお茶と豆菓子で持て成されたナーナルは、ぽつりと呟く。
 その手は既に豆菓子を取ろうか取るまいかと揺れていた。

「デイルが姿を見せるまで、まだ時間がかかるだろう。それにお茶もある。冷める前に手を付けた方がいい」

 自分から呼び出しておいて、顔を見せるまでに時間をかける。皇族というのはそういうものだとエレンが言うと、ナーナルが納得する。

「そうよね、それじゃあいただこうかしら」

 まずはお茶を一口。それから豆菓子を一粒、手に取ってみる。
 一つ一つ形が綺麗に整っているわけではないので、見た目はそれほど良くはない。だが、鼻を近づけると、仄かに甘い香りがする。

「ん……、甘いわね」

 口に入れて舌の上で転がしてみる。豆菓子の表面上を砂糖か何かで覆っているのだろう。固さはなかなかのもので、奥歯で挟んで噛んでみると、頭に響く音を立てて割れた。
 隣を見ると、エレンが豆菓子を食べながら小さく頷いている。その様子だと、どうやら気に入ったらしい。

「いやいや、遅れてすまんのう」
「っ、陛下……!」

 部屋の扉が開くと同時に、皇城の主がようやく姿を現す。デイル・タスピールだ。

「久しぶりじゃな、招待祭での食事会以来だったかの」
「お、お久しぶりでございます。本日はお招きいただきまして――」
「よいよい。堅苦しいのは無しにして、寛ぐといい。ぬしの隣におる男のようにな」

 言われて、ナーナルは隣に目を向ける。
 デイルが姿を見せてもなお、エレンは豆菓子を食べる手を止めない。

「ちょっと、エレン……」
「別に畏まる相手じゃない。だよな、デイル」

 一国の皇の名を呼び捨てるエレンに、ナーナルが息を呑む。
 しかし、デイルはその通りだと返事をする。

「ぬしらには、返しきれんほどの貸しを作った。それをどうすれば返すことができるのかと考えておったが、あの日、エレンに言われてな」

 対等の立場を求める、と。
 それは皇族になりたいだとか爵位がほしいといったものではなく、単に対等に話せる相手としてデイルを求めるといったものだった。

 カロック商会との全面対決に勝利し、ローマリアを救った英雄とまで言われるようになった二人には、エレンの幼馴染のロニカや、ルベニカ商会の商長ゼントなど、無条件で手助けしてくれる仲間がいる。
 だが、それでも二人がこの地に根付くまでにはまだまだ時間がかかる。

 その点、デイルと対等な立場から意見をぶつけ合える関係というのは、実に魅力的なものであった。

 ローマリアを建国したのは、他ならぬデイルであり、恐らくはこの国の誰よりもこの地を愛し、熟知している存在だ。

 一方的に命令するわけでも、味方になるわけでもない。
 言うなれば、友達同士のような関係になったというわけだ。

「だから俺はデイルに対しても話し方を変えないことにした」

 友達想いの男じゃのう、と肩を竦めて笑うデイルを無視して、エレンはお茶を飲む。
 二人のやり合いに呆気に取られたナーナルだが、これはこれで二人の素が表に出て、いいのかもしれない、と思った。だが、

「もちろん、ぬしもエレンと同じように話してよいからのう、ナーナル」
「それは無理です!」

 と、キッパリ断りを入れるナーナルであった。
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