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ナーナルとエレン、そしてロニカの三人は、北部地区の中心地に移動し、例の土地へと向かった。すると貸本喫茶の建設予定地に、材料を運ぶ人たちの姿が目に入る。
「ナーナル、あいつらがお前の店を作る職人たちだ」
「彼らが……! ちょうどいいわ、挨拶しておきましょう」
見た目は強面の職人集団に、ナーナルは軽やかな足取りで近づく。その背を、エレンとロニカが追いかけた。
「ごきげんよう」
「あ? なんだおめえ、危ねえから入ってくんな」
しっしっ、と職人の一人が手で払う仕草をしてみせる。
だが、ナーナルはその場を離れない。
「あら、あそこに積んであるものが外壁用の煉瓦かしら? 遠目に見ても良い色合いをしているわ」
「おい、話聞いてんのか? っていうかなんでおめえ、あれが外壁用って分かんだ」
「もちろん分かります。わたしが施主ですから」
「あぁ? ってことは、ひょっとしておめえがナーナルか?」
「はい、名乗るのが遅れて申し訳ありません。わたしはクノイル商会のナーナルと申します。以後、よろしくお願いしますわ」
満面の笑みを浮かべて、ナーナルが返事をする。
「はぁ~、つまりあんたが、あのカロック商会をぶっ潰した英雄か! 思ったより華奢じゃねえか」
「わたしは腕よりも口で戦うのが得意ですので」
「ははっ、そりゃいい! 腕っぷしは、そっちのあんちゃんと騎士様に任せりゃいいもんな」
そう言って、職人の男がエレンとロニカに視線を向ける。
同時にエレンが会釈してみせた。
「オレは頭目のウォルダーだ。覚えとけよ! ……ところでロニカさんよぉ、今日は顔合わせかなんかか?」
「急だが、そういうことになった。悪いな」
「まあいいけどよ……おい、おめえら集合だ! ちっと手を休めろ!」
ウォルダーが声をかけると、辺りにいた職人たちが続々と集まってきた。
彼らに対しても、ナーナルは改めて挨拶をする。
「こうして積まれた材料を見ていると、心が躍るわね。……ねえ、ウォルダーさん。基礎を作り始めるのはいつぐらいになりますか?」
「基礎か? そりゃまだまだ先だなぁ、あんたが求める材料は特殊なもんが多いからなぁ」
特殊なもの、とウォルダーが言う。実はこの土地を使うことになってすぐ、ナーナルが理想のお店の外装内装を絵に描いていた。
それを基にロニカがウォルダーたちと相談し、設計図を作り、材料を調達し始めたところだった。
「そっか、まだ先なのね……でも、形として出来上がるのを想像するだけでも、楽しくてたまらなくなるものね」
「ナーナルはいつも楽しそうに見えるけどな」
「あら、そうかしら? ふふ、言われてみればそうかもしれないけれど」
エレンの指摘に、ナーナルは肩を竦めてみせる。
「お店ができる前に、家具も見繕わないといけないのよね……やることが多すぎて寝る時間が惜しいわね」
「睡眠は大事だぞ」
「もちろん、分かっているわ。だから寝る時間を削らないで、巻きでいきましょう」
その台詞を耳にして、この場にいる全員が苦笑する。
「しかしまあ、設計図通りに完成するとなると、こりゃまた随分お洒落な喫茶が出来上がりそうじゃねえか!」
「そうでしょう? でもそこに至るまでには、貴方たちの力が必要不可欠です。わたしも全力でサポートしますから、何かあればいつでも言ってください」
「何かかぁ、んじゃあ……完成したらオレら全員、一回招待してくれよ」
ウォルダーに言われて、ナーナルは快諾する。
「招待と言えば、実はひと月後にプレオープンする予定ですので、もしよろしければウォルダーさんたちもどうでしょう?」
「ナーナル」
「あ」
エレンが口を挟み、ナーナルは気付く。招待する人は決まっているのだ。
しかし今更取り消せないし、取り消したいとも思わない。
ウォルダーたちは、自分の夢である貸本喫茶を作ってくれるのだ。実際に言葉を交わしたことで、心から招待したいと感じていた。
「プレオープンかぁ……本当にオレたちも行っていいのか?」
「来てほしいから招待するのですよ? だから、断らないでくださると嬉しいです」
ウォルダーを筆頭に、ここにいる職人たちは興味津々だ。そんな彼ら一人一人に、持っていた招待状を配り始めた。ギリギリ足りる枚数でよかったと、ナーナルは安堵する。
彼らの喜ぶ顔を見て、それからエレンへと向き直す。
「ごめんなさいね、エレン」
「いや、ナーナルがそうしたいと思ったんだろう? それなら俺は全力で応えるまでだ」
「ありがとう……でも、当日の仕込みが大変なことになりそうね」
「早起きして手伝ってもらうから、そのつもりでいてくれ」
「任せなさい」
エレンと一緒なら、その程度のことは朝飯前だ。
ナーナルはむしろやる気満々になるのであった。
「ナーナル、あいつらがお前の店を作る職人たちだ」
「彼らが……! ちょうどいいわ、挨拶しておきましょう」
見た目は強面の職人集団に、ナーナルは軽やかな足取りで近づく。その背を、エレンとロニカが追いかけた。
「ごきげんよう」
「あ? なんだおめえ、危ねえから入ってくんな」
しっしっ、と職人の一人が手で払う仕草をしてみせる。
だが、ナーナルはその場を離れない。
「あら、あそこに積んであるものが外壁用の煉瓦かしら? 遠目に見ても良い色合いをしているわ」
「おい、話聞いてんのか? っていうかなんでおめえ、あれが外壁用って分かんだ」
「もちろん分かります。わたしが施主ですから」
「あぁ? ってことは、ひょっとしておめえがナーナルか?」
「はい、名乗るのが遅れて申し訳ありません。わたしはクノイル商会のナーナルと申します。以後、よろしくお願いしますわ」
満面の笑みを浮かべて、ナーナルが返事をする。
「はぁ~、つまりあんたが、あのカロック商会をぶっ潰した英雄か! 思ったより華奢じゃねえか」
「わたしは腕よりも口で戦うのが得意ですので」
「ははっ、そりゃいい! 腕っぷしは、そっちのあんちゃんと騎士様に任せりゃいいもんな」
そう言って、職人の男がエレンとロニカに視線を向ける。
同時にエレンが会釈してみせた。
「オレは頭目のウォルダーだ。覚えとけよ! ……ところでロニカさんよぉ、今日は顔合わせかなんかか?」
「急だが、そういうことになった。悪いな」
「まあいいけどよ……おい、おめえら集合だ! ちっと手を休めろ!」
ウォルダーが声をかけると、辺りにいた職人たちが続々と集まってきた。
彼らに対しても、ナーナルは改めて挨拶をする。
「こうして積まれた材料を見ていると、心が躍るわね。……ねえ、ウォルダーさん。基礎を作り始めるのはいつぐらいになりますか?」
「基礎か? そりゃまだまだ先だなぁ、あんたが求める材料は特殊なもんが多いからなぁ」
特殊なもの、とウォルダーが言う。実はこの土地を使うことになってすぐ、ナーナルが理想のお店の外装内装を絵に描いていた。
それを基にロニカがウォルダーたちと相談し、設計図を作り、材料を調達し始めたところだった。
「そっか、まだ先なのね……でも、形として出来上がるのを想像するだけでも、楽しくてたまらなくなるものね」
「ナーナルはいつも楽しそうに見えるけどな」
「あら、そうかしら? ふふ、言われてみればそうかもしれないけれど」
エレンの指摘に、ナーナルは肩を竦めてみせる。
「お店ができる前に、家具も見繕わないといけないのよね……やることが多すぎて寝る時間が惜しいわね」
「睡眠は大事だぞ」
「もちろん、分かっているわ。だから寝る時間を削らないで、巻きでいきましょう」
その台詞を耳にして、この場にいる全員が苦笑する。
「しかしまあ、設計図通りに完成するとなると、こりゃまた随分お洒落な喫茶が出来上がりそうじゃねえか!」
「そうでしょう? でもそこに至るまでには、貴方たちの力が必要不可欠です。わたしも全力でサポートしますから、何かあればいつでも言ってください」
「何かかぁ、んじゃあ……完成したらオレら全員、一回招待してくれよ」
ウォルダーに言われて、ナーナルは快諾する。
「招待と言えば、実はひと月後にプレオープンする予定ですので、もしよろしければウォルダーさんたちもどうでしょう?」
「ナーナル」
「あ」
エレンが口を挟み、ナーナルは気付く。招待する人は決まっているのだ。
しかし今更取り消せないし、取り消したいとも思わない。
ウォルダーたちは、自分の夢である貸本喫茶を作ってくれるのだ。実際に言葉を交わしたことで、心から招待したいと感じていた。
「プレオープンかぁ……本当にオレたちも行っていいのか?」
「来てほしいから招待するのですよ? だから、断らないでくださると嬉しいです」
ウォルダーを筆頭に、ここにいる職人たちは興味津々だ。そんな彼ら一人一人に、持っていた招待状を配り始めた。ギリギリ足りる枚数でよかったと、ナーナルは安堵する。
彼らの喜ぶ顔を見て、それからエレンへと向き直す。
「ごめんなさいね、エレン」
「いや、ナーナルがそうしたいと思ったんだろう? それなら俺は全力で応えるまでだ」
「ありがとう……でも、当日の仕込みが大変なことになりそうね」
「早起きして手伝ってもらうから、そのつもりでいてくれ」
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