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「――というわけだから、来てちょうだいね」
「何が、というわけなんだよ……」
招待状配りのために町へと繰り出したナーナルとエレンは、まずはロニカを探しにクベニカ商会へと足を運んだ。
その道中、商会の仕事で外回りをしていたロニカと運よく顔を合わせることになったのだが、ナーナルからいきなり「はいこれ、わたしからの招待状よ」と何の説明もなく招待状を押し付けられたロニカの疑問は、もっともと言えるだろう。
ロニカが「なんだこれは」と口にすれば、ナーナルが「わたしとエレンのお店の招待状に決まっているじゃない」と返事をする。
店が開くのはまだまだ当分先のことだと思っていたものだから、ロニカは驚いたことだろう。現に「いやいや、店もまだできてねえだろ」と突っ込みを入れていた。
「おいエレン、お前が説明しろ。こいつは見るからに浮かれてて要点が分からん」
「え? わたしそんなに浮かれているように見えるかしら」
「自覚がない程度にはな」
ロニカが指摘し、ナーナルは小首を傾げる。
「プレオープンだ」
とここで、ようやくエレンが口を挟んだ。
「本開店する前に、一度練習をしておきたくてな」
「あー、そういうことか……だったら最初にそう言えよ」
ったく、と舌打ちしながらも、ロニカは改めて招待状に目を落とす。
ナーナルの手書きの力作が、そこにはあった。
「招待状ねえ……場所は? まだ店はないだろ。あの家でやるのか? ……って、ここに書いてるな。当日のメニューも……色々あるが、こんなにたくさん作るつもりかよ」
「ええ、メニュー候補の試食会のようなものだと思ってもらえればいいわ」
「試食会か、なるほどな……悪くなさそうだ」
メニューに目を通し、ロニカは小さく頷く。反応は悪くなさそうだ。
「日にちはひと月後か。間に合うのか?」
「間に合わせてみせるわ」
「ふん、自信満々だな……ところで、メニューに目玉焼きが無いぞ」
「あら、食べたかったの? だったら個人的に作ってあげるけれど」
「冗談だっての」
ナーナルの目玉焼きは食べ飽きた。
美味しく仕上がるようにはなったが、あの量を必死で食べたのだ。しばらくは見るのも嫌だとロニカが断りを入れる。
「確かに渡したから、絶対に来るのよ。いいわね?」
「強制か? まあ、言われなくとも行くけどな」
ナーナルに強制されずとも、ロニカはお邪魔するつもりだ。ナーナルの貸本喫茶が開店するのを心待ちにするうちの一人なのだから当然だ。
「あー、ところでお前たち……昨日は店舗予定地に顔出してないよな?」
「? ええ、貴女に言われてレイゼンさんの本屋を見に行ったでしょう」
「だったら、今から見に行くか? 材料が運び込まれてるぞ」
「本当に? 行くわ!」
「ナーナル、招待状配りはいいのか?」
「あっ、……うーん、そうよね。今日の予定はそっち優先だから……少しだけ。少しだけ見に行きましょう? それなら時間的に大丈夫よね?」
「少しだけだぞ」
「うん」
エレンの了承を得たナーナルは、嬉しそうに微笑んだ。
「何が、というわけなんだよ……」
招待状配りのために町へと繰り出したナーナルとエレンは、まずはロニカを探しにクベニカ商会へと足を運んだ。
その道中、商会の仕事で外回りをしていたロニカと運よく顔を合わせることになったのだが、ナーナルからいきなり「はいこれ、わたしからの招待状よ」と何の説明もなく招待状を押し付けられたロニカの疑問は、もっともと言えるだろう。
ロニカが「なんだこれは」と口にすれば、ナーナルが「わたしとエレンのお店の招待状に決まっているじゃない」と返事をする。
店が開くのはまだまだ当分先のことだと思っていたものだから、ロニカは驚いたことだろう。現に「いやいや、店もまだできてねえだろ」と突っ込みを入れていた。
「おいエレン、お前が説明しろ。こいつは見るからに浮かれてて要点が分からん」
「え? わたしそんなに浮かれているように見えるかしら」
「自覚がない程度にはな」
ロニカが指摘し、ナーナルは小首を傾げる。
「プレオープンだ」
とここで、ようやくエレンが口を挟んだ。
「本開店する前に、一度練習をしておきたくてな」
「あー、そういうことか……だったら最初にそう言えよ」
ったく、と舌打ちしながらも、ロニカは改めて招待状に目を落とす。
ナーナルの手書きの力作が、そこにはあった。
「招待状ねえ……場所は? まだ店はないだろ。あの家でやるのか? ……って、ここに書いてるな。当日のメニューも……色々あるが、こんなにたくさん作るつもりかよ」
「ええ、メニュー候補の試食会のようなものだと思ってもらえればいいわ」
「試食会か、なるほどな……悪くなさそうだ」
メニューに目を通し、ロニカは小さく頷く。反応は悪くなさそうだ。
「日にちはひと月後か。間に合うのか?」
「間に合わせてみせるわ」
「ふん、自信満々だな……ところで、メニューに目玉焼きが無いぞ」
「あら、食べたかったの? だったら個人的に作ってあげるけれど」
「冗談だっての」
ナーナルの目玉焼きは食べ飽きた。
美味しく仕上がるようにはなったが、あの量を必死で食べたのだ。しばらくは見るのも嫌だとロニカが断りを入れる。
「確かに渡したから、絶対に来るのよ。いいわね?」
「強制か? まあ、言われなくとも行くけどな」
ナーナルに強制されずとも、ロニカはお邪魔するつもりだ。ナーナルの貸本喫茶が開店するのを心待ちにするうちの一人なのだから当然だ。
「あー、ところでお前たち……昨日は店舗予定地に顔出してないよな?」
「? ええ、貴女に言われてレイゼンさんの本屋を見に行ったでしょう」
「だったら、今から見に行くか? 材料が運び込まれてるぞ」
「本当に? 行くわ!」
「ナーナル、招待状配りはいいのか?」
「あっ、……うーん、そうよね。今日の予定はそっち優先だから……少しだけ。少しだけ見に行きましょう? それなら時間的に大丈夫よね?」
「少しだけだぞ」
「うん」
エレンの了承を得たナーナルは、嬉しそうに微笑んだ。
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