34 / 50
連載
【96】
しおりを挟む
数日後、本契約を交わしたキルファンは、国へと帰った。次に会うときは、大量の茶葉との対面を果たすときだ。ナーナルはそのときが来るのを待ち切れない様子だ。
しかし、安心するのはまだ早い。
キルファン率いる西の国のオー商会から卸してもらう茶葉は、一種のみ。喫茶を開くには、それだけでは少なすぎる。まだまだ探す必要があるというわけだ。
「ふう、忙しい日が続くわね」
そう言いつつも、ナーナルの声色は明るい。この日常が楽しくて仕方がないのだろう。
そんないつも通りの忙しない日のこと。
「邪魔するぞ」
「あら? ロニカ、今日はどうしたの?」
突然、ロニカが顔を見せに来た。会う予定はなかったから、何か急用でもできたのだろうか、とナーナルが問いかける。
それに対して、ロニカはまず、テーブルと台所に目を向けた。
「なんだ、目玉焼きはないのか」
「御所望とあれば今すぐ作るけど、どうする?」
「……冗談だ」
自分で言ったくせに顔をしかめる。
席に着いたロニカは、本題に入る、と息を整えた。
「ナーナル、お前の興味を惹くものが南部地区に来ているぞ」
「わたしの興味を惹くもの……?」
いったい何が来ているのだろうか。
「想像はつくか」
「いえ、でも……来ているというからには、移動できるものなのよね?」
「そうだな。だが、正解するには頭を捻る必要があるものだ」
絶対に分からないと踏んでいるのだろう。ロニカはニヤリと笑った。
色々と考えてみるが、思い付く答えを口にしては不正解と言われてしまう。
「降参よ、そろそろ何が来ているのか教えてちょうだい」
結局、ナーナルは降参してしまった。
お手上げ状態のナーナルの姿を見て満足したのか、ロニカは正解を口にする。
それはやはり、想像を超えるものであった。
「移動式本屋だ」
得意げな口調でロニカが言う。
その台詞を耳にしたナーナルは、すぐに目を輝かせた。
「っ、移動式本屋ですって? それ、どういうこと? 本屋が……移動? しているの?」
なんだそれは、本屋なのかと。王都にいたときだって耳にしたことがない言葉だ。
動く図書館の再来かと思ったが、あれは船の中の一部だったから、それとはまた違う類のものなのか。
「おい、落ち着け、俺を揺らすな」
言われてハッとしたナーナルは、席に座り直す。
「まあ、ここで説明するよりも実際に見た方が早いだろう」
「そうよね? でかける準備をするわ!」
ロニカの返事を待たず、再び席を立ったナーナルは、エレンに目配せする。今日の予定が決まったぞ、と。
そんなナーナルの姿を瞳に映し、エレンは無言で頷き、自分も支度を整えることにした。
しかし、安心するのはまだ早い。
キルファン率いる西の国のオー商会から卸してもらう茶葉は、一種のみ。喫茶を開くには、それだけでは少なすぎる。まだまだ探す必要があるというわけだ。
「ふう、忙しい日が続くわね」
そう言いつつも、ナーナルの声色は明るい。この日常が楽しくて仕方がないのだろう。
そんないつも通りの忙しない日のこと。
「邪魔するぞ」
「あら? ロニカ、今日はどうしたの?」
突然、ロニカが顔を見せに来た。会う予定はなかったから、何か急用でもできたのだろうか、とナーナルが問いかける。
それに対して、ロニカはまず、テーブルと台所に目を向けた。
「なんだ、目玉焼きはないのか」
「御所望とあれば今すぐ作るけど、どうする?」
「……冗談だ」
自分で言ったくせに顔をしかめる。
席に着いたロニカは、本題に入る、と息を整えた。
「ナーナル、お前の興味を惹くものが南部地区に来ているぞ」
「わたしの興味を惹くもの……?」
いったい何が来ているのだろうか。
「想像はつくか」
「いえ、でも……来ているというからには、移動できるものなのよね?」
「そうだな。だが、正解するには頭を捻る必要があるものだ」
絶対に分からないと踏んでいるのだろう。ロニカはニヤリと笑った。
色々と考えてみるが、思い付く答えを口にしては不正解と言われてしまう。
「降参よ、そろそろ何が来ているのか教えてちょうだい」
結局、ナーナルは降参してしまった。
お手上げ状態のナーナルの姿を見て満足したのか、ロニカは正解を口にする。
それはやはり、想像を超えるものであった。
「移動式本屋だ」
得意げな口調でロニカが言う。
その台詞を耳にしたナーナルは、すぐに目を輝かせた。
「っ、移動式本屋ですって? それ、どういうこと? 本屋が……移動? しているの?」
なんだそれは、本屋なのかと。王都にいたときだって耳にしたことがない言葉だ。
動く図書館の再来かと思ったが、あれは船の中の一部だったから、それとはまた違う類のものなのか。
「おい、落ち着け、俺を揺らすな」
言われてハッとしたナーナルは、席に座り直す。
「まあ、ここで説明するよりも実際に見た方が早いだろう」
「そうよね? でかける準備をするわ!」
ロニカの返事を待たず、再び席を立ったナーナルは、エレンに目配せする。今日の予定が決まったぞ、と。
そんなナーナルの姿を瞳に映し、エレンは無言で頷き、自分も支度を整えることにした。
24
お気に入りに追加
3,534
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。