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【96】

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 数日後、本契約を交わしたキルファンは、国へと帰った。次に会うときは、大量の茶葉との対面を果たすときだ。ナーナルはそのときが来るのを待ち切れない様子だ。

 しかし、安心するのはまだ早い。
 キルファン率いる西の国のオー商会から卸してもらう茶葉は、一種のみ。喫茶を開くには、それだけでは少なすぎる。まだまだ探す必要があるというわけだ。

「ふう、忙しい日が続くわね」

 そう言いつつも、ナーナルの声色は明るい。この日常が楽しくて仕方がないのだろう。
 そんないつも通りの忙しない日のこと。

「邪魔するぞ」
「あら? ロニカ、今日はどうしたの?」

 突然、ロニカが顔を見せに来た。会う予定はなかったから、何か急用でもできたのだろうか、とナーナルが問いかける。
 それに対して、ロニカはまず、テーブルと台所に目を向けた。

「なんだ、目玉焼きはないのか」
「御所望とあれば今すぐ作るけど、どうする?」
「……冗談だ」

 自分で言ったくせに顔をしかめる。
 席に着いたロニカは、本題に入る、と息を整えた。

「ナーナル、お前の興味を惹くものが南部地区に来ているぞ」
「わたしの興味を惹くもの……?」

 いったい何が来ているのだろうか。

「想像はつくか」
「いえ、でも……来ているというからには、移動できるものなのよね?」
「そうだな。だが、正解するには頭を捻る必要があるものだ」

 絶対に分からないと踏んでいるのだろう。ロニカはニヤリと笑った。
 色々と考えてみるが、思い付く答えを口にしては不正解と言われてしまう。

「降参よ、そろそろ何が来ているのか教えてちょうだい」

 結局、ナーナルは降参してしまった。
 お手上げ状態のナーナルの姿を見て満足したのか、ロニカは正解を口にする。
 それはやはり、想像を超えるものであった。

「移動式本屋だ」

 得意げな口調でロニカが言う。
 その台詞を耳にしたナーナルは、すぐに目を輝かせた。

「っ、移動式本屋ですって? それ、どういうこと? 本屋が……移動? しているの?」

 なんだそれは、本屋なのかと。王都にいたときだって耳にしたことがない言葉だ。
 動く図書館の再来かと思ったが、あれは船の中の一部だったから、それとはまた違う類のものなのか。

「おい、落ち着け、俺を揺らすな」

 言われてハッとしたナーナルは、席に座り直す。

「まあ、ここで説明するよりも実際に見た方が早いだろう」
「そうよね? でかける準備をするわ!」

 ロニカの返事を待たず、再び席を立ったナーナルは、エレンに目配せする。今日の予定が決まったぞ、と。
 そんなナーナルの姿を瞳に映し、エレンは無言で頷き、自分も支度を整えることにした。
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