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【94】
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「実はわたしたち、近々喫茶店を開こうと思っているの」
「ほう、喫茶店を……!」
喫茶店を開きたいと聞いて、身を乗り出すキルファン。
「でも、お店を開くのは初めてだから、色々と問題があって」
その一つが、これなの。
そう言って、ナーナルは視線を落とし、テーブルの上に置かれた茶葉を見た。
「なるほど。つまりはナーナル様が開くお店で、私の国の茶葉を使用したいということですね?」
「そのとおりよ」
喫茶店を開くに際し、ナーナルはキルファンの国の茶葉を使うことができれば、と伝える。
するとキルファンは、うんうんと二度頷き、口の端を曲げた。
「ナーナル様とエレン様には感謝をしています。もし、お二人が現れなければ、私はずっと搾取され続けるところでした。だから力になりたいとも思います」
搾取とは、ティリス率いる元カロック商会のことを指している。
詳しい内容まではナーナルとエレンも知らないが、二人はキルファンがティリスと契約を結んでいることを理解していた。
そして今、カロック商会は取り潰しとなり、ティリスは牢屋の中だ。二人にとって、最も厄介な障害が取り除かれた状態となっている。この機を逃す手はない。だが、
「但し、これは商売です。今度こそ私は儲けたい」
キルファンが言う。
その言葉は、嘘のないものだ。心の底から出たものだろう。
ティリスとの一件があるのだから、用心深くなるのも頷ける。
「分かっています。ですので、この条件ではいかがでしょうか」
もちろん、二人も承知の上で、どうすれば互いが納得のいく取引を行うことができるか模索した。そしてまとまった条件を、エレンはキルファンに提示する。
「……は? ……こ、こんなに⁉︎」
思わず声が出た。
エレンから手渡された契約書を確認すると、キルファンは目を輝かせた。
「どう、かしら? 決して悪いようにはしないと約束するわ」
クノイル商会の名に懸けて、と。
その言葉を付け加えることで、この契約は重みを増す。
「……く、くくくっ、いやはや参りました。ナーナル様、やはり貴女は私にとって女神です」
キルファンは苦笑いし、ある人物の顔を思い浮かべる。それはティリスだ。
「そのついでに、ティリス嬢の意地汚さを再確認した気分ですね」
「……ティリスと、そんなに酷い契約を交わしていたの?」
「ええ、それはもう!」
肩を竦めるキルファン。
その態度がおかしかったのか、今度はナーナルが苦笑いする。
「それで……キルファンさん。首を縦に振ってくれると嬉しいのだけれど」
多少の色はつけたが、ここまで驚くとは思わなかった。だからこそ、期待できる。
すると、キルファンが二人を交互に見やり、ゆっくりと頷いてみせた。
「お二人が誠実な“友達”で安心しましたね」
キルファンは、二人のことを“友達”と称した。
本にも書いてあったが、これは西の国における信頼の証だ。
つまりナーナルとエレンは、キルファンにとって信用に足る存在になったということだ。
「細かな部分は追々として、この契約で私は大満足です。だからこちらからも是非お願いしますね」
キルファンは両手を差し出す。
右手はナーナルに、左手はエレンと握手を交わし、無事に契約を交わすこととなった。
「ほう、喫茶店を……!」
喫茶店を開きたいと聞いて、身を乗り出すキルファン。
「でも、お店を開くのは初めてだから、色々と問題があって」
その一つが、これなの。
そう言って、ナーナルは視線を落とし、テーブルの上に置かれた茶葉を見た。
「なるほど。つまりはナーナル様が開くお店で、私の国の茶葉を使用したいということですね?」
「そのとおりよ」
喫茶店を開くに際し、ナーナルはキルファンの国の茶葉を使うことができれば、と伝える。
するとキルファンは、うんうんと二度頷き、口の端を曲げた。
「ナーナル様とエレン様には感謝をしています。もし、お二人が現れなければ、私はずっと搾取され続けるところでした。だから力になりたいとも思います」
搾取とは、ティリス率いる元カロック商会のことを指している。
詳しい内容まではナーナルとエレンも知らないが、二人はキルファンがティリスと契約を結んでいることを理解していた。
そして今、カロック商会は取り潰しとなり、ティリスは牢屋の中だ。二人にとって、最も厄介な障害が取り除かれた状態となっている。この機を逃す手はない。だが、
「但し、これは商売です。今度こそ私は儲けたい」
キルファンが言う。
その言葉は、嘘のないものだ。心の底から出たものだろう。
ティリスとの一件があるのだから、用心深くなるのも頷ける。
「分かっています。ですので、この条件ではいかがでしょうか」
もちろん、二人も承知の上で、どうすれば互いが納得のいく取引を行うことができるか模索した。そしてまとまった条件を、エレンはキルファンに提示する。
「……は? ……こ、こんなに⁉︎」
思わず声が出た。
エレンから手渡された契約書を確認すると、キルファンは目を輝かせた。
「どう、かしら? 決して悪いようにはしないと約束するわ」
クノイル商会の名に懸けて、と。
その言葉を付け加えることで、この契約は重みを増す。
「……く、くくくっ、いやはや参りました。ナーナル様、やはり貴女は私にとって女神です」
キルファンは苦笑いし、ある人物の顔を思い浮かべる。それはティリスだ。
「そのついでに、ティリス嬢の意地汚さを再確認した気分ですね」
「……ティリスと、そんなに酷い契約を交わしていたの?」
「ええ、それはもう!」
肩を竦めるキルファン。
その態度がおかしかったのか、今度はナーナルが苦笑いする。
「それで……キルファンさん。首を縦に振ってくれると嬉しいのだけれど」
多少の色はつけたが、ここまで驚くとは思わなかった。だからこそ、期待できる。
すると、キルファンが二人を交互に見やり、ゆっくりと頷いてみせた。
「お二人が誠実な“友達”で安心しましたね」
キルファンは、二人のことを“友達”と称した。
本にも書いてあったが、これは西の国における信頼の証だ。
つまりナーナルとエレンは、キルファンにとって信用に足る存在になったということだ。
「細かな部分は追々として、この契約で私は大満足です。だからこちらからも是非お願いしますね」
キルファンは両手を差し出す。
右手はナーナルに、左手はエレンと握手を交わし、無事に契約を交わすこととなった。
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