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「まさか、キルファンの取引相手がティリスとは思わなかったわね……」
茶葉を取り扱う商人だというだけでも驚きだったが、まさかその取引相手があのティリスとは思いもしなかった。
だが、考えてみればそれは至極当然のことなのかもしれない。
西の国から船を使って、わざわざ商売するためにローマリアまでやってきたわけだが、ローマリアで商売するにはカロック商会の許可が必要となる。
つまりキルファンがティリスと取引を行っていたとしても不思議ではない。
「エレン、どうしたらいいと思う?」
「何がだ?」
「キルファンのことだけれど、もしカロック商会派閥だとしたら、関わらない方がいいような気もするわ」
「いや、それはない」
悩むことなく、エレンが言葉を返す。
「招待祭のとき、色んな屋台や露店を見て回っただろう? その際、茶葉を扱う店についても幾つか確認したはずだが、その中に西の国のものはあったか?」
「……わたしの記憶だと、なかったはず」
「つまりは、そういうことだ」
招待祭のときに皇都を端から端まで行き来したが、キルファンが卸す西の国の茶葉とおぼしきものは、どのお店も取り扱ってはいなかった。
そしてあの店でキルファンと出会ったときに言われた台詞から察するに、キルファンはローマリアで商売をすることができなくて困っていたのかもしれない。
ティリスの企みを阻んだことで、間接的にキルファンを助けることになったと考えれば、あの態度にも納得がいくというものだ。
実際のところ、ティリスがヤレドに喫茶店出店を企む前、そのために必要な茶葉を求めて西の国に足を運んでいた。そこでキルファンと出会い、茶葉に惚れ込み、独占契約を交わすことに成功していた。
キルファンは、それが安く買い叩かれていることを知らなかった。
ローマリアを初めて訪れたとき、ようやく気付くことができた。
故に、ティリスに価格の見直しを提案したが、すでに契約を済ませており、契約書もある。独占契約なのでほかに卸すこともできない。まさに八方塞がりだ。
だが、もったいことをしてしまったと嘆いていたところに、救いの女神が現れる。それがナーナルであった。
もちろん、当の本人はそんなこととはつゆ知らずだ。
「西の国のキルファン……か」
まだ顔を見たことのない相手を想像し、エレンが呟く。
キルファンにナーナルを譲るつもりは毛頭ないが、商売相手として興味深いのは事実だ。今後、重要な人物となりそうだ。
「明日の予定が決まったな」
「予定?」
「実際に味と香りを確かめてからだが、キルファンから西の国の茶葉を卸してもらおう」
ティリスが手に入れた西の国との関わりを利用するつもりのエレンは、珍しく悪戯な笑みを浮かべていた。
その表情につられたのか、ナーナルも口角を上げる。
「それ、いいわね! 明日はキルファンを探しましょう」
そして交渉するのだ。
ティリスに代わる新たな取引相手に、自分たちが成り代わるのだ。
明日を想像し、ナーナルは胸を躍らせるのであった。
茶葉を取り扱う商人だというだけでも驚きだったが、まさかその取引相手があのティリスとは思いもしなかった。
だが、考えてみればそれは至極当然のことなのかもしれない。
西の国から船を使って、わざわざ商売するためにローマリアまでやってきたわけだが、ローマリアで商売するにはカロック商会の許可が必要となる。
つまりキルファンがティリスと取引を行っていたとしても不思議ではない。
「エレン、どうしたらいいと思う?」
「何がだ?」
「キルファンのことだけれど、もしカロック商会派閥だとしたら、関わらない方がいいような気もするわ」
「いや、それはない」
悩むことなく、エレンが言葉を返す。
「招待祭のとき、色んな屋台や露店を見て回っただろう? その際、茶葉を扱う店についても幾つか確認したはずだが、その中に西の国のものはあったか?」
「……わたしの記憶だと、なかったはず」
「つまりは、そういうことだ」
招待祭のときに皇都を端から端まで行き来したが、キルファンが卸す西の国の茶葉とおぼしきものは、どのお店も取り扱ってはいなかった。
そしてあの店でキルファンと出会ったときに言われた台詞から察するに、キルファンはローマリアで商売をすることができなくて困っていたのかもしれない。
ティリスの企みを阻んだことで、間接的にキルファンを助けることになったと考えれば、あの態度にも納得がいくというものだ。
実際のところ、ティリスがヤレドに喫茶店出店を企む前、そのために必要な茶葉を求めて西の国に足を運んでいた。そこでキルファンと出会い、茶葉に惚れ込み、独占契約を交わすことに成功していた。
キルファンは、それが安く買い叩かれていることを知らなかった。
ローマリアを初めて訪れたとき、ようやく気付くことができた。
故に、ティリスに価格の見直しを提案したが、すでに契約を済ませており、契約書もある。独占契約なのでほかに卸すこともできない。まさに八方塞がりだ。
だが、もったいことをしてしまったと嘆いていたところに、救いの女神が現れる。それがナーナルであった。
もちろん、当の本人はそんなこととはつゆ知らずだ。
「西の国のキルファン……か」
まだ顔を見たことのない相手を想像し、エレンが呟く。
キルファンにナーナルを譲るつもりは毛頭ないが、商売相手として興味深いのは事実だ。今後、重要な人物となりそうだ。
「明日の予定が決まったな」
「予定?」
「実際に味と香りを確かめてからだが、キルファンから西の国の茶葉を卸してもらおう」
ティリスが手に入れた西の国との関わりを利用するつもりのエレンは、珍しく悪戯な笑みを浮かべていた。
その表情につられたのか、ナーナルも口角を上げる。
「それ、いいわね! 明日はキルファンを探しましょう」
そして交渉するのだ。
ティリスに代わる新たな取引相手に、自分たちが成り代わるのだ。
明日を想像し、ナーナルは胸を躍らせるのであった。
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