妹に婚約者を寝取られましたが、未練とか全くないので出奔します

ひじり

文字の大きさ
上 下
29 / 50
連載

【91】

しおりを挟む
「まさか、キルファンの取引相手がティリスとは思わなかったわね……」

 茶葉を取り扱う商人だというだけでも驚きだったが、まさかその取引相手があのティリスとは思いもしなかった。
 だが、考えてみればそれは至極当然のことなのかもしれない。

 西の国から船を使って、わざわざ商売するためにローマリアまでやってきたわけだが、ローマリアで商売するにはカロック商会の許可が必要となる。
 つまりキルファンがティリスと取引を行っていたとしても不思議ではない。

「エレン、どうしたらいいと思う?」
「何がだ?」
「キルファンのことだけれど、もしカロック商会派閥だとしたら、関わらない方がいいような気もするわ」
「いや、それはない」

 悩むことなく、エレンが言葉を返す。

「招待祭のとき、色んな屋台や露店を見て回っただろう? その際、茶葉を扱う店についても幾つか確認したはずだが、その中に西の国のものはあったか?」
「……わたしの記憶だと、なかったはず」
「つまりは、そういうことだ」

 招待祭のときに皇都を端から端まで行き来したが、キルファンが卸す西の国の茶葉とおぼしきものは、どのお店も取り扱ってはいなかった。
 そしてあの店でキルファンと出会ったときに言われた台詞から察するに、キルファンはローマリアで商売をすることができなくて困っていたのかもしれない。

 ティリスの企みを阻んだことで、間接的にキルファンを助けることになったと考えれば、あの態度にも納得がいくというものだ。

 実際のところ、ティリスがヤレドに喫茶店出店を企む前、そのために必要な茶葉を求めて西の国に足を運んでいた。そこでキルファンと出会い、茶葉に惚れ込み、独占契約を交わすことに成功していた。

 キルファンは、それが安く買い叩かれていることを知らなかった。
 ローマリアを初めて訪れたとき、ようやく気付くことができた。

 故に、ティリスに価格の見直しを提案したが、すでに契約を済ませており、契約書もある。独占契約なのでほかに卸すこともできない。まさに八方塞がりだ。
 だが、もったいことをしてしまったと嘆いていたところに、救いの女神が現れる。それがナーナルであった。

 もちろん、当の本人はそんなこととはつゆ知らずだ。

「西の国のキルファン……か」

 まだ顔を見たことのない相手を想像し、エレンが呟く。
 キルファンにナーナルを譲るつもりは毛頭ないが、商売相手として興味深いのは事実だ。今後、重要な人物となりそうだ。

「明日の予定が決まったな」
「予定?」
「実際に味と香りを確かめてからだが、キルファンから西の国の茶葉を卸してもらおう」

 ティリスが手に入れた西の国との関わりを利用するつもりのエレンは、珍しく悪戯な笑みを浮かべていた。
 その表情につられたのか、ナーナルも口角を上げる。

「それ、いいわね! 明日はキルファンを探しましょう」

 そして交渉するのだ。
 ティリスに代わる新たな取引相手に、自分たちが成り代わるのだ。
 明日を想像し、ナーナルは胸を躍らせるのであった。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。