27 / 50
連載
【90】
しおりを挟む
「美味いぞ?」
「……嘘は吐かない方が身のためよ」
「随分と興味深い台詞だが、おあいにく様。本心だ」
エレンの優しさが身に染みる。
実際に、メインのお肉は焦げてしまったが、味付け自体は悪くなく、スープやサラダに関しては上手にできたと思っている。
結局、全部残さず食べた二人は、仲良く食器を洗って片付けを終えた。
「この世界にはいろんな国や文化があるのね」
食後の休憩にと、ナーナルは露店商にもらった本の頁を捲る。
本を見て、改めて知ることができる。自分がいる場所だけが全てではないことを。
生まれ育ったのはアルドア国だが、今は隣国ローマリアで暮らしている。そして海をわたった先にも、別の国がある。
この世の中、ナーナルの知らないことだらけだ。
「……ふうん、西の国ではこういうことをするのね」
本を読み進めていくと、ナーナルはあることに気付いた。
それは、かんざしについてだ。
好意を持った相手に対し、かんざしを送る。
西の国には、そういった文化があると書かれてあった。
「ということは……ううん、まさかね」
キルファンは、ナーナルに気が合ってかんざしを送ったのだろうか。
そう思ったが、そもそもあの場で出会ったのは偶然だ。挨拶代わりのようなものだろう、とナーナルは考える。
「面白いことでも書いてあったか」
「え? ああ、えっと……」
隣に座るエレンに訊ねられ、どうしたものかと眉を潜める。だが、隠し事は無しだ。
エレンのことを大切に思っているからこそ、正直に話しておくべきだろう。
「実は今日ね、西の国出身だという方から、かんざしをプレゼントされたの。それでここに書いてあることを見て少し驚いただけよ」
「西の国の……?」
「ええ、待ってて。……ほら、これよ」
一旦席を立ち、小鞄を持ってくる。
その中からかんざしを取り出し、エレンに見せた。
「初めて会う人だったし、たまたまお店に売っていた物だから、他意はないわ」
かんざしについて書かれた頁も見せつつ、ナーナルが言葉を続ける。
すると、エレンは何事かを思案し始めた。
「……エレン? もしかして、嫉妬した?」
あのエレンが嫉妬する姿など、見たことがない。申し訳ない気持ちもあるが、これはある意味貴重だ。
嬉しくなったナーナルは、口角が上がる。
「安心しなさい。わたしはエレン以外に興味なんてないから」
「……ん? いや、その点は全く心配してない」
「え?」
「俺が気になったのは、西の国出身という人物のことだ。名前は分かるか?」
「なによ、嫉妬してくれたと思ったのに……」
あっさりと否定されて残念がるナーナルだが、それは同時に互いを信じ合っているからこそ生まれたものだ。
だからナーナルはため息を吐きつつも、エレンの疑問に答える。
「キルファンって名乗っていたわ」
「……なるほど」
聞き覚えがあるのだろう。エレンは興味深そうに頷いた。
「知り合いなの?」
「いや、名前を知っているだけで直接会ったことはない」
本を閉じ、エレンは席を立つ。
食後の紅茶を淹れるつもりなのか、ティーカップを用意する。
同時にエレンは、茶葉の入った袋を手に取ると、それをナーナルに見せながら告げた。
「西の国のキルファンと言えば、茶葉専門の商人として有名だ」
「ふうん、茶葉専門の……ということは、これから西の国のお茶を楽しむ機会が増えるかもしれないということね」
商人だとは聞いていたが、何を扱っているのかについては知らなかった。
西の国のお茶は、まだ飲んだことがない。ナーナルは俄然興味が湧いてきた。
「ああ。そしてキルファンの取引相手は、ナーナルもよく知っている人物なんだが……」
「あら、そうだったの? いったい誰かしら……」
誰だろう、と知り合いの顔を思い浮かべてみるが、すぐには答えが出てこない。
そんなナーナルに助け舟を出す形で、エレンは紅茶を淹れながらも、その人物の名を口にする。
「カロック商会の副商長、ティリス・カロック。あいつがキルファンの取引相手だ」
「……嘘は吐かない方が身のためよ」
「随分と興味深い台詞だが、おあいにく様。本心だ」
エレンの優しさが身に染みる。
実際に、メインのお肉は焦げてしまったが、味付け自体は悪くなく、スープやサラダに関しては上手にできたと思っている。
結局、全部残さず食べた二人は、仲良く食器を洗って片付けを終えた。
「この世界にはいろんな国や文化があるのね」
食後の休憩にと、ナーナルは露店商にもらった本の頁を捲る。
本を見て、改めて知ることができる。自分がいる場所だけが全てではないことを。
生まれ育ったのはアルドア国だが、今は隣国ローマリアで暮らしている。そして海をわたった先にも、別の国がある。
この世の中、ナーナルの知らないことだらけだ。
「……ふうん、西の国ではこういうことをするのね」
本を読み進めていくと、ナーナルはあることに気付いた。
それは、かんざしについてだ。
好意を持った相手に対し、かんざしを送る。
西の国には、そういった文化があると書かれてあった。
「ということは……ううん、まさかね」
キルファンは、ナーナルに気が合ってかんざしを送ったのだろうか。
そう思ったが、そもそもあの場で出会ったのは偶然だ。挨拶代わりのようなものだろう、とナーナルは考える。
「面白いことでも書いてあったか」
「え? ああ、えっと……」
隣に座るエレンに訊ねられ、どうしたものかと眉を潜める。だが、隠し事は無しだ。
エレンのことを大切に思っているからこそ、正直に話しておくべきだろう。
「実は今日ね、西の国出身だという方から、かんざしをプレゼントされたの。それでここに書いてあることを見て少し驚いただけよ」
「西の国の……?」
「ええ、待ってて。……ほら、これよ」
一旦席を立ち、小鞄を持ってくる。
その中からかんざしを取り出し、エレンに見せた。
「初めて会う人だったし、たまたまお店に売っていた物だから、他意はないわ」
かんざしについて書かれた頁も見せつつ、ナーナルが言葉を続ける。
すると、エレンは何事かを思案し始めた。
「……エレン? もしかして、嫉妬した?」
あのエレンが嫉妬する姿など、見たことがない。申し訳ない気持ちもあるが、これはある意味貴重だ。
嬉しくなったナーナルは、口角が上がる。
「安心しなさい。わたしはエレン以外に興味なんてないから」
「……ん? いや、その点は全く心配してない」
「え?」
「俺が気になったのは、西の国出身という人物のことだ。名前は分かるか?」
「なによ、嫉妬してくれたと思ったのに……」
あっさりと否定されて残念がるナーナルだが、それは同時に互いを信じ合っているからこそ生まれたものだ。
だからナーナルはため息を吐きつつも、エレンの疑問に答える。
「キルファンって名乗っていたわ」
「……なるほど」
聞き覚えがあるのだろう。エレンは興味深そうに頷いた。
「知り合いなの?」
「いや、名前を知っているだけで直接会ったことはない」
本を閉じ、エレンは席を立つ。
食後の紅茶を淹れるつもりなのか、ティーカップを用意する。
同時にエレンは、茶葉の入った袋を手に取ると、それをナーナルに見せながら告げた。
「西の国のキルファンと言えば、茶葉専門の商人として有名だ」
「ふうん、茶葉専門の……ということは、これから西の国のお茶を楽しむ機会が増えるかもしれないということね」
商人だとは聞いていたが、何を扱っているのかについては知らなかった。
西の国のお茶は、まだ飲んだことがない。ナーナルは俄然興味が湧いてきた。
「ああ。そしてキルファンの取引相手は、ナーナルもよく知っている人物なんだが……」
「あら、そうだったの? いったい誰かしら……」
誰だろう、と知り合いの顔を思い浮かべてみるが、すぐには答えが出てこない。
そんなナーナルに助け舟を出す形で、エレンは紅茶を淹れながらも、その人物の名を口にする。
「カロック商会の副商長、ティリス・カロック。あいつがキルファンの取引相手だ」
14
お気に入りに追加
3,531
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m


婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。