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【89】
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露店の店主から西の国の歴史本を譲ってもらったあと、ナーナルとエレンは仕事をこなしつつ、同時に本を置いていないだろうかと探し回った。
その結果、いくつか本を売るお店を見つけることができたが、店主の言葉通り価格が高く、とても手を出そうとは思えない。
エレンに頼めば喜んで買ってくれるだろうが、安くなるまでの辛抱だ、とナーナルは自分に言い聞かせることにした。
やがて今日の分のノルマを片付け、二人は夕食の買い物をすることに。
招待祭は終わったが、街の活気は変わらない。商売人はもちろんのこと、皇都に住む人たちの表情は明るく、生き生きしているように見えた。
「わたしたちも、この中に加わる……いえ、加わったのよね」
もう、ナーナルは立派なローマリア国民だ。
ルベニカ商会の善意で住む家を用意してもらった。ロニカからは貸本喫茶を開くための土地をプレゼントされた。街を歩けば誰もが気軽に声をかけてくれる。
王都にいた頃とは比べものにならない。
ナーナルは、ここでの暮らしが楽しくてたまらなかった。
だからこそ、みんなに恩返しをしなくてはならない。
当然のことながら、この国の人たちはナーナルがカロック商会と対決した件や、その後処理で奔走している姿を知っている。
ナーナルに対して何かしてあげたいと思う人が多く、先ほどの店主もそのうちの一人だ。
しかし、ナーナル的にはもらってばかりだと感じていた。
「わたしにできることと言ったら、理想の喫茶店を開いてみんなが心安らげる場所を提供することぐらいかしら」
ナーナルが充分すぎるほど頑張っている姿をすぐ傍で見ているから、エレンは否定することもできた。
だが、それでは歩みが止まってしまうかもしれない。
せっかくナーナルが夢に向かって前に進んでいるのだから、それを応援するのが元執事の役目だと考える。
「理想の喫茶店か……それなら今日のご飯はナーナルに作ってもらうとするか」
「ふうん、言ったわね? 後悔しても遅いわよ」
失敗しても文句を言わせない口調でナーナルが返事をするが、エレンは口角を上げる。
「言っただろ、ナーナルが作ったものなら喜んで食べるって」
「だからそれは反則だって言っているでしょう? ……まあ、できるだけ頑張って美味しくなるようには作ってみるけど」
目玉焼きから始まった料理の勉強は、今も続いている。
いつもはエレンと協力して作るが、今日は一人で作ってみよう、そして心から美味しいと言ってもらえるような料理を作ってみせよう、とナーナルは頷く。
理想の喫茶店を開くには、もっと勉強が必要だ。
お店に置く本を厳選して集めなければならないし、紅茶と珈琲にも詳しくなっておきたい。
他にもするべきことは山のようにある。のんびりしている暇はない。
「今日のご飯、期待していなさい。腕によりをかけて作ってあげるから」
「それは役得だな」
ナーナルは繋いでいた手をにぎにぎする。
すると、エレンは嬉しそうに口元を緩めた。だが、
※
「あ……やっちゃったわ」
買い物から暫く。
早速料理を始めたナーナルの瞳には、黒焦げの肉のかたまりが映っているのであった。
その結果、いくつか本を売るお店を見つけることができたが、店主の言葉通り価格が高く、とても手を出そうとは思えない。
エレンに頼めば喜んで買ってくれるだろうが、安くなるまでの辛抱だ、とナーナルは自分に言い聞かせることにした。
やがて今日の分のノルマを片付け、二人は夕食の買い物をすることに。
招待祭は終わったが、街の活気は変わらない。商売人はもちろんのこと、皇都に住む人たちの表情は明るく、生き生きしているように見えた。
「わたしたちも、この中に加わる……いえ、加わったのよね」
もう、ナーナルは立派なローマリア国民だ。
ルベニカ商会の善意で住む家を用意してもらった。ロニカからは貸本喫茶を開くための土地をプレゼントされた。街を歩けば誰もが気軽に声をかけてくれる。
王都にいた頃とは比べものにならない。
ナーナルは、ここでの暮らしが楽しくてたまらなかった。
だからこそ、みんなに恩返しをしなくてはならない。
当然のことながら、この国の人たちはナーナルがカロック商会と対決した件や、その後処理で奔走している姿を知っている。
ナーナルに対して何かしてあげたいと思う人が多く、先ほどの店主もそのうちの一人だ。
しかし、ナーナル的にはもらってばかりだと感じていた。
「わたしにできることと言ったら、理想の喫茶店を開いてみんなが心安らげる場所を提供することぐらいかしら」
ナーナルが充分すぎるほど頑張っている姿をすぐ傍で見ているから、エレンは否定することもできた。
だが、それでは歩みが止まってしまうかもしれない。
せっかくナーナルが夢に向かって前に進んでいるのだから、それを応援するのが元執事の役目だと考える。
「理想の喫茶店か……それなら今日のご飯はナーナルに作ってもらうとするか」
「ふうん、言ったわね? 後悔しても遅いわよ」
失敗しても文句を言わせない口調でナーナルが返事をするが、エレンは口角を上げる。
「言っただろ、ナーナルが作ったものなら喜んで食べるって」
「だからそれは反則だって言っているでしょう? ……まあ、できるだけ頑張って美味しくなるようには作ってみるけど」
目玉焼きから始まった料理の勉強は、今も続いている。
いつもはエレンと協力して作るが、今日は一人で作ってみよう、そして心から美味しいと言ってもらえるような料理を作ってみせよう、とナーナルは頷く。
理想の喫茶店を開くには、もっと勉強が必要だ。
お店に置く本を厳選して集めなければならないし、紅茶と珈琲にも詳しくなっておきたい。
他にもするべきことは山のようにある。のんびりしている暇はない。
「今日のご飯、期待していなさい。腕によりをかけて作ってあげるから」
「それは役得だな」
ナーナルは繋いでいた手をにぎにぎする。
すると、エレンは嬉しそうに口元を緩めた。だが、
※
「あ……やっちゃったわ」
買い物から暫く。
早速料理を始めたナーナルの瞳には、黒焦げの肉のかたまりが映っているのであった。
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