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【88】
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翌日、エレンと共に西地区に足を運んだナーナルは、本を扱うお店を探してみた。
一軒目、露店に並べられた商品の中に、本が三冊置いてあるのを見つける。
しかしその価格に驚いた。
「本が一冊、銀貨五枚ですって!?」
高い。高すぎる。
王都で暮らしていたとき、本一冊を大銅貨六枚から銀貨一枚程度で買うことができた。それと比べると、銀貨五枚はいくらなんでも高すぎだ。
「ちょっと……これは高すぎると思うのだけれど」
「いやいや、ナーナルさん。これでも随分安くなったんだぜ? 招待祭のときなんか、大銀貨一枚以上だったからな」
「大銀貨一枚!? 冗談でしょう……」
エレンと二人で王都を発って以降、ナーナルはいくつかの町や村で売られている商品を自分の目で確かめ、物の価値や相場などについて少しは理解したつもりだった。
故に、この価格は暴利がすぎると感じたのだが、店主の言葉を耳にして、再度目を見開く。
「ど、どうしてこんなに高いの?」
「そりゃーアレだよ。カロック商会が規制してたからだな」
「カロック商会が……?」
北地区の物価が高いのだろうかと一瞬考えたが、それはない。
他の商品は至って普通の価格帯だ。
では何故、本だけが異常なほどに高いのか。
店主の話によると、それはカロック商会が原因だという。
そもそも皇都には書店が一つもない。
十年前にはまだあったらしいが、カロック商会が皇都を支配し始めると、それにあわせて全て閉店に追い込まれてしまった。
理由はいくつかあるが、その中で最も重要とされたのが、外の情報を中に入れないことだ。
ナーナルが好んで読むのは小説や絵物語だが、問題となったのはそれではない。国外の情報を発信する雑誌類に目を付けたカロック商会は、それら全てを規制することで、国民や商人たちに、この暮らしが普通なのだと思い込ませるようにした。
それは皇都だけにとどまらず、ローマリア周辺の町や村にも及んだ。
皇都に入国するためには、カロック商会の許可が必要とすることで、行商隊や旅行客など、外から訪ねて来る者に目を光らせることができる。
積み荷を検め、書物を見つけると、例外なくその場で燃やした。小説や絵物語も同じだ。
そうすることで、カロック商会はローマリアでの地位を確立し続けていたのだ。
その結果、行商人は密輸する形で書物を国内に運び、カロック商会の目を掻い潜るように取引を行う。故に割高になる。
ローマリアの外に出れば、本はいくらでも手に入る。
しかし現実問題として、そこまでする価値があるか否か。たとえ手に入ったとしても、国内に持ち帰ることができないのだから意味がない。
皇都の商人の数が年々減少傾向にあったのも、これが原因だ。
カロック商会が取り潰しになった今、店主はようやく人目を気にせず堂々と売り出すことができるようになったと続けた。
もう暫く我慢すれば、供給が増える。そうなれば価格も落ち着くだろう。書店を開こうとする者も出てくるはずだ。
その点、ナーナルの功績は大きい。
「ナーナルさんは特別だからな、お礼に一冊好きなもんを持っていきな」
銀貨五枚もする本をタダでもらってよいものだろうかと眉を潜めるナーナルは、横に立つエレンの顔を見る。すると、
「店主の好意だ。ありがたくいただこう」
「……うん。そうね!」
エレンに背中を押されたナーナルは、三冊全てを手に取り、どれにするか頭を悩ませる。
「それじゃあ……これにしようかしら」
ナーナルが選んだのは、西の国の歴史が書かれた本だった。
キルファンと出会ったことで、他国について興味が湧いたのだ。
「おじ様、この本大切にするわね。ありがとう」
「おー、今後ともご贔屓に頼むぜ!」
店主と挨拶を交わし、ナーナルとエレンは露店をあとにするのだった。
一軒目、露店に並べられた商品の中に、本が三冊置いてあるのを見つける。
しかしその価格に驚いた。
「本が一冊、銀貨五枚ですって!?」
高い。高すぎる。
王都で暮らしていたとき、本一冊を大銅貨六枚から銀貨一枚程度で買うことができた。それと比べると、銀貨五枚はいくらなんでも高すぎだ。
「ちょっと……これは高すぎると思うのだけれど」
「いやいや、ナーナルさん。これでも随分安くなったんだぜ? 招待祭のときなんか、大銀貨一枚以上だったからな」
「大銀貨一枚!? 冗談でしょう……」
エレンと二人で王都を発って以降、ナーナルはいくつかの町や村で売られている商品を自分の目で確かめ、物の価値や相場などについて少しは理解したつもりだった。
故に、この価格は暴利がすぎると感じたのだが、店主の言葉を耳にして、再度目を見開く。
「ど、どうしてこんなに高いの?」
「そりゃーアレだよ。カロック商会が規制してたからだな」
「カロック商会が……?」
北地区の物価が高いのだろうかと一瞬考えたが、それはない。
他の商品は至って普通の価格帯だ。
では何故、本だけが異常なほどに高いのか。
店主の話によると、それはカロック商会が原因だという。
そもそも皇都には書店が一つもない。
十年前にはまだあったらしいが、カロック商会が皇都を支配し始めると、それにあわせて全て閉店に追い込まれてしまった。
理由はいくつかあるが、その中で最も重要とされたのが、外の情報を中に入れないことだ。
ナーナルが好んで読むのは小説や絵物語だが、問題となったのはそれではない。国外の情報を発信する雑誌類に目を付けたカロック商会は、それら全てを規制することで、国民や商人たちに、この暮らしが普通なのだと思い込ませるようにした。
それは皇都だけにとどまらず、ローマリア周辺の町や村にも及んだ。
皇都に入国するためには、カロック商会の許可が必要とすることで、行商隊や旅行客など、外から訪ねて来る者に目を光らせることができる。
積み荷を検め、書物を見つけると、例外なくその場で燃やした。小説や絵物語も同じだ。
そうすることで、カロック商会はローマリアでの地位を確立し続けていたのだ。
その結果、行商人は密輸する形で書物を国内に運び、カロック商会の目を掻い潜るように取引を行う。故に割高になる。
ローマリアの外に出れば、本はいくらでも手に入る。
しかし現実問題として、そこまでする価値があるか否か。たとえ手に入ったとしても、国内に持ち帰ることができないのだから意味がない。
皇都の商人の数が年々減少傾向にあったのも、これが原因だ。
カロック商会が取り潰しになった今、店主はようやく人目を気にせず堂々と売り出すことができるようになったと続けた。
もう暫く我慢すれば、供給が増える。そうなれば価格も落ち着くだろう。書店を開こうとする者も出てくるはずだ。
その点、ナーナルの功績は大きい。
「ナーナルさんは特別だからな、お礼に一冊好きなもんを持っていきな」
銀貨五枚もする本をタダでもらってよいものだろうかと眉を潜めるナーナルは、横に立つエレンの顔を見る。すると、
「店主の好意だ。ありがたくいただこう」
「……うん。そうね!」
エレンに背中を押されたナーナルは、三冊全てを手に取り、どれにするか頭を悩ませる。
「それじゃあ……これにしようかしら」
ナーナルが選んだのは、西の国の歴史が書かれた本だった。
キルファンと出会ったことで、他国について興味が湧いたのだ。
「おじ様、この本大切にするわね。ありがとう」
「おー、今後ともご贔屓に頼むぜ!」
店主と挨拶を交わし、ナーナルとエレンは露店をあとにするのだった。
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