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「ロニカから土地を……?」
食事中、ナーナルは今日の出来事を一つずつエレンに話す。
プレゼントを探したりキルファンからかんざしをもらったことは伏せつつも、露店巡りをして楽しかったことや、ゼントに相談されたことなど、充実した一日であったことを伝える。
その中でも特にエレンの興味を引いたのが、土地の話だった。
「場所は……ここか。確かに良い立地だ」
「そうでしょう? お店を開くにはもってこいよね」
土地の権利書に目を通し、エレンが唸る。
カロック商会の件が片付き、現在はクノイル商会を立て直す最中だ。その過程でナーナルの夢である貸本喫茶を作ることができればと考えていたのだが、思わぬところから援護が入った形だ。
もちろん、使える土地が手に入ったからといって、とんとん拍子にお店を開くことができるわけではない。
ナーナルが作ろうとしているのは、露店や屋台ではないのだ。
クノイル商会には人手が少なく、これからも暫くはロニカとルベニカ商会の手を借りることになるだろう。
「お店は一から建てないといけないから、まだ時間がかかるわ。でも自分の好きなように作れるから夢が膨らむわね」
理想の貸本喫茶を思い浮かべているのだろう。
ナーナルは目を瞑り、満足気な表情を浮かべている。
「だとすれば、早いうちに備品の調達をした方がいいな」
「備品? ……あぁ、お店で使う調理器具やティーカップとかのこと?」
「それもある。でも一番必要なのは別にあるだろう?」
必要なもの……?
ナーナルは眉をひそめるが、すぐに思い付く。
「本のことね!」
「正解だ」
ナーナルが開くのは、ただの喫茶店ではない。
本を読み、借りることのできる、貸本喫茶だ。
「そうよね……本がないとわたしの思い描く喫茶店にはならないわ」
浮かれている場合ではない。やるべきことはたくさんあるのだ。
けれどもナーナルは、不安など感じていなかった。
「ところで、エレンの明日の予定は? わたしは西地区で露店を開いている人たちの話を聞いて回ろうと思っているのだけれど」
「西地区か。それならついでに屋台巡りはどうだ? 俺も明日は西地区の屋台に顔を出すつもりだったからな」
「そうだったの? それなら一緒に行動できそうね」
北地区の商人たちの話や要望はあらかた聞いて回り、改善すべき点を見つけることができた。次は西地区に足を運ぶ番だ。
「今日は探し物が見つからなかったみたいだからな。明日は一緒に探すか」
「それは……次の機会にしようかしら。それよりも、本を探したいかも」
エレンと一緒に、エレンに渡すプレゼントを探すわけにはいかない。
だから今回は喫茶店に置く予定の本を探すことにしよう。ナーナルはそう考えた。
招待祭のとき、ナーナルはお店の一つ一つに顔を出し、店主と言葉を交わした。
その際、商品をじっくりと見る時間はなかったのだが、本を売る屋台や露店をいくつか見かけた。
数自体は少なく、それもティリスが捕まって以降、ぽつぽつと目にする程度ではあったが、時間さえあればナーナルは足を運びたいと思っていた。
だからこれはいい機会と言えるだろう。
「どんな本に出会えるか楽しみ……」
明日、エレンと二人で西地区を散策する姿を想像しつつ、ナーナルは食事を再開するのであった。
食事中、ナーナルは今日の出来事を一つずつエレンに話す。
プレゼントを探したりキルファンからかんざしをもらったことは伏せつつも、露店巡りをして楽しかったことや、ゼントに相談されたことなど、充実した一日であったことを伝える。
その中でも特にエレンの興味を引いたのが、土地の話だった。
「場所は……ここか。確かに良い立地だ」
「そうでしょう? お店を開くにはもってこいよね」
土地の権利書に目を通し、エレンが唸る。
カロック商会の件が片付き、現在はクノイル商会を立て直す最中だ。その過程でナーナルの夢である貸本喫茶を作ることができればと考えていたのだが、思わぬところから援護が入った形だ。
もちろん、使える土地が手に入ったからといって、とんとん拍子にお店を開くことができるわけではない。
ナーナルが作ろうとしているのは、露店や屋台ではないのだ。
クノイル商会には人手が少なく、これからも暫くはロニカとルベニカ商会の手を借りることになるだろう。
「お店は一から建てないといけないから、まだ時間がかかるわ。でも自分の好きなように作れるから夢が膨らむわね」
理想の貸本喫茶を思い浮かべているのだろう。
ナーナルは目を瞑り、満足気な表情を浮かべている。
「だとすれば、早いうちに備品の調達をした方がいいな」
「備品? ……あぁ、お店で使う調理器具やティーカップとかのこと?」
「それもある。でも一番必要なのは別にあるだろう?」
必要なもの……?
ナーナルは眉をひそめるが、すぐに思い付く。
「本のことね!」
「正解だ」
ナーナルが開くのは、ただの喫茶店ではない。
本を読み、借りることのできる、貸本喫茶だ。
「そうよね……本がないとわたしの思い描く喫茶店にはならないわ」
浮かれている場合ではない。やるべきことはたくさんあるのだ。
けれどもナーナルは、不安など感じていなかった。
「ところで、エレンの明日の予定は? わたしは西地区で露店を開いている人たちの話を聞いて回ろうと思っているのだけれど」
「西地区か。それならついでに屋台巡りはどうだ? 俺も明日は西地区の屋台に顔を出すつもりだったからな」
「そうだったの? それなら一緒に行動できそうね」
北地区の商人たちの話や要望はあらかた聞いて回り、改善すべき点を見つけることができた。次は西地区に足を運ぶ番だ。
「今日は探し物が見つからなかったみたいだからな。明日は一緒に探すか」
「それは……次の機会にしようかしら。それよりも、本を探したいかも」
エレンと一緒に、エレンに渡すプレゼントを探すわけにはいかない。
だから今回は喫茶店に置く予定の本を探すことにしよう。ナーナルはそう考えた。
招待祭のとき、ナーナルはお店の一つ一つに顔を出し、店主と言葉を交わした。
その際、商品をじっくりと見る時間はなかったのだが、本を売る屋台や露店をいくつか見かけた。
数自体は少なく、それもティリスが捕まって以降、ぽつぽつと目にする程度ではあったが、時間さえあればナーナルは足を運びたいと思っていた。
だからこれはいい機会と言えるだろう。
「どんな本に出会えるか楽しみ……」
明日、エレンと二人で西地区を散策する姿を想像しつつ、ナーナルは食事を再開するのであった。
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