妹に婚約者を寝取られましたが、未練とか全くないので出奔します

ひじり

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【86】

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 あれから場所を屋台に移して暫く談笑したあと、ナーナルはロニカと別れて家に戻った。
 玄関の鍵が開いている。エレンが先に帰宅していた。

「ただいま。もう帰っていたのね、エレン」

 夕食の準備をしていたのだろう。
 台所に立つエレンの背に声をかける。

「ああ、おかえりナーナル。買い物に行っていたのか?」
「ええ、気分転換にいいかもと思って」

 今日は一日充実していた。
 朝はエレンが作った料理を味わい、プレゼントを探しに露店巡りをした。
 午後はルベニカ商会に顔を出してゼントに捕まり、ロニカに連れられて土地を見てきた。そのあとは世間話をしながら時間が過ぎていき、あっという間に夕方だ。
 ここに来てからというもの、楽しいことが多く、明日は何があるのだろうかとワクワクする毎日だった。

「お目当てのものは見つかったか」
「うーん、それがあまりピンとくるものがなかったのよね」

 色んな露店を見て回ったが、結局手ぶらのナーナルは、残念そうにため息を吐く。
 しかしすぐに表情を変え、エレンの傍に寄った。

「でも、エレンの顔を見たら元気になったみたい。だからまた今度探してみるわ」

 エレンの顔を見るためにルベニカ商会に行き、それが空振りに終わったときはがっかりしたが、その気持ちも一瞬で晴れになる。

「いっぱい歩いてお話したから、お腹空いちゃった」
「もうできてる。すぐご飯にしよう」
「ええ、着替えてくるから少し待ってて」

 一旦、ナーナルは自分の部屋に入る。
 小鞄を机の上に置いて、そこでキルファンからもらったかんざしの存在を思い出す。
 身に着けるつもりはなく、だからといって大事にしまっておくのも勿体ないと思う。

「……やっぱり、返した方がいいわね」

 プレゼントしてもらったことは嬉しいが、やはりこれは勘違いの素だ。キルファンには申し訳ないが、次に街で再会したときに返してしまおう。
 そう考え、ナーナルはかんざしを小鞄に入れておくにした。

 着替えて居間に戻ってみると、夕食の支度は既に終わっていた。

「食べるか」
「うん」

 二人揃ってご飯を食べ始める。
 この至って普通の日常が、ナーナルは幸せでたまらない。

「そうそう、さっきお話したって言ったでしょう? 実はゼントさんの悩み……相談? を聞いていたのだけれど、途中でロニカが部屋に入ってきて、一緒に街を歩くことになったの」
「ロニカと……? いや、ゼントさんと会って……ってことは、商会に来たのか?」
「あっ」

 指摘され、しまった……とナーナルは固まる。
 今日は一日ゆっくりしてほしいと言われていたのに、内緒で商会に顔を出したのがバレてしまい、ナーナルはそっと視線を逸らす。

「ナーナル」
「うっ、……だ、だって、エレンに会いたかったから……」

 言い訳を口にして、視線を戻してみる。
 気のせいだろうか、エレンは笑うのを我慢しているように見える。

「せっかく会いに来たのに、外出中でいなかったってわけか」
「そ、そうなの! だからわたし、すぐに帰ろうとしたのよ? でもゼントさんに捕まってしまって……エレン?」
「く、くく……」

 喉を鳴らし、エレンが笑いを堪える。
 やはり我慢していたらしい。

「どうして笑うのよ」
「いや、毎日こうして顔を合わせてご飯を食べているのに、そんなに俺に会いたかったのかと思ってな」
「――ッ」

 自分が言ったことだが、エレンの口から聞くと途端に恥ずかしくなってくる。
 ナーナルは顔が真っ赤になるのを感じた。

「べ……別にいいでしょう? 一人でいるよりもエレンと一緒の方がいいもの」
「同感だ。俺もナーナルと一緒にいたい」
「っ、……そういうところが、ズルいのよね……」

 エレン自身もナーナルと同じことを考えている。
 その気持ちがあっさりと分かってしまい、ナーナルは嬉しくなると同時に、先に言わせることのできない自分が情けなくなってしまう。

 だが、構うことはない。
 幸せならそれでいい。

「相変わらず、エレンって意地悪よね」
「ナーナル限定だけどな」
「……うん」

 そう言って、ナーナルは諦めたように頬を緩めてみせるのだった。
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