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【幕間】苦肉の策
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痛い。痛い。痛い。
あれから何日経った?
全然痛みが取れないんだけど!
手のひらの痛みに苦しむカルデは、リックと親衛隊、そして王城の兵士たちを引き連れて、王立図書館へと向かった。
そこで禁書棚を片っ端から調べ上げ、呪いについて書かれた本を見つけた。
これでこのムカつく痛みともさよならすることができる。
そう思っていた。
だが、そこまでだ。
ひとえに呪いと言っても、その種類は山ほどある。カルデがかけられた呪いの症状と一致するものは、一つも見当たらなかった。
「仮の話だが、この呪いがエナ・ローリアの手によってかけられたものだとするならば、解く方法は一つしかないだろう」
「なに? なによ? 言いなさい! もったいぶらずにさっさと言いなさいよ!」
禁書棚では見つけることのできなかった解呪方法に、宰相は心当たりがあるらしい。だがそれは、既に手遅れとも言える方法だった。
「呪いをかけた本人……エナ・ローリアを呼び出し、直接解呪させるのです」
「っ、それができたらこんなに苦労してないっての!」
宰相の言葉に、カルデは声を荒げる。
呪いの症状が出始めてから、二日が過ぎている。今更エナを呼び出そうにも、どこに行ったか定かではない。
こんなことになると知っていたのであれば、エナを国外追放処分になどしなかった。
もしこのまま帝国大陸に渡ってしまったら、追いかけることも困難だ。
「どうする……どうする……どうすればいいの……っ!!」
たった二日で、既に手のひら全体が黒に染まっていた。明日には手の甲にまで侵食し、更に時が進むことになれば、全身が苦痛に蝕まれるだろう。
――そんな目に遭ってたまるかっての!
「っ、いいわ……これはある意味、あたしへの試練ってやつよね……だったら、あんたたちの想像を超えたやり方で乗り越えてやるんだから……ッ」
ブツブツと独り言を呟いているが、その目は虚ろになってはいない。カルデは正気だ。そんな彼女が下した決断は、想像を絶するものだった。
「か、カルデ……!? きみはいったい何をしようと――ああああっ!?」
カルデは、リックが腰に携える長剣を強引に引き抜き、大きく深呼吸する。
そして躊躇うことなく、己の右手首を斬り落とした。
「――いぎいいいっ!!」
痛い、痛い、痛い。呪いよりも痛い!
「あっ、ああっ、あああああっ!!」
この痛みは誰のせい?
誰があたしに苦しい思いをさせたの?
「ひっ、……ひ、ぐっ、ふふ……ふふふっ」
それはもちろん、あいつに決まってる。
エナ・ローリアのせいに決まってる!
解呪しなくとも呪いを解く方法はある。勇気のない普通の人間には到底できないやり方だが、カルデにはそれができた。
「どうよ! エナァ! これであんたの呪いは効かなくなったわよ!」
痛みで視界がぼやける中、カルデは「勝った」と笑う。
しかし、カルデはまだ気付いていなかった。
既に呪いが全身に巡っているということに。
あれから何日経った?
全然痛みが取れないんだけど!
手のひらの痛みに苦しむカルデは、リックと親衛隊、そして王城の兵士たちを引き連れて、王立図書館へと向かった。
そこで禁書棚を片っ端から調べ上げ、呪いについて書かれた本を見つけた。
これでこのムカつく痛みともさよならすることができる。
そう思っていた。
だが、そこまでだ。
ひとえに呪いと言っても、その種類は山ほどある。カルデがかけられた呪いの症状と一致するものは、一つも見当たらなかった。
「仮の話だが、この呪いがエナ・ローリアの手によってかけられたものだとするならば、解く方法は一つしかないだろう」
「なに? なによ? 言いなさい! もったいぶらずにさっさと言いなさいよ!」
禁書棚では見つけることのできなかった解呪方法に、宰相は心当たりがあるらしい。だがそれは、既に手遅れとも言える方法だった。
「呪いをかけた本人……エナ・ローリアを呼び出し、直接解呪させるのです」
「っ、それができたらこんなに苦労してないっての!」
宰相の言葉に、カルデは声を荒げる。
呪いの症状が出始めてから、二日が過ぎている。今更エナを呼び出そうにも、どこに行ったか定かではない。
こんなことになると知っていたのであれば、エナを国外追放処分になどしなかった。
もしこのまま帝国大陸に渡ってしまったら、追いかけることも困難だ。
「どうする……どうする……どうすればいいの……っ!!」
たった二日で、既に手のひら全体が黒に染まっていた。明日には手の甲にまで侵食し、更に時が進むことになれば、全身が苦痛に蝕まれるだろう。
――そんな目に遭ってたまるかっての!
「っ、いいわ……これはある意味、あたしへの試練ってやつよね……だったら、あんたたちの想像を超えたやり方で乗り越えてやるんだから……ッ」
ブツブツと独り言を呟いているが、その目は虚ろになってはいない。カルデは正気だ。そんな彼女が下した決断は、想像を絶するものだった。
「か、カルデ……!? きみはいったい何をしようと――ああああっ!?」
カルデは、リックが腰に携える長剣を強引に引き抜き、大きく深呼吸する。
そして躊躇うことなく、己の右手首を斬り落とした。
「――いぎいいいっ!!」
痛い、痛い、痛い。呪いよりも痛い!
「あっ、ああっ、あああああっ!!」
この痛みは誰のせい?
誰があたしに苦しい思いをさせたの?
「ひっ、……ひ、ぐっ、ふふ……ふふふっ」
それはもちろん、あいつに決まってる。
エナ・ローリアのせいに決まってる!
解呪しなくとも呪いを解く方法はある。勇気のない普通の人間には到底できないやり方だが、カルデにはそれができた。
「どうよ! エナァ! これであんたの呪いは効かなくなったわよ!」
痛みで視界がぼやける中、カルデは「勝った」と笑う。
しかし、カルデはまだ気付いていなかった。
既に呪いが全身に巡っているということに。
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