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【15】ガルモール
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森の中で盗賊と遭遇してから、丸一日が過ぎた。
半強制的に食料を分けてもらったおかげで、エナは途中で行き倒れることなく、無事に目的地である町――ガルモールへと辿り着くことができた。
此処ガルモールは、山岳地帯の麓に作られた大きな町だ。
王都と比べると、さすがに見劣りするかもしれないが、それでも町の中には数え切れないほどの人たちが住み着いている。
また、冒険者ギルドも存在し、昼夜問わず活気に満ちていた。
多種多様なお店が軒を連ねており、ここで衣食住の全てをまかなうことができるので、多くの冒険者がガルモールを拠点に活動し、人気の高い町となっている。
平民が普通に生活するにしても、困るようなことは滅多にないだろう。
だが、此処は王国大陸だ。ガルモールは王国の支配下にある。
エナはガルモールに根を張るつもりはないし、長居しようとも思っていない。国外追放処分を受けた身なのだから当然だ。
ここから帝国大陸を目指し、人の足で行き来できる道を更に北麓へと進んで行くと、王国と帝国との国境が見えてくる。
二国は友好的ではなく、異世界転生者を巡る駆け引きが行われるような関係だ。
それは二国を行き来する行商隊や冒険者、旅人たちにも少なからず影響を及ぼしている。
国境を越えるとき、それが誰であろうと例外なく、己の身分の証明が必要となる。
隣国のスパイではないか入念に調査するのだ。
少しでも怪しまれるようなことがあれば、拘束の対象となってしまう。
魔物退治で生計を立てる冒険者や、行商を生業にする商人など、拘束されてしまっては生活するために必要なお金を稼ぐこともできなくなる。
面倒ごとに巻き込まれたくなければ、国境を越えるようなことはせずに、大人しく王国大陸で過ごした方がいいだろう。
また、これに関してはエナも人ごとではない。
どうやって国境を越えるかを考えなければならないからだ。
正直に、国外追放されましたと説明して、納得してもらえるとも思えない。
爵位を剥奪されたと言っても、はいそうですかと通してもらえるはずもない。
王国の貴族が魔力を持つことは、帝国にも知れ渡っている。
故に、帝国側からすれば、最も警戒すべき相手と言えるだろう。
困ったものだと頭を悩ませるが、とにかく今は疲れを取りたい。
食料と手持ちを増やすことはできたが、人生初の野宿を体験したことで、エナの体は悲鳴を上げている。可能であるならば、フカフカのベッドで体を休めたい。
ガルモールの町中をしばらく歩くと、安宿を見つける。幸いなことに、手持ちで一泊することができるので、今夜はそこに泊まることにした。
「はぁ、……硬い」
部屋に入り湯浴みをして、薄くて硬いベッドに倒れ込む。掃除が行き届いていないのか、埃っぽさが気になって仕方がない。
だが、野宿よりは断然いい。あれに比べれば、ここは天国だ。
「さあ、計画を立てないと……」
エナにとって、怒涛の三日間だった。
一日目にリックとの婚約を破棄し、二日目にほぼ全てを失って王都を発った。そして三日目、森の中をひたすら歩き続けてようやくガルドールに着くことができた。
心を落ち着ける余裕など、エナは持ち合わせていない。
決して感情を表に出さず、ただただ気丈に振る舞っていた。
でも、もう隠す必要はない。
エナは一人になってしまったし、この町にエナを知る者はほぼいないだろう。
だがそれでも、エナは弱みを見せない。自分の目的を果たすために、これから何を成すべきか、考えなければならないからだ。
父を牢獄から救い出し、奪われた財産と爵位を再び取り戻す。当然のことながら、カルデにもやり返さなくては気が済まない。
ではそのために、エナは何をすればいいのか。
貴族の地位は失ったが、魔法を使うことはできる。
その力を利用して、冒険者として大成すればいい。危険は付きものだが、上手くいけば大金を稼ぐことができる。
だが、金の力だけではどうにもならない。
恩赦でもなければ父を救い出すことはできないし、金の力では一代限りの爵位しか持つことができない。
では、どうする?
「……結局、選択肢は一つしかないのよね」
その答えは、既に出ている。
それは途方もないことだ。他の誰が聞いても鼻で笑うだろう。
だが、それを成し遂げなければならない。
そしてエナは、それを現実のものとするつもりだ。
薄暗い部屋の天井を見ながら、エナは改めて決意する。
それからしばらくして、心が休まったのだろう。エナは泥のように深い眠りにつくのだった。
半強制的に食料を分けてもらったおかげで、エナは途中で行き倒れることなく、無事に目的地である町――ガルモールへと辿り着くことができた。
此処ガルモールは、山岳地帯の麓に作られた大きな町だ。
王都と比べると、さすがに見劣りするかもしれないが、それでも町の中には数え切れないほどの人たちが住み着いている。
また、冒険者ギルドも存在し、昼夜問わず活気に満ちていた。
多種多様なお店が軒を連ねており、ここで衣食住の全てをまかなうことができるので、多くの冒険者がガルモールを拠点に活動し、人気の高い町となっている。
平民が普通に生活するにしても、困るようなことは滅多にないだろう。
だが、此処は王国大陸だ。ガルモールは王国の支配下にある。
エナはガルモールに根を張るつもりはないし、長居しようとも思っていない。国外追放処分を受けた身なのだから当然だ。
ここから帝国大陸を目指し、人の足で行き来できる道を更に北麓へと進んで行くと、王国と帝国との国境が見えてくる。
二国は友好的ではなく、異世界転生者を巡る駆け引きが行われるような関係だ。
それは二国を行き来する行商隊や冒険者、旅人たちにも少なからず影響を及ぼしている。
国境を越えるとき、それが誰であろうと例外なく、己の身分の証明が必要となる。
隣国のスパイではないか入念に調査するのだ。
少しでも怪しまれるようなことがあれば、拘束の対象となってしまう。
魔物退治で生計を立てる冒険者や、行商を生業にする商人など、拘束されてしまっては生活するために必要なお金を稼ぐこともできなくなる。
面倒ごとに巻き込まれたくなければ、国境を越えるようなことはせずに、大人しく王国大陸で過ごした方がいいだろう。
また、これに関してはエナも人ごとではない。
どうやって国境を越えるかを考えなければならないからだ。
正直に、国外追放されましたと説明して、納得してもらえるとも思えない。
爵位を剥奪されたと言っても、はいそうですかと通してもらえるはずもない。
王国の貴族が魔力を持つことは、帝国にも知れ渡っている。
故に、帝国側からすれば、最も警戒すべき相手と言えるだろう。
困ったものだと頭を悩ませるが、とにかく今は疲れを取りたい。
食料と手持ちを増やすことはできたが、人生初の野宿を体験したことで、エナの体は悲鳴を上げている。可能であるならば、フカフカのベッドで体を休めたい。
ガルモールの町中をしばらく歩くと、安宿を見つける。幸いなことに、手持ちで一泊することができるので、今夜はそこに泊まることにした。
「はぁ、……硬い」
部屋に入り湯浴みをして、薄くて硬いベッドに倒れ込む。掃除が行き届いていないのか、埃っぽさが気になって仕方がない。
だが、野宿よりは断然いい。あれに比べれば、ここは天国だ。
「さあ、計画を立てないと……」
エナにとって、怒涛の三日間だった。
一日目にリックとの婚約を破棄し、二日目にほぼ全てを失って王都を発った。そして三日目、森の中をひたすら歩き続けてようやくガルドールに着くことができた。
心を落ち着ける余裕など、エナは持ち合わせていない。
決して感情を表に出さず、ただただ気丈に振る舞っていた。
でも、もう隠す必要はない。
エナは一人になってしまったし、この町にエナを知る者はほぼいないだろう。
だがそれでも、エナは弱みを見せない。自分の目的を果たすために、これから何を成すべきか、考えなければならないからだ。
父を牢獄から救い出し、奪われた財産と爵位を再び取り戻す。当然のことながら、カルデにもやり返さなくては気が済まない。
ではそのために、エナは何をすればいいのか。
貴族の地位は失ったが、魔法を使うことはできる。
その力を利用して、冒険者として大成すればいい。危険は付きものだが、上手くいけば大金を稼ぐことができる。
だが、金の力だけではどうにもならない。
恩赦でもなければ父を救い出すことはできないし、金の力では一代限りの爵位しか持つことができない。
では、どうする?
「……結局、選択肢は一つしかないのよね」
その答えは、既に出ている。
それは途方もないことだ。他の誰が聞いても鼻で笑うだろう。
だが、それを成し遂げなければならない。
そしてエナは、それを現実のものとするつもりだ。
薄暗い部屋の天井を見ながら、エナは改めて決意する。
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