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【13】元貴族

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 回り道ではなく、森を突き進む道を選択したエナは、その日は木々に囲まれたまま野宿することになった。

 生まれてこの方、エナは野宿などしたことがなかったが、近くの町に着くにはまだまだ時間がかかる。
 それにこれから先は自分一人の力で生きていかなければならない。ロドに助けを求めることはできないのだ。

 爵位を剥奪されて貴族の地位を失った今、好き嫌いで拒否することは難しい。
 だから、たとえそれがエナにとって歓迎すべきことではないとしても、何事も経験と受け入れるしかない。

 とは言ったものの、嫌なものは嫌である。
 たとえば面倒ごとがあちらから顔を出してきた場合、対処するために無駄な時間を費やさなければならない。

「はぁ……」

 ついつい、ため息が漏れる。
 それは、まとまった量の木の枝を集め終えたエナが、辺りに燃え移らないように気をつけながら火を起こそうとしたときのことだ。

 少し離れたところに、人の気配を感じ取る。
 一人ではない。エナを標的として囲い込むように、四人の息遣いや移動音が耳に届く。

「かくれんぼの必要はないから、出てきなさい」

 誰に言うでもなく、エナが声を上げる。
 すると、小汚い格好をした男共が、暗い森の中から姿を現した。その風貌や態度、表情から察するに、街道から外れて近道をする人たちを狙った輩――盗賊で間違いないだろう。

「へっへっへ。お嬢ちゃん、一人でこんなところにいると危ないぜ?」
「月並みな台詞をどうもありがとう」

 ロドと二人で王都と町を行き来していたときは、男爵家の家紋の入った馬車を先頭に、冒険者を用心棒代わりに雇っていた。故に、この手の輩と遭遇することは一度もなかった。

 だが、今はエナ一人だ。

「大人しく金目のもんを出しな? そしたらちっとは優しく扱ってやるからよ」

 それはつまり、たとえここで男たちの言う通りに従ったとしても、されるがままになるということだ。
 拒否権はないと言わんばかりの態度だが、エナは鼻で笑う。

「残念だけど……わたし、一文無しなの」
「は?」
「それとね、貴方たちの言いなりにはなるつもりもないから」
「おいおい、てめえ……自分の立場分かってんのか?」
「ええ、もちろん分かっているわ。相手の力量を測ることもできない間抜けに絡まれている最中ね」
「このアマがっ!」

 エナの台詞に怒った一人が、殴りかかろうとする。だが、

「――がっ!?」

 何が起こったのか、その男は一瞬にして森の奥へと吹き飛ばされてしまう。

「……ま、魔法だ! こいつ、魔法を使うぞ!」
「魔力持ち……! まさかてめえ、貴族かっ!?」
「残念だけど、それは間違い」

 だって、と付け加え、エナは薄く笑う。

「今のわたしは“元貴族”だもの」
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