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【12】回り道

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 カルデが“呪い”に苦しむよりも少し前、エナが王都を出てから半日が過ぎた頃。

「はぁ、馬車が恋しい……」

 思わず心の声が漏れる。
 エナは背を振り返り、来た道を見ながら肩を落とす。

 現在、エナが立っている場所は、王都と近隣の町を繋ぐ街道の途中だ。この先を更に進んで行くと、森林地帯が姿を見せることになる。

 近道をするには、真っ直ぐに森の中を突き進んだ方が早いのだが、ロドと共に馬車で移動していたとき、回り道したことを思い出す。

 森の中には、魔物が出る。その他にも、行商隊を狙う盗賊が潜んでいる可能性もある。
 危険がつきものと知っている者ならば、回り道をすることを躊躇うことはない。

 そしてこれが馬車旅であれば、たとえ回り道したとしても、大した時間もかからずに目的地へ着くことができるだろう。

 だが、エナは徒歩だ。
 身一つで屋敷を追い出されてしまったので、歩くほかに手段がない。

 交易馬車を利用することで、足が疲れることなく移動することもできたのだが、残念ながら手持ちはほぼゼロだ。移動手段にお金を使えるほどの余裕がなかった。

 では回り道をした場合、あと何日かかるだろうか。

 エナは、馬車で移動していたときのことを思い出す。確か半日もあれば町に着いていたはずだ。
 だとすれば、今の移動速度では二日から三日は要すると思った方がいい。

 その間、食事はどうするつもりなのか。

 携帯食料など、持っているはずもない。途中でお腹が空いたとしても、何も口に入れることができない状況が続くことになる。
 水も同じく、この街道沿いに喉を潤せるような場所はなかったと記憶している。

 しかしだ、国外追放処分となったエナには、王都に引き返すという選択肢はない。
 つまり、選ぶべき道は初めから一つしかないということだ。

 面倒なことこの上ないが、己の体調管理はもちろんのこと、早めに町に着きたいのであれば、危険を承知で森に入らざるを得ない。それが今、エナの置かれた状況であった。

「……前途多難ね」

 厳しい旅路になるだろう。
 住み慣れた屋敷と王都から離れなければならず、誰の助けを借りることも許されず、たった一人で道を切り開かなければならない。

 けれども、思考を放棄することはない。

 ロドが身代わりを申し出なければ、今頃エナは投獄されていたに違いない。
 それと比べれば、身一つとはいえ国外追放されるだけで済むというのは、軽い処分にもほどがある。エナはそう思っていた。

 そして幸いなことに、エナは元貴族だ。その肩書が意味するところが一つある。
 女性が一人で街道を歩き、近道をするために森の中に入ったとしても、問題が発生し難いことの証明となるだろう。

 それは、王国大陸の制度が関係していた。
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