10 / 22
【10】宣言
しおりを挟む
「ふ~ん? ここがローリア家の屋敷ね~? 仮にも元貴族が住んでたところだし、もっとおっきいのを想像してたんだけどなぁ~。なんか小っちゃくて古臭いって感じ? ほら、例えると~、まるで犬小屋みたい! アハハッ!」
見送りに来たわけではない。
単純に、エナの惨めな姿を見たくて来ただけだ。カルデの表情を見なくとも、すぐに理解することができる。
「ねえ、リック~。あたしが住んでる伯爵邸と比べたら可哀そうだと思わない~?」
「あ、……うん、そうだね」
リックは、歯切れの悪い返事をする。
目線は明後日の方向にあり、エナと目を合わせないようにすることに必死のようだ。
「何か御用でも」
無視したままやり過ごすことも考えたが、どうせ呼び止められることになる。
だとすれば、こちらから声をかけた方が一秒でも早く終わるはずだ。
そう考えたエナは、面倒だと言わんばかりの表情で口を開いた。
「はぁ~? 何か御用でも? いやいやいやいや、何言ってんの、おバカさん? 御用も何も、ここはあたしの荷物置き場として使うことになったから来たんですけど? ってか、あんたまだここに居たの? 早く出て行きなさいよ、邪魔だから♪」
その台詞から察するに、ローリア家の財産はカルデの所有となったのだろう。差し出した相手は国王だったはずだが、あのあと更にひと悶着あったに違いない。
カルデがわがままを言って強引に自分のものにした、といったところだろうか。
「それは失礼。すぐに去るから安心してちょうだい」
あっさりと会話を終わらせる。
カルデの相手をするのは時間の無駄だ。エナにとっては、何の得にもならない。
「あ、ちょ、ちょっと、もう終わり!?」
だが、カルデは同意見ではないらしい。
「まだ、何か?」
エナと顔を合わせるのは、これが最後になるのだ。言い残したことがないように、ここで思う存分スッキリするつもりでいた。
「えっと~、ほら。アレよ。悪いわね~、エナ? あんたが持ってたもの、ぜーんぶあたしがもらっちゃったじゃない? さすがのあたしも罪悪感? ってやつが芽生えちゃったりしないこともなかったりしてさ~」
邪魔だから出て行けと言ったくせに、わざわざ呼び止めて、言いたかったのはそんなことか。
予想通りの行動に、エナは内心深いため息を吐いた。
「あんたの婚約者に~、男爵令嬢の肩書でしょ? 住んでたお家もそうだし、あとは……あのおっさんも! 正直言ってさ~、最初はここまでするつもりはなかったのよね。でも、やっぱりあたしの中の正義が許さなかったって言うか、あんたみたいなタイプの女って、個人的にむかつくのよね~。それにさ、将来的に絶対邪魔になるって分かり切ってたし、今のうちに対処しとかないとヤバいと思ったのよね~。だからしょうがないってことで納得してもらえると、あたしも嬉しいって言うか、一件落着って感じ?」
エナを前に、積もり積もった思いを、これでもかと吐き捨てていく。
そのおかげで、エナは全てを悟った。
「婚約破棄の次は、爵位剥奪……それに加えて、わたしの大切なものを全部まとめて欲しがるだなんて、随分とえげつない性格をしているのね」
「は? えげつない? くふっ、バカ言ってんじゃないわよ。ってか、あんたみたいなやつと比べたら、むしろ優しすぎるっての。だってあんた、本当は一生牢屋生活するはずだったのに、国外追放で許してやったんだからさ。あのおっさんにも感謝しなさいよ~? あんたの代わりに何もかも失って牢屋にぶち込まれたんだからさ~」
言われて、顔が浮かぶ。
男手一つで育ててくれた父のために、今の自分にできることは何かあるだろうか。
もちろん、ある。
それはすぐに定まった。
「何もかも失ったわけだけど~、今どんな気持ち? ねえ、今どんな気持ち~? ああそうだ、今あたしの靴を舐めたら、ちょっとぐらい施しを与えてあげてもいいんだけどなあ~」
「構わないわ」
その返事に、リックが驚き、カルデは嬉しそうに笑う。
だが、それは別の意味だ。
エナはカルデと目を合わせ、強い口調で言い放つ。
「カルデ・リスタ伯爵令嬢。貴女に奪われたもの、その全てを金の力で取り戻してみせるから」
「……? 金の力? ……は? バカ? バカなの? あんたさ、今日から一文無しなのよ? それで金の力って? ぷっ、頭おかしいんじゃないの? どうやってお金を調達するつもりよ? みすぼらしい体でも売るつもり?」
「貴女のおつむでは思いつかない方法よ」
「――ッ!! あんたあたしを侮辱して、ただで済むと思って――ひっ!?」
怒りに身を任せたカルデが、エナの腕を強引に掴む。
だが、その手は何故か空を掴んでおり、カルデは勢い余ってその場に転んでしまう。
「痛った……ちょ、ちょっと! あたしに何したの! 今の何なのよ!!」
「それでは御機嫌よう」
説明する義務はない。
カルデに一泡吹かせたエナはそれだけ言い残し、二人の間を通って屋敷の外に出る。
手荷物は持たずに、着の身着のままで。
エナは長年住んだローリア家に別れを告げ、歩みを進めるのだった。
見送りに来たわけではない。
単純に、エナの惨めな姿を見たくて来ただけだ。カルデの表情を見なくとも、すぐに理解することができる。
「ねえ、リック~。あたしが住んでる伯爵邸と比べたら可哀そうだと思わない~?」
「あ、……うん、そうだね」
リックは、歯切れの悪い返事をする。
目線は明後日の方向にあり、エナと目を合わせないようにすることに必死のようだ。
「何か御用でも」
無視したままやり過ごすことも考えたが、どうせ呼び止められることになる。
だとすれば、こちらから声をかけた方が一秒でも早く終わるはずだ。
そう考えたエナは、面倒だと言わんばかりの表情で口を開いた。
「はぁ~? 何か御用でも? いやいやいやいや、何言ってんの、おバカさん? 御用も何も、ここはあたしの荷物置き場として使うことになったから来たんですけど? ってか、あんたまだここに居たの? 早く出て行きなさいよ、邪魔だから♪」
その台詞から察するに、ローリア家の財産はカルデの所有となったのだろう。差し出した相手は国王だったはずだが、あのあと更にひと悶着あったに違いない。
カルデがわがままを言って強引に自分のものにした、といったところだろうか。
「それは失礼。すぐに去るから安心してちょうだい」
あっさりと会話を終わらせる。
カルデの相手をするのは時間の無駄だ。エナにとっては、何の得にもならない。
「あ、ちょ、ちょっと、もう終わり!?」
だが、カルデは同意見ではないらしい。
「まだ、何か?」
エナと顔を合わせるのは、これが最後になるのだ。言い残したことがないように、ここで思う存分スッキリするつもりでいた。
「えっと~、ほら。アレよ。悪いわね~、エナ? あんたが持ってたもの、ぜーんぶあたしがもらっちゃったじゃない? さすがのあたしも罪悪感? ってやつが芽生えちゃったりしないこともなかったりしてさ~」
邪魔だから出て行けと言ったくせに、わざわざ呼び止めて、言いたかったのはそんなことか。
予想通りの行動に、エナは内心深いため息を吐いた。
「あんたの婚約者に~、男爵令嬢の肩書でしょ? 住んでたお家もそうだし、あとは……あのおっさんも! 正直言ってさ~、最初はここまでするつもりはなかったのよね。でも、やっぱりあたしの中の正義が許さなかったって言うか、あんたみたいなタイプの女って、個人的にむかつくのよね~。それにさ、将来的に絶対邪魔になるって分かり切ってたし、今のうちに対処しとかないとヤバいと思ったのよね~。だからしょうがないってことで納得してもらえると、あたしも嬉しいって言うか、一件落着って感じ?」
エナを前に、積もり積もった思いを、これでもかと吐き捨てていく。
そのおかげで、エナは全てを悟った。
「婚約破棄の次は、爵位剥奪……それに加えて、わたしの大切なものを全部まとめて欲しがるだなんて、随分とえげつない性格をしているのね」
「は? えげつない? くふっ、バカ言ってんじゃないわよ。ってか、あんたみたいなやつと比べたら、むしろ優しすぎるっての。だってあんた、本当は一生牢屋生活するはずだったのに、国外追放で許してやったんだからさ。あのおっさんにも感謝しなさいよ~? あんたの代わりに何もかも失って牢屋にぶち込まれたんだからさ~」
言われて、顔が浮かぶ。
男手一つで育ててくれた父のために、今の自分にできることは何かあるだろうか。
もちろん、ある。
それはすぐに定まった。
「何もかも失ったわけだけど~、今どんな気持ち? ねえ、今どんな気持ち~? ああそうだ、今あたしの靴を舐めたら、ちょっとぐらい施しを与えてあげてもいいんだけどなあ~」
「構わないわ」
その返事に、リックが驚き、カルデは嬉しそうに笑う。
だが、それは別の意味だ。
エナはカルデと目を合わせ、強い口調で言い放つ。
「カルデ・リスタ伯爵令嬢。貴女に奪われたもの、その全てを金の力で取り戻してみせるから」
「……? 金の力? ……は? バカ? バカなの? あんたさ、今日から一文無しなのよ? それで金の力って? ぷっ、頭おかしいんじゃないの? どうやってお金を調達するつもりよ? みすぼらしい体でも売るつもり?」
「貴女のおつむでは思いつかない方法よ」
「――ッ!! あんたあたしを侮辱して、ただで済むと思って――ひっ!?」
怒りに身を任せたカルデが、エナの腕を強引に掴む。
だが、その手は何故か空を掴んでおり、カルデは勢い余ってその場に転んでしまう。
「痛った……ちょ、ちょっと! あたしに何したの! 今の何なのよ!!」
「それでは御機嫌よう」
説明する義務はない。
カルデに一泡吹かせたエナはそれだけ言い残し、二人の間を通って屋敷の外に出る。
手荷物は持たずに、着の身着のままで。
エナは長年住んだローリア家に別れを告げ、歩みを進めるのだった。
0
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?
ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。
13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。
16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。
そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか?
ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯
婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。
恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。

心から信頼していた婚約者と幼馴染の親友に裏切られて失望する〜令嬢はあの世に旅立ち王太子殿下は罪の意識に悩まされる
window
恋愛
公爵令嬢アイラ・ミローレンス・ファンタナルは虚弱な体質で幼い頃から体調を崩しやすく常に病室のベットの上にいる生活だった。
学園に入学してもアイラ令嬢の体は病気がちで異性とも深く付き合うことはなく寂しい思いで日々を過ごす。
そんな時、王太子ガブリエル・アレクフィナール・ワークス殿下と運命的な出会いをして一目惚れして恋に落ちる。
しかし自分の体のことを気にして後ろめたさを感じているアイラ令嬢は告白できずにいた。
出会ってから数ヶ月後、二人は付き合うことになったが、信頼していたガブリエル殿下と親友の裏切りを知って絶望する――
その後アイラ令嬢は命の炎が燃え尽きる。

領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~
ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

王太子の望む妃
りりん
恋愛
ルーファット王国の王太子リンゼイには、侯爵家の次女であるマリアンヌという婚約者がいる。勢力を考慮した政略であり、可愛らしく華やかでありながらも儚げなマリアンヌとの婚約には不満はなかったが、婚儀が迫る中、中々進まない妃教育やマリアンヌの家庭環境などが気になり始めたリンゼイは·····。

無能と呼ばれ、婚約破棄されたのでこの国を出ていこうと思います
由香
恋愛
家族に無能と呼ばれ、しまいには妹に婚約者をとられ、婚約破棄された…
私はその時、決意した。
もう我慢できないので国を出ていこうと思います!
━━実は無能ではなく、国にとっては欠かせない存在だったノエル
ノエルを失った国はこれから一体どうなっていくのでしょう…
少し変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる