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【9】旅支度
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王の御前で国外追放処分を言い渡されてからしばらく。
エナの代わりに投獄されることになったロドは、その場で兵士たちに連れて行かれたので、既に離れ離れだ。
今生の別れになるにもかかわらず、ろくに言葉を交わす時間も与えられなかった。
ただ、それも仕方ないことと言えるだろう。
ロドの願いを聞き入れる形となっただけでも異例のことなのだ。それも異世界転生者であるカルデが決めたことを変えたのだから、二人にとっては感謝するほかにない。
一方、屋敷に戻ったエナには、監視の名目でカルデの親衛隊がついていた。
ロドのおかげで投獄を免れ、国外追放処分で済むとはいえ、エナは己の財産を持ち出すことも許可されていない。ほぼ身一つで出て行かなければならなかった。
エナ個人が持つ財産でさえも、ローリア家のものとみなされるので、それに従う必要があるのだ。
「手早く済ませろ、いいな」
エナが自室に入り、金目のものを除く必要最低限の旅支度を整える最中も、親衛隊の目に晒される。貴族ではなくなったエナには、もはやプライバシーなど存在しない。
今やただの一般国民である。
否、国外追放となったエナは、王国国民ですらない。
この先、王国の庇護を受けることは許されない立場となる。
「余裕のない殿方は敬遠されるから、気をつけた方がいいかも」
「は? 何の話だ」
独り言を呟くようにエナが口を開くと、親衛隊の一人が眉間に皺を寄せて問いかけてくる。
「好きなんでしょう? 彼女のこと」
「ッ、な、何をバカなことを……‼︎」
「特に彼女のような性格だと、追うよりも追わせた方が盛り上がるんじゃないかしら」
「追うよりも……なるほど、確かにカルデ様にはその方が……って、無駄口を叩く暇があるなら、さっさと支度しろ!」
何を言われたのか理解したのだろう。図星を突かれた親衛隊の男は顔を赤くし、怒りを露わにする。
「はいはい、仰せのままに」
その姿を見て、エナは少しだけ息を吐く。
好きになった相手がアレでは、大変なことこの上ない。それ以前に異世界転生者と親衛隊の一人では見込みもないだろう。
もちろん、そんなことは口にせず、エナは言われた通りに手を動かした。
そして、いよいよそのときが訪れる。
「今日でこの家ともお別れね……」
母は自分を産むと同時に亡くなり、父は自分の身代わりとして投獄されることとなった。
信用していた婚約者のリックには、土壇場で裏切られてしまった。
この世界の生まれではない異世界転生者のカルデには、謂れのない罪を押し付けられた。
結果として、エナは国外追放処分となり、現在に至る。
何の冗談かと笑いたくなるが、これが現実だ。
目を背けて逃避する暇もない。
エナは、ローリア家の従者一人一人に、世話になったと言葉をかけていく。
何が何やら分からぬうちに仕事を失い、屋敷を追い出される形となったのだ。
きっと、不安に違いない。
申し訳ないと思いつつも、何も手助けすることができないことが不甲斐なかった。
できれば今後、彼らが路頭に迷わないことを祈るばかりだ。
挨拶を済ませたあと、エナは親衛隊の男たちと共に屋敷の外に出る。
そして、そんなエナを待つ人物が二人。
「リック、……カルデ伯爵令嬢」
カルデの顔は、意地悪そうに歪んでいた。
エナの代わりに投獄されることになったロドは、その場で兵士たちに連れて行かれたので、既に離れ離れだ。
今生の別れになるにもかかわらず、ろくに言葉を交わす時間も与えられなかった。
ただ、それも仕方ないことと言えるだろう。
ロドの願いを聞き入れる形となっただけでも異例のことなのだ。それも異世界転生者であるカルデが決めたことを変えたのだから、二人にとっては感謝するほかにない。
一方、屋敷に戻ったエナには、監視の名目でカルデの親衛隊がついていた。
ロドのおかげで投獄を免れ、国外追放処分で済むとはいえ、エナは己の財産を持ち出すことも許可されていない。ほぼ身一つで出て行かなければならなかった。
エナ個人が持つ財産でさえも、ローリア家のものとみなされるので、それに従う必要があるのだ。
「手早く済ませろ、いいな」
エナが自室に入り、金目のものを除く必要最低限の旅支度を整える最中も、親衛隊の目に晒される。貴族ではなくなったエナには、もはやプライバシーなど存在しない。
今やただの一般国民である。
否、国外追放となったエナは、王国国民ですらない。
この先、王国の庇護を受けることは許されない立場となる。
「余裕のない殿方は敬遠されるから、気をつけた方がいいかも」
「は? 何の話だ」
独り言を呟くようにエナが口を開くと、親衛隊の一人が眉間に皺を寄せて問いかけてくる。
「好きなんでしょう? 彼女のこと」
「ッ、な、何をバカなことを……‼︎」
「特に彼女のような性格だと、追うよりも追わせた方が盛り上がるんじゃないかしら」
「追うよりも……なるほど、確かにカルデ様にはその方が……って、無駄口を叩く暇があるなら、さっさと支度しろ!」
何を言われたのか理解したのだろう。図星を突かれた親衛隊の男は顔を赤くし、怒りを露わにする。
「はいはい、仰せのままに」
その姿を見て、エナは少しだけ息を吐く。
好きになった相手がアレでは、大変なことこの上ない。それ以前に異世界転生者と親衛隊の一人では見込みもないだろう。
もちろん、そんなことは口にせず、エナは言われた通りに手を動かした。
そして、いよいよそのときが訪れる。
「今日でこの家ともお別れね……」
母は自分を産むと同時に亡くなり、父は自分の身代わりとして投獄されることとなった。
信用していた婚約者のリックには、土壇場で裏切られてしまった。
この世界の生まれではない異世界転生者のカルデには、謂れのない罪を押し付けられた。
結果として、エナは国外追放処分となり、現在に至る。
何の冗談かと笑いたくなるが、これが現実だ。
目を背けて逃避する暇もない。
エナは、ローリア家の従者一人一人に、世話になったと言葉をかけていく。
何が何やら分からぬうちに仕事を失い、屋敷を追い出される形となったのだ。
きっと、不安に違いない。
申し訳ないと思いつつも、何も手助けすることができないことが不甲斐なかった。
できれば今後、彼らが路頭に迷わないことを祈るばかりだ。
挨拶を済ませたあと、エナは親衛隊の男たちと共に屋敷の外に出る。
そして、そんなエナを待つ人物が二人。
「リック、……カルデ伯爵令嬢」
カルデの顔は、意地悪そうに歪んでいた。
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