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【6】カルデの思惑

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「お父様、それ以上は必要ないから」
「!? しかし、エナ……ッ」

 首を横に振る娘の姿を瞳に映し、ロドは肩を落とす。
 守るべき相手が、もういいと言っているのだ。それはつまり、今この瞬間、ロドにできることは何もないということになる。

「ふふん、やっと理解できたみたいね? 最初っからそうやって罪を認めて謝ってたら、あたしも少しは慈悲の心ってやつ? を見せてあげたのにね~」

 エナが諦めたと思ったのだろう。
 その様子を見届けたカルデが、楽しそうに嗤う。

「でも残念、もう許してあげなーい! あんたは一生、牢の中で過ごすことになるのよ! ってか、当然それだけじゃ済まないから! えーっと、ほら、あんたの持ってるもの……爵位! あんたの家の爵位も没収しちゃうから!」

 カルデが望めば、死刑にすることも容易だろう。
 だが、そんなことはしない。死刑にしてしまっては、ほんの一瞬で終わりを迎えてしまうではないか。

 楽な道を歩むことなど、断じて許さない。
 牢の中から出ることも叶わず、一生をふいにしたことを、後悔し続けることになる方が、長く楽しめるというものだ。

 そしてカルデは、抜け道を作ることも許可しない。

 たとえ罪を犯したとはいえ、エナは仮にも男爵令嬢だ。太陽の下を歩くことはもう二度と叶わないが、牢の中でもそれなりの扱いをしてもらえるだろう。

 だが、カルデはそれさえも許さない。

 ローリア家の爵位を剥奪することで、エナはその他大勢の罪人と同じ扱いを受けることになる。男爵位を失ったエナには、それを拒否する権利はない。

 気が向いたときは顔を見に行ってやろう。元貴族の令嬢が、身も心もボロボロになっていく過程を観察してやろう。それはきっとどんなゲームよりも楽しいに違いない。

 カルデは、そう思っていた。

 もちろん、思惑通りに事を運ばせるつもりはない。エナは全てを受け入れる代わりに、父への減刑を許可してもらえるようにと、国王に直接訴えるつもりだ。

 ロドは、実の娘への監督不行き届きで罰せられることになる。今の流れではローリア家の爵位剥奪が該当するが、エナはそれをローリア家ではなくエナ個人の問題として終わらせようと考えていた。

 しかし、エナが口を開く前にロドが先手を打つ。

「国王陛下! どうか……どうか私の最後の願いをお聞きください!」
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