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【4】ただの茶番

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 王の間には、玉座に腰を下ろす国王の脇を固める形で、宰相や大臣が並び立っている。
 その中心にいるのが、カルデとリックの二人だ。

「宰相、罪状を述べよ」
「はっ」

 国王の指示に従い、宰相がエナとロドの前に歩み寄る。
 そして一つ一つ罪状を口にしていく。

 曰く、リックの本当の気持ちを知っていたにもかかわらず、異世界転生者であるカルデの邪魔がしたいがために婚約破棄を了承せず、己の強欲さと色欲さを優先したとのこと。
 その結果、リックとカルデだけでなく、王国大陸を巻き込む不測の事態を引き起こしてしまったこと。

「ふっ」

 我慢していたが、つい声が漏れる。
 エナは内心呆れ返っていた。

 罪状は更に続くが、いざ聞いてみれば、何やら曖昧な表現が多い。
 具体的に証拠となるようなものは何もなく、エナという人物について憶測で語っているに過ぎないものだった。

 しかしながら、それでもエナの罪は証拠不十分とはならず、確定したものとなるだろう。
 何故ならば、訴えを申し出たのがカルデだからだ。

 きっと、この場に居合わせたほぼ全員が思っているはずだ。
 これは茶番に過ぎないと。

 だが、どんなに理不尽だとしても、カルデに異を唱えてはならない。
 もし、機嫌を損ねてしまったら、帝国との戦争どころの話ではなくなる。王国の内部から滅ぼされてしまうことだってあり得る。
 それだけの力が、異世界転生者――カルデにはあるのだ。

 そしてそれを理解しているからこそ、エナは大人しく耳を傾けるに留めていた。

 一方で、ロドは宰相が口を動かす間も終始反論し続け、娘の無実を訴えた。当然のことながら、それが実を結ぶことは決してないのだが、エナは父の姿を見て感謝していた。

「――以上。エナ・ローリア、何か異があれば申すがいい」
「いいえ、ございません。……ですが一つだけ」

 罪状を確認し、エナは首を横に振る。
 けれどもこのまま黙って流れに身を任せるわけでもなく、その視線はカルデと並び立つ元婚約者へと向けられた。

「リック」

 名を呼ぶ。
 たったそれだけのことで、元婚約者は体をビクつかせる。
 目を合わせることもできずに、きょろきょろと視線を彷徨わせている。

「これが貴方の思い描いていた未来なのかしら?」

 問いかける。
 しかしリックからの返事はない。ただただ申し訳なさそうに、喉を詰まらせたかのような表情をするだけだ。

「……だとしたら、残念でならないわ」

 だからだろうか、エナはせめてもの情けと言わんばかりに、優しく笑いかけることにした。
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