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【2】厄日続き
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「というわけで、リックとは婚約破棄したから。こんな日に、わたしの独断で決めちゃってごめんなさい」
「あの野郎ッ、今すぐぶっ殺してやる!!」
翌朝、結婚式当日に食卓を囲みつつ、エナは事の顛末を全て話した。
と同時に、エナの父――ロド・ローリアが席を立ち上がり、物騒な台詞を口にする。
「お父様、落ち着いてちょうだい」
「無理だ! ワシの可愛い娘に恥を掻かせたんだぞ!? これが落ち着いてなどいられるか!!」
部屋を出て行こうとするロドの腕を掴み、エナが続ける。
「安心して、わたしは別に恥を掻いたとか全く思っていないから。むしろ、リックのことを可哀そうって思ってしまったのよね」
「は? 可哀そう? あのクズが? いったいどこが可哀そうだと言うんだ!?」
憤怒の形相で問い質すロドと目を合わせると、エナは大真面目な表情で告げる。
「だって、このわたしと別れることになったのよ? 可哀そうにもほどがあるでしょう?」
「っ」
言われて、ロドは眉を潜める。
冗談や負け惜しみで言っているわけではない。エナは自分が思ったことを口にしただけだ。その言葉には全く揺らぎが見当たらない。
「……ん、まあ……そう、そうだな。確かにエナの言う通りだ」
怒りの矛先を収めたくはないが、エナがそう言うのであれば仕方あるまい。
ロドは深いため息を吐いたあと、席に着き直した。
「しかし、あのゴミクズ一家め……爵位が一つ上がったからといって、何かと鼻につくようにはなっていたが……クソッ、貴族としての振る舞いを一から仕込んでやりたいものだ」
鼻息荒く言い捨てるロド自身、物騒な発言をしているが、エナは指摘せずに朝食を口にする。そして内心うんざりしていた。
今日は忙しくなる。
招待客や関係者各位に対し、リックとは破談になったことを伝えなければならない。
一人一人に説明し、謝罪することになるだろう。
それがどれほど面倒なことかと、エナは嘆いているのだ。
ただ、それを回避するために、あの場でリックにすがるような人間ではない。
エナには男爵令嬢としてのプライドがあり、見っともない姿を晒すつもりは毛頭なかった。
結果として、よからぬ噂が立ち、ロドの心労が重なるであろうことは申し訳なく思うが、この件に関しては絶対に譲ることはできなかった。
ぐるぐると思考を巡らせながらも口を動かし、食事を済ませたエナは、席を立つ。
と、そんなときだった。
――ドンドンッ!
屋敷の扉を叩く音が聞こえる。
そして声が響いた。
「ロド・ローリア男爵! 並びにエナ・ローリア男爵令嬢! 以下二名、カルデ・リスタ伯爵令嬢に対する背信行為により、捕縛命令が出ている!」
――カルデ・リスタ伯爵令嬢。
王国民の中で、その名を知らない者はいない。
「我々、カルデ・リスタ伯爵令嬢親衛隊は、武力行使を許可されている! 故に、素直に従わない場合は――……」
「ふふ、昨日に続いて今日も厄日ね」
耳に響く雑音を無視し、再び席に着く。
目を丸くするロドを見ながら、エナは肩を竦めて苦笑するのだった。
「あの野郎ッ、今すぐぶっ殺してやる!!」
翌朝、結婚式当日に食卓を囲みつつ、エナは事の顛末を全て話した。
と同時に、エナの父――ロド・ローリアが席を立ち上がり、物騒な台詞を口にする。
「お父様、落ち着いてちょうだい」
「無理だ! ワシの可愛い娘に恥を掻かせたんだぞ!? これが落ち着いてなどいられるか!!」
部屋を出て行こうとするロドの腕を掴み、エナが続ける。
「安心して、わたしは別に恥を掻いたとか全く思っていないから。むしろ、リックのことを可哀そうって思ってしまったのよね」
「は? 可哀そう? あのクズが? いったいどこが可哀そうだと言うんだ!?」
憤怒の形相で問い質すロドと目を合わせると、エナは大真面目な表情で告げる。
「だって、このわたしと別れることになったのよ? 可哀そうにもほどがあるでしょう?」
「っ」
言われて、ロドは眉を潜める。
冗談や負け惜しみで言っているわけではない。エナは自分が思ったことを口にしただけだ。その言葉には全く揺らぎが見当たらない。
「……ん、まあ……そう、そうだな。確かにエナの言う通りだ」
怒りの矛先を収めたくはないが、エナがそう言うのであれば仕方あるまい。
ロドは深いため息を吐いたあと、席に着き直した。
「しかし、あのゴミクズ一家め……爵位が一つ上がったからといって、何かと鼻につくようにはなっていたが……クソッ、貴族としての振る舞いを一から仕込んでやりたいものだ」
鼻息荒く言い捨てるロド自身、物騒な発言をしているが、エナは指摘せずに朝食を口にする。そして内心うんざりしていた。
今日は忙しくなる。
招待客や関係者各位に対し、リックとは破談になったことを伝えなければならない。
一人一人に説明し、謝罪することになるだろう。
それがどれほど面倒なことかと、エナは嘆いているのだ。
ただ、それを回避するために、あの場でリックにすがるような人間ではない。
エナには男爵令嬢としてのプライドがあり、見っともない姿を晒すつもりは毛頭なかった。
結果として、よからぬ噂が立ち、ロドの心労が重なるであろうことは申し訳なく思うが、この件に関しては絶対に譲ることはできなかった。
ぐるぐると思考を巡らせながらも口を動かし、食事を済ませたエナは、席を立つ。
と、そんなときだった。
――ドンドンッ!
屋敷の扉を叩く音が聞こえる。
そして声が響いた。
「ロド・ローリア男爵! 並びにエナ・ローリア男爵令嬢! 以下二名、カルデ・リスタ伯爵令嬢に対する背信行為により、捕縛命令が出ている!」
――カルデ・リスタ伯爵令嬢。
王国民の中で、その名を知らない者はいない。
「我々、カルデ・リスタ伯爵令嬢親衛隊は、武力行使を許可されている! 故に、素直に従わない場合は――……」
「ふふ、昨日に続いて今日も厄日ね」
耳に響く雑音を無視し、再び席に着く。
目を丸くするロドを見ながら、エナは肩を竦めて苦笑するのだった。
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