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【50】声よ、届け

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 ざわつきが消えた。
 一瞬で、辺りを静寂が支配する。

 随分と偉そうな物言いだけど、これでいい。
 レミーゼにはお似合いの台詞と言えるだろう。

「――【伝達/指定:王都・王国軍】【打消/永続/対象:解除】」

 杖を振らずに、二つの魔法を発動する。
 それは、遠くに情報を伝えることのできる伝達魔法と、妨害対策の打消魔法だ。

「あたしの名はレミーゼ。アルバータ・ローテルハルク公爵の一人娘です」

 まずは伝達魔法。
 この魔法の効果により、あたしの姿と言葉が、指定した場所に届くことになる。
 ここに居るローテルハルク領の民たちには直接、そして王都に居る人たちや、サイダール率いる二千の王国兵にも……。

「今、父が行方知らずとなっておりますので、このあたしがローテルハルク領を代表して思いを言葉にしたいと思います」

 この台詞には、王都の民たちも驚いたことだろう。ローテルハルクの領主が居なくなったのだから当然だ。

 しかし慌てることはない。
 ここにはあたしが居る。ローテルハルク領にはレミーゼが居る。

「ですから、少しだけ……少しの間だけで構いませんので、どうかあたしの声に耳を傾けてください」

 伝達魔法は、こちら側の情報を伝えるだけでなく、相手側の情報を得ることもできる。
 現代で言い表すならば、テレビ電話に似ているだろうか。

 そして打消魔法。
 伝達魔法と共にあらかじめ発動しておくことで、対象の魔法を一度だけ打ち消すことができる。
 あたしに演説させると都合が悪くなる人もいるだろうからね。
 まあ、主にサイダール対策なんだけど。

 そして今回発動した打消魔法には【永続】効果も付与している。
 だからあたしが【打消】を解除しない限り、【伝達】を解除することはできないってことだ。
 その分、魔力はもりもり減っていくけど、正直言って安いものだ。

「初めに、結論から申し上げます」

 というわけで、舞台は整った。
 あたしはフレアと手を握り、笑みを浮かべ合う。

「フレア様とあたしは、互いに認め合った仲……親友です。そして、そんなあたしたちの仲を引き裂こうとした人物が居ます」

 きっと、サイダールは必死になって【伝達】を解除しようと試していることだろう。
 でも無駄だ。悪いけどあたしの魔力は並大抵じゃない。
 サイダールが【ラビリンス】でどの程度の腕前だったのかは知らないけど、あたしの魔法を解除できると思ったら大間違いだ。

 故に間に合う。
 真実を白日の下に晒してやる。

「フレア」
「はいっ」

 名を呼べば、応えてくれる。
 フレアはしっかりと頷き、前を向く。そして己の口から真実を話した。

「わたしたちの仲を……ひいてはロンド王国とローテルハルク領の関係を壊そうとした人物、それはサイダールです」

 フレアの口から、その名が出る。
 言わされたのではなく、己の意思で口にした。

 それが今、どれほどの効力を持つのか。
 サイダールには痛いほどよく分かるはずだ。

 それから先は、流れに身を任せるように二人で語り続けた。

 あたしが暗殺未遂に遭ったこと。
 サイダールが実行犯であり、同時に単独犯でもあること。
 ちょっとした行き違いで、一度はフレアの身柄を拘束してしまったこと。
 しかしすぐに解放し、自由の身になっていること。
 フレア救出作戦は全く必要ないということ。
 全てはサイダールによる企みであること。
 王国とローテルハルク領の仲を引き裂き、紛争を起こし、英雄となって地位や名誉を手に入れるのが、サイダールの目的であること。
 ……まあ、これは若干話を盛っているけど構うことはない。

 あたしとフレアの二人は、その全てを伝達魔法で明らかにした。すると、

「ほっ、報告! 報告です! 王国兵がっ、王都へと引き返して行きますっ!」

 兵士が一人、伝令を持ってくる。
 それはあたしが一番欲しかった結果だ。

 王都から、王国兵は即時撤退の命が出されたということだろう。
 撤退を始める王国兵を見たローテルハルク領の民たちは、一斉に湧き上がる。

「はあぁ、よかったです……」
「あんたのおかげで、死人が出ずに済んだわ」

 その場に座り込み、フレアが安堵の息を吐く。
 あたしは肩に手を置いて労いの言葉をかける。

「ありがとう、フレア」
「いえ、親友として当然のことをしたまでですから!」

 グッと拳を作り、フレアが笑う。
【ラビリンス】の世界では叶わなかったけど、どうやらこの世界では、二人の聖女が手を取り合うことを許されたようだ。

 だけど、まだ終わりじゃない。
 サイダールの身柄を拘束するまでは安心できない。

「……あら、今度はあっちからみたいね」

 あたしが伝達魔法を解除すると、今度は王国から伝達魔法が届いた。
 どうやら国王直々にサイダールの身柄を拘束せよとの命を出したらしい。

 これはサイダールが捕まるのも時間の問題……とはならないのが残念でならない。

 サイダールは【ラビリンス】の元プレイヤーだ。王国とローテルハルク領を敵に回したとしても、逃げ延びる程度のことは容易だろう。
 仮に捕まえることができるとすれば、同じく元プレイヤーのあたしぐらいのものか。

 それよりも、シナリオ通りに事を運ぶことができずに、サイダールが自棄を起こさないかが心配だ。あたし一人に狙いを絞ってくれたら対処するのも楽なんだけどね。

 結局、その日のうちにサイダールは行方を晦ませてしまった。
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