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【32】この父親、変態でした

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「吹き飛びたまえ――【突風】」
「――ッ!? 【土壁】!!」

 初っ端、アルバータが全体攻撃型の風魔法をぶっ放してきた。
 そんなものを屋敷の中で発動するとは思ってもみなかったので、反応が遅れた。

 単体攻撃型の魔法を使って戦うものだと思い込んでいたけど、屋敷の中だろうとお構いなしってことらしい。この調子で魔法を使っていけば、一分も持たずにレミーゼの屋敷は崩壊するだろう。

 慌てて発動した防御魔法の【土壁】は文字通り土でできた壁を目の前に作り出すことができる。軽めの攻撃魔法であれば、これで身を守ることができる。

 一方のアルバータが発動した【突風】は、杖先から強風を起こして目に見える範囲を吹き飛ばしてしまう。
 全体攻撃型の魔法であるが故に、威力自体はそこまで強いものではない。あたしの【土壁】でも十分に被害を防ぐことができるものだ。しかし、

「では貫こう――【風槍】」
「くっ、壁が!」

 次なる風魔法【風槍】が発動されると同時に、あたしは身を潜めていた土壁を放棄して横へと転がり逃げる。

 その僅か一秒後、槍の形を模した風の塊が土壁をあっさりと貫いてしまった。

「あっぶな!」
「ははは、よく避けたものだ。しかし逃げ場は少ないぞ?」

 ボロボロと崩れ落ちる土の壁と、【風槍】が到達した屋敷の壁を見た。
 あたしが発動した【土壁】と比べて、屋敷の壁は全く傷がついていない。

 ……なるほど、全体防御魔法で屋敷全体を覆っていたのか。

 元々、レミーゼの拷問がバレないように、音や衝撃が吸収される仕組みになっていたのだろう。この状態であれば、あのときのテイリーのように屋敷の近くに居なければ、誰も気づくことはない。

 つまり、拷問するために最高の空間を作ってあげたってことか。
 親子揃ってとんでもないね。

「あんたを捕まえれば逃げる必要もないわ! 【拘束/麻縄】!」
「【風切】――そのような陳腐な魔法で、わしを拘束できると思っているとはな」

 アルバータを対象に【拘束】を発動したけど、あっさりと対応されてしまった。
【風切】で縄を切り刻んで【拘束】から逃れたのだ。

「さあ、次は如何かな? ――【火球】」
「っ」

 風魔法の次は、火魔法を使ってきた。
 野球ボールほどの大きさの火の球を創造し、杖を振ってあたし目掛けて投げ飛ばす。

「【水網】!」
「――ほう?」

【ラビリンス】に出てくるアルバータは火属性と風属性の魔法の使い手だったけど、こちらの世界でも同一らしい。
 この点に関して、前知識があるのはあたしにとって有利に働く。

「その判断力、敵ながら見事なものだ」
「褒めてくれてどうも! ――【拘束/手錠】!!」
「――【手風】」

【拘束/麻縄】が【風切】で刻まれてしまったので、今度は【拘束/手錠】での拘束を試みた。でもアルバータ自身の戦闘センスも上々で、すぐに対応されてしまった。

【手風】は自身の指先から手首までを対象に、風を纏わせることができる。
 この効果によって、あたしが発動した【拘束/手錠】は弾かれてしまった。

「【火球/連弾】――それ、それ、逃げたまえ。レミーゼの姿で逃げ惑うきみを見ていると興奮が抑えきれなくなるぞ。くくくっ」
「変態かっ!」
「否定はせんよ」

 背筋がゾッとする。【ラビリンス】では描かれていなかったけど、実はこの父親、本格的にヤバいやつだった。
 捕まったら最後、ただの拷問だけで済むとは思えない。

「我が娘に攻撃魔法を放つなど以ての外だが、しかしきみは娘の姿をしただけの別の何かだ。つまり、わしは我が娘を合法的に攻撃し、更には拷問にかけることが許される。その意味がきみには分かるかな?」

 分からないし分かりたくもない。

「あぁ、いや、分からなくともよい。直接きみの体に教え込むのだからな」
「お断りよ! ――【粉塵】ッ!!」
「むっ、目くらましかね……無駄なことをするものだ」

 これは絶対に捕まるわけにはいかない。
 アルバータの攻撃を交わしながらも移動し、気付けば地下室へと逃げ込んでいた。
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