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【16】それは夢でした

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 ――夢を見た。
 それは【ラビリンス】で遊んでいるあたしの夢だ。

 βテスターに当選し、家に【ラビリンス】の機器一式が届いて以降、あたしはずっと遊んでいた。それこそ親に怒られるまでずっとだ。

 エスカレーター式の中高一貫校に合格して、親元を離れて寮生活をスタートしてからは、止める人が傍に居ないから歯止めが利かなくなった。

 一度部屋に籠ってしまえば、あとはずっと遊ぶことができる。それはあたしにとって天国のような時間だった。

 上下関係のある寮生活は、正直楽しいものとは言えなかった。
 それでも耐えることができたのは、【ラビリンス】があったからだ。

 ただ、【ラビリンス】で遊ぶためにも、学業を疎かにしてはならない。もし、留年してしまったら、寮を出て行かなければならなくなる。そうなれば、親に遊んでいたことがバレて【ラビリンス】を取り上げられてしまうだろう。

 だから、勉強だけは真面目にやった。

 中学一年の元旦に、【ラビリンス】が正式稼働された。
 すると数多あるVRMMOの中でも一躍トップに躍り出た。

 それから二年以上の月日が流れ、あたしは高校生になっていた。
 エスカレーター式の中高一貫校なので、高校受験が無いことが嬉しかったのを覚えている。

 高校入学後は、寮での階級も上になり、嫌な目に遭う機会も少なくなった。
 そのおかげで、あたしは今まで以上に【ラビリンス】の世界に没頭し、現実逃避する日々を続けた。

 運動なんてしなかった。
 自分で言うのもおかしな話だけど、食事を取ったり、睡眠を取る時間すら、惜しいと考えていた。だから体の線は細く、不健康な生き方をしていたと思う。

 日常生活に必要な最低限の時間を除いて、ほぼ六年間、あたしはひたすらに休む間もなく【ラビリンス】の世界を満喫していた。
 その結果、あたしは一つの目標に辿り着く。

【ラビリンス】のプレイヤーランキングで、年間一位を獲得することができたのだ。

 正式稼働してから、たったの五名しか手に入れたことのない称号を受け取ったとき、あたしはある種の達成感を覚えた。

 この世界なら、【ラビリンス】の中でなら、あたしは皆に認めてもらえる。あたしという存在を知ってもらうことができる。

 依存していることは分かっている。でも、止めるつもりはない。
 日常生活に支障をきたすことはなかったから、このままでいい。あたしはそう思っていたし、大学に入ってからも【ラビリンス】で遊び続けるつもりだった。

 大学受験は第一志望に合格し、退寮と同時に一人暮らしをすることになった。
 地元を離れることにしたのは【ラビリンス】で遊ぶのを邪魔されないためだ。

 一人暮らしなら、誰にも邪魔されることはない。
 安心して遊ぶことができる。

 高校卒業後、親と一緒にアパートへの引っ越し作業をした。
 その後、親は一旦、地元に戻ったけど、すぐにまた入学式に出るために顔を出した。

 そのとき、あたしは【ラビリンス】で遊んでいて、親が部屋に入ってきたことに気付かなかった。
 その結果、【ラビリンス】にログインしたままの状態でヘッドギアを無理矢理外されてしまい、入学式が終わるまで【ラビリンス】で遊ぶのを禁止されてしまった。

 迎えた入学式当日。
 大学のキャンパスに行って、ほんの少し我慢すれば、あとは【ラビリンス】で遊ぶことができる。あたしは朝からもう待ち切れなかった。

 だけど、親がテレビを点けたのは、ちょうどそのときだった。

 朝の報道番組で流れるニュースが、耳に入る。
 そして思わず目を向けた。

 それは、【ラビリンス】で死亡者が出たというものだった。
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