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【12】油断、していました
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「あたしの名前はレミーゼ。アルバータ・ローテルハルク公爵の一人娘です。領民からは聖女として慕われています」
「くふっ」
「ちょ、ちょっとあんた! 今……笑った! 笑ったでしょ!」
「ごめんね、まさか本人の口から、あたしは聖女として慕われているだの聞くとは思わなかったから」
レミーゼは【隷属】状態なので、嘘を吐くことができない。だからこれはレミーゼが本当に思っていることになる。
それから暫くの間、レミーゼによる一人語り……主に自慢話が始まった。
その中で、気になった点が一つ。
それは、ローテルハルク領の民から、レミーゼが本当に慕われているっぽいことだ。
【ラビリンス】の設定上、レミーゼは主に拷問好きな公爵令嬢として有名で、如何にも嫌な敵キャラとして描かれていた。
その最たる要因として、聖女の称号を巡る件が挙げられる。
レミーゼが住むローテルハルク領の真横には、【ラビリンス】の大陸の四分の一を支配下に置くロンド王国がある。そのロンド王国から、聖女としての称号を賜ったNPCが存在する。
にもかかわらず、王国お墨付きの聖女に対抗して、レミーゼは領民たちに聖女と呼ばせるようにしていた。
【ラビリンス】のメインシナリオで、レミーゼの暴走はここから更にエスカレートしていく。
本物の聖女に対し、数々の嫌がらせをすることで、ローテルハルク領と王国との関係に溝を作り、挙句には全面戦争にまで発展し、罪のない領民を巻き込んでしまったりと、とにかくやりたい放題で我がままし放題な性格の持ち主だった。
だというのに、レミーゼの話に耳を傾けていると、どうしてだか領民も嫌々従っているわけではなさそうに思えた。
予想としては、レミーゼの裏の顔を知られていないから……?
だから領民に好かれているのは事実なのかもしれない。
現に【ラビリンス】で王国との全面戦争が始まるとき、ローテルハルク領の民たちは、レミーゼの名誉のためだけに、武器を手に取り、王国兵と一戦交えることになる。
これも全ては、レミーゼの人望あってのものと言えるだろう。
ただ、それとこれとは話が別だ。
レミーゼ・ローテルハルクは、人として決してやってはならないことに手を染めている。
それは奴隷への拷問行為だ。
闇魔法【隷属】によって逆らうことのできない奴隷に対し、レミーゼは思う存分、心行くままに苦痛を与えたあと、用が無くなればあっさりと息の根を止める。
そしてまた、すぐに新しい玩具を手に入れるため、地下牢へと足を運び、罪人を見繕う。
地下牢に囚われた罪人の一人――トロアとして目が覚めたからこそ、あたしには分かる。
レミーゼの裏の顔がこんなにも酷いとは、【ラビリンス】でも詳しく描かれていなかったので、正直驚いている。
「……あんた、あたしをどうするつもりよ」
とここで、あらかた話し終えたレミーゼが、悔しそうな表情を浮かべながら訊ねた。
別にどうするつもりも何もないんだけど、とりあえず今言えることは、一つかな。
「あたしの他にも、牢に入ってた人が居るよね? アンとドゥって言うんだけど」
「はあ? ……ああ、あの二人のこと? ふんっ、それがどうしたってのよ……」
「その二人と、あたしの自由。それを保障してほしいかな」
このままあたし一人だけ逃げても、アンとドゥが代わりになるだけだ。
それならば、今ここでレミーゼに命令して、あたしたちの安全を保障してもらおう。それが済めば、レミーゼの【隷属】は解除するつもりだ。
この先、あたしがどう過ごすかの問題もある。
トロアとして生きるため、アンとドゥの二人と一緒に路上生活をするのか。それとも二人とはお別れして、この世界で新しい生活基盤を作るのか。
一応、この体のままでも魔法が使えることは確かめた。
あたしが発動した【反射】は上級魔法なので、魔力の消費量もバカにならない。しかも【永続】が付与されているので、発動を解除しない限り、魔力が空になるまで減り続ける。
だから恐らく、体自体はトロアだけど、中身は【ラビリンス】のあたしになっているのだろう。
「はあっ? それだけ? ……あんた、あたしを【隷属】してるのよ? 公爵令嬢のあたしを……なのに、それだけですって?」
「? うん、他にお願いすることとか無いし」
ああ、テイリーをあたしの部下にしてほしいとかお願いするのは有りかも……。
……いや、やっぱり却下。テイリーの意思を尊重しないと、あたしはただの厄介なファンに成り下がってしまうだろう。推しに嫌われるのだけは絶対に阻止しないとダメだ。
すると、レミーゼが嘘だろと言いたげな表情であたしを見る。
あたしは別に奴隷拷問の趣味なんて持っていないし、人の弱みに付け込もうとか考えていないからね。
まあ、それがレミーゼには信じられないものでも見たように映ったのかもしれない。
だというのに……。
「うそ……嘘よ、絶対に嘘よ! あんたそうやってあたしを油断させておいて……どうせそこら辺の汚らしい男共にご奉仕してきなさいとか命令するんでしょ!」
「エッチな漫画や小説じゃないんだからさ……」
いやいや、この世界にそんなものはない。……いや? ひょっとしたらあるのかな?
って、そんなことはどうでもいい。
「しないってば。あたしはあんたを傷付けるつもりはないし、干渉したくもない」
罪を償ってほしいとは思うけど、【ラビリンス】のメインシナリオ通りに事が運ぶとすれば、レミーゼは近いうちにその生涯を終えることになるはずだ。
わざわざここで、手を下す必要はない。
それが、あたしの出した結論だ。
「……騙しても無駄よ、あたしはあんたなんかに騙されない! 奴隷の言いなりになんてなるもんかっ!」
でも、レミーゼは信じない。
そしてあろうことか杖を手にあたしを睨み付ける。
「あたしの人生はあたしが決める! だから今すぐ死になさい! 【稲妻】発動ッ!!」
――瞬間、地下室に衝撃が奔る。
レミーゼが【点光】を発動したときとは比べ物にならないほどの光が、あたしの視界を奪った。
「ッ、……くっ」
しまった……。
失敗した。あたしは失敗してしまった……!
【隷属】の効果でレミーゼを支配下に置いたと勘違いし、油断していた。
あたしは、主への攻撃行為を禁止していなかったのだ。
だからこそ、レミーゼはあたしに攻撃することができた。
そしてそのせいで……。
「っ、……がっ、……ぅぅ」
あたしが発動したままの【反射】によって、レミーゼは再び己が発動した魔法でその身を焦がすことになってしまった。
「レミーゼ!!」
名前を呼ぶ。けれども動かない。
その姿は、もう、あたしの知っている拷問令嬢ではなくなっていた……。
「くふっ」
「ちょ、ちょっとあんた! 今……笑った! 笑ったでしょ!」
「ごめんね、まさか本人の口から、あたしは聖女として慕われているだの聞くとは思わなかったから」
レミーゼは【隷属】状態なので、嘘を吐くことができない。だからこれはレミーゼが本当に思っていることになる。
それから暫くの間、レミーゼによる一人語り……主に自慢話が始まった。
その中で、気になった点が一つ。
それは、ローテルハルク領の民から、レミーゼが本当に慕われているっぽいことだ。
【ラビリンス】の設定上、レミーゼは主に拷問好きな公爵令嬢として有名で、如何にも嫌な敵キャラとして描かれていた。
その最たる要因として、聖女の称号を巡る件が挙げられる。
レミーゼが住むローテルハルク領の真横には、【ラビリンス】の大陸の四分の一を支配下に置くロンド王国がある。そのロンド王国から、聖女としての称号を賜ったNPCが存在する。
にもかかわらず、王国お墨付きの聖女に対抗して、レミーゼは領民たちに聖女と呼ばせるようにしていた。
【ラビリンス】のメインシナリオで、レミーゼの暴走はここから更にエスカレートしていく。
本物の聖女に対し、数々の嫌がらせをすることで、ローテルハルク領と王国との関係に溝を作り、挙句には全面戦争にまで発展し、罪のない領民を巻き込んでしまったりと、とにかくやりたい放題で我がままし放題な性格の持ち主だった。
だというのに、レミーゼの話に耳を傾けていると、どうしてだか領民も嫌々従っているわけではなさそうに思えた。
予想としては、レミーゼの裏の顔を知られていないから……?
だから領民に好かれているのは事実なのかもしれない。
現に【ラビリンス】で王国との全面戦争が始まるとき、ローテルハルク領の民たちは、レミーゼの名誉のためだけに、武器を手に取り、王国兵と一戦交えることになる。
これも全ては、レミーゼの人望あってのものと言えるだろう。
ただ、それとこれとは話が別だ。
レミーゼ・ローテルハルクは、人として決してやってはならないことに手を染めている。
それは奴隷への拷問行為だ。
闇魔法【隷属】によって逆らうことのできない奴隷に対し、レミーゼは思う存分、心行くままに苦痛を与えたあと、用が無くなればあっさりと息の根を止める。
そしてまた、すぐに新しい玩具を手に入れるため、地下牢へと足を運び、罪人を見繕う。
地下牢に囚われた罪人の一人――トロアとして目が覚めたからこそ、あたしには分かる。
レミーゼの裏の顔がこんなにも酷いとは、【ラビリンス】でも詳しく描かれていなかったので、正直驚いている。
「……あんた、あたしをどうするつもりよ」
とここで、あらかた話し終えたレミーゼが、悔しそうな表情を浮かべながら訊ねた。
別にどうするつもりも何もないんだけど、とりあえず今言えることは、一つかな。
「あたしの他にも、牢に入ってた人が居るよね? アンとドゥって言うんだけど」
「はあ? ……ああ、あの二人のこと? ふんっ、それがどうしたってのよ……」
「その二人と、あたしの自由。それを保障してほしいかな」
このままあたし一人だけ逃げても、アンとドゥが代わりになるだけだ。
それならば、今ここでレミーゼに命令して、あたしたちの安全を保障してもらおう。それが済めば、レミーゼの【隷属】は解除するつもりだ。
この先、あたしがどう過ごすかの問題もある。
トロアとして生きるため、アンとドゥの二人と一緒に路上生活をするのか。それとも二人とはお別れして、この世界で新しい生活基盤を作るのか。
一応、この体のままでも魔法が使えることは確かめた。
あたしが発動した【反射】は上級魔法なので、魔力の消費量もバカにならない。しかも【永続】が付与されているので、発動を解除しない限り、魔力が空になるまで減り続ける。
だから恐らく、体自体はトロアだけど、中身は【ラビリンス】のあたしになっているのだろう。
「はあっ? それだけ? ……あんた、あたしを【隷属】してるのよ? 公爵令嬢のあたしを……なのに、それだけですって?」
「? うん、他にお願いすることとか無いし」
ああ、テイリーをあたしの部下にしてほしいとかお願いするのは有りかも……。
……いや、やっぱり却下。テイリーの意思を尊重しないと、あたしはただの厄介なファンに成り下がってしまうだろう。推しに嫌われるのだけは絶対に阻止しないとダメだ。
すると、レミーゼが嘘だろと言いたげな表情であたしを見る。
あたしは別に奴隷拷問の趣味なんて持っていないし、人の弱みに付け込もうとか考えていないからね。
まあ、それがレミーゼには信じられないものでも見たように映ったのかもしれない。
だというのに……。
「うそ……嘘よ、絶対に嘘よ! あんたそうやってあたしを油断させておいて……どうせそこら辺の汚らしい男共にご奉仕してきなさいとか命令するんでしょ!」
「エッチな漫画や小説じゃないんだからさ……」
いやいや、この世界にそんなものはない。……いや? ひょっとしたらあるのかな?
って、そんなことはどうでもいい。
「しないってば。あたしはあんたを傷付けるつもりはないし、干渉したくもない」
罪を償ってほしいとは思うけど、【ラビリンス】のメインシナリオ通りに事が運ぶとすれば、レミーゼは近いうちにその生涯を終えることになるはずだ。
わざわざここで、手を下す必要はない。
それが、あたしの出した結論だ。
「……騙しても無駄よ、あたしはあんたなんかに騙されない! 奴隷の言いなりになんてなるもんかっ!」
でも、レミーゼは信じない。
そしてあろうことか杖を手にあたしを睨み付ける。
「あたしの人生はあたしが決める! だから今すぐ死になさい! 【稲妻】発動ッ!!」
――瞬間、地下室に衝撃が奔る。
レミーゼが【点光】を発動したときとは比べ物にならないほどの光が、あたしの視界を奪った。
「ッ、……くっ」
しまった……。
失敗した。あたしは失敗してしまった……!
【隷属】の効果でレミーゼを支配下に置いたと勘違いし、油断していた。
あたしは、主への攻撃行為を禁止していなかったのだ。
だからこそ、レミーゼはあたしに攻撃することができた。
そしてそのせいで……。
「っ、……がっ、……ぅぅ」
あたしが発動したままの【反射】によって、レミーゼは再び己が発動した魔法でその身を焦がすことになってしまった。
「レミーゼ!!」
名前を呼ぶ。けれども動かない。
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