孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~

神堂皐月

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新人戦編 ―後編―

第40話 開催

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 交戦フィールドに着くと、既に観戦席は超満員だった。



 その数は去年よりも多く、万を越えているだろう。



 理由は恐らく、先程からあちらこちらで聞こえている生徒の名――ロベルト・シルヴァを見に来ているのだ。



 現在の学院序列1位の弟にして、入学時学年序列1位でもあるのだ。



 そんな彼のことは誰もが注目している。



 今後の自分の脅威になるのか、はたまた有益な存在になり得るのか、と。



 色々な思惑がひしめくこの会場で、彼らは、いったいどのような闘いを繰り広げるのだろうか。



「なーんか、会場中が既にあいつを見てる気がするのは俺の気のせいか?」



 選手達が集まっていたフィールド中央に着いたアルヴィスは、観戦席をぐるりと見回しながら誰ともなしに話し掛ける。



 あいつ、とはもちろんロベルトの事だ。



 と同時に、同じくらいの視線を集めている存在がいた。



 彼は観戦席の一部に設けられた壇上に上がると、スタンドマイクを手に取り、アルヴィス達参加生徒を見下ろしながら話し始めた。



「えー、では今年の試合形式を発表する」



 壇上に立つ1人の紳士――学院長は、1拍の溜めを作ってから次の言葉を発した。



「――バトルロワイヤルじゃ」



 その瞬間、会場中がざわめいた。



「その名の通り、そこにおる生徒全員で一斉に闘ってもらう。今年は参加生徒のランクにばらつきが多いので、同時に闘わせることにした。その方が皆の予想通りの結果になるとは限らんて、面白そうじゃろ?」



 学院長はフォッフォッと自前の白髭を撫でながら笑う。



 これには会場中の誰もが驚きを隠せなかった。



 参加生徒はもちろん、アンヴィエッタ等教授陣達も、壇上横に座ったまま口を開けていた。



「面白いことしてくれるじゃん、学院長も。疑似ランク戦ってわけだ」



 だが会場中でただ1人、アルヴィスだけが余裕の笑みを浮かべていた。



「開始は10分後、ルールはランク戦同様じゃ。戦闘不能状態になるか降参を認めればその者は脱落。サーヴァントの使用や魔法の制限ももちろん無しじゃ。皆、全力でやるがよい。ただし、降参している者への攻撃はその時点でその者も脱落、そしてここにいる教授たちが全力で阻止するので変な気は起こさんことじゃな」



 学院長はルール説明を終えると、息を大きく吸い込み、叫んだ。



「刮目せよ! 今この時、新たな時代の幕が開ける!」



 観戦席を眺めるように叫び、続けた。



「研鑽せよ! 君たちが新たな時代を築くのだ!」



 続いた言葉は、アルヴィス達参加生徒を眺めながら発したものだ。



 そして、最後に続いた言葉はとても優しい表情と声音だった。



「――健闘を祈る」



 話を終えた学院長がフォッフォッと笑うと、それがきっかけのように静寂に包まれていた会場が沸いた。



 学院長はそれに満足そうに白髭を撫でると、ゆっくりと退壇していく。



 激励の言葉を贈られた参加生徒達は、未だ歓声で沸いている中準備のため散り散りに別れ始めた。



「――おい」



 準備することが特に無いので、フィールド端までとりあえず距離をあけておこうと動いた時、後ろから突如聞き覚えのある声に呼ばれた。



 アルヴィスは少々面倒臭そうに振り向き、応える。



「なんだよ、ロキ」



「やはりお前も出てきたな。あの時の屈辱、ここで返させてもらうからな」



「あー、そんなこともあったな。まぁ、ほどほどに頼むわ」



 アルヴィスは頭をボリボリと描きながら模擬戦のことを思い出し応えた。



「お前っ、やる気あるのか!? もしもこの俺に手なんか抜いてみろ! 息の根を止めてやるからな!」



「はいよ」



 声に怒気を含ませたロキにたいして、尚も彼は興味がなさそうに手を振り背を向けた。



 ロキはこの場を去っていくアルヴィスの背に対し、怒りを露にした表情で睨む。



 だが背を向けられ見えていないロキはわからないだろう。



 アルヴィスの眼に宿る激しい闘志を。



(誰のやる気がないって? こちとらありすぎて血が沸騰しそうだっての!)



 アルヴィスは先程までの余裕の笑みが消え、闘争心に満ちた顔でフィールド端まで歩いていった。
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