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新人戦編 ―前編―
第25話 君に――
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「君ねぇ、昨日約束したばかりなのにいきなりやぶるかなぁ!?」
「すまん……。だけどあいつらがまだ全力じゃないうちに一瞬でかたをつけなきゃ俺の方がやられていた」
「たしかに普通にやっていたらそうかもしれないけど……。それでも魔力コントロールがまだまだ未熟な君には、身体への負担が大きすぎるの! その証拠にあの一瞬でほら、肩で息してるじゃない!」
彼女はアルヴィスを指差しさらに詰め寄ると、トンと肩を突いた。
「――何重までかけたの?」
「…………20……」
「に、にじゅうぅッ!?」
(それって、今日の練習で出来た最高記録を超えてるじゃない!? たしか18重魔法だったはずじゃ……)
「なんかいける気がしてよ。つかそんなに驚くことじゃないだろ。この学院にはもっとスゲーやつがごろごろいるんだろ?」
「た、たしかにいないこともないけどぉ……」
エリザベスは口許に指をあて考える。ただその表情は複雑そうだった。
(私でも多重魔法は15重が最大だし、20を越えてる人を私はユキちゃんしか――)
「――ところでエリザ」
「え!? な、なにかな?」
エリザベスがユキちゃんなる生徒のことを思い出していると、アルヴィスに何か切り出すようにいきなり名前を呼ばれ肩をびくりと震わせた。
「アヒムが呼んでた名前 ――〈暴虐の姫〉って――」
「ごめん! ――さっきも言ったけど、それは好きじゃないの。とくにきみには、呼んでほしくないかな……」
「わ、わかった」
「ごめんね? ――そんなことより私達もそろそろ寮へ戻ろっか!」
「……ああ、そうだな」
「もー埃でまたお風呂入らなくちゃだよぉ、誰かさんのせいで」
彼女はチロといたずらっぽく小さな舌を出す。
その仕草にアルヴィスはドキっと鼓動が跳ねたが、それを表情に出さないように平常を装いつつ「すまん」と一言。
彼らが並んで寮まで帰ると、二枚扉の片側だけ閉じられていた入り口には 、2人を待っていたかのように煙管キセルを吹かしアンヴィエッタが寄りかかっていた。
「やっと戻ってきたか、坊や――と、スカーレット」
「先生、あんたまた随分と古いものを」
「私はこっちのほうが好きでね。君もどうだ?」
「仮にも教職やってるような人の発言とは思えないな」
「すまんすまん、で、私が話があるのは坊やじゃない――」
アンヴィエッタは煙管でアルヴィスの隣にいる人物を指す。
「スカーレット。ちょっと話がある、こっちに来い」
「拒否権は――無いようですね」
「わかっているようじゃないか。というわけで坊や、デートの途中で悪いが彼女を借りるぞ」
「デートって……。じゃあ俺は先に帰りますよ。またな、エリザ。明日も放課後頼むな」
「うん……。―― アルくん!」
アルヴィスがこの場を去るため歩き出そうと踏み込んだ瞬間、後ろから袖を引っ張られた。
「うぉっ!? ――どうしたエリザ?」
「君にこれを持っていてほしいの。ずっとじゃなくていいから、ダメ……かな?」
左手中指から指輪を外したエリザベスはアルヴィスの手を取ると握らせ渡した。
「指輪……だよな? さすがに入らないぞ?」
「い、いいの! 持っていてくれるだけで」
「んー、そうか? なら貰っとく」
「うん、ありがとう」
アルヴィスが指輪を制服の内ポケットに入れたのを見たエリザベスは優しく微笑し、アンヴィエッタのもとへと歩いていった。
2人が寮の1階にある寮長室へと入っていくのを見送ったアルヴィスは、1人になり気が抜けたのか、急に疲労感に襲われる。
今日はもう寝ようと部屋へ戻ると、制服を脱ぎ捨てベッドへ飛び込むように倒れ、そのまま眠りについた。
「すまん……。だけどあいつらがまだ全力じゃないうちに一瞬でかたをつけなきゃ俺の方がやられていた」
「たしかに普通にやっていたらそうかもしれないけど……。それでも魔力コントロールがまだまだ未熟な君には、身体への負担が大きすぎるの! その証拠にあの一瞬でほら、肩で息してるじゃない!」
彼女はアルヴィスを指差しさらに詰め寄ると、トンと肩を突いた。
「――何重までかけたの?」
「…………20……」
「に、にじゅうぅッ!?」
(それって、今日の練習で出来た最高記録を超えてるじゃない!? たしか18重魔法だったはずじゃ……)
「なんかいける気がしてよ。つかそんなに驚くことじゃないだろ。この学院にはもっとスゲーやつがごろごろいるんだろ?」
「た、たしかにいないこともないけどぉ……」
エリザベスは口許に指をあて考える。ただその表情は複雑そうだった。
(私でも多重魔法は15重が最大だし、20を越えてる人を私はユキちゃんしか――)
「――ところでエリザ」
「え!? な、なにかな?」
エリザベスがユキちゃんなる生徒のことを思い出していると、アルヴィスに何か切り出すようにいきなり名前を呼ばれ肩をびくりと震わせた。
「アヒムが呼んでた名前 ――〈暴虐の姫〉って――」
「ごめん! ――さっきも言ったけど、それは好きじゃないの。とくにきみには、呼んでほしくないかな……」
「わ、わかった」
「ごめんね? ――そんなことより私達もそろそろ寮へ戻ろっか!」
「……ああ、そうだな」
「もー埃でまたお風呂入らなくちゃだよぉ、誰かさんのせいで」
彼女はチロといたずらっぽく小さな舌を出す。
その仕草にアルヴィスはドキっと鼓動が跳ねたが、それを表情に出さないように平常を装いつつ「すまん」と一言。
彼らが並んで寮まで帰ると、二枚扉の片側だけ閉じられていた入り口には 、2人を待っていたかのように煙管キセルを吹かしアンヴィエッタが寄りかかっていた。
「やっと戻ってきたか、坊や――と、スカーレット」
「先生、あんたまた随分と古いものを」
「私はこっちのほうが好きでね。君もどうだ?」
「仮にも教職やってるような人の発言とは思えないな」
「すまんすまん、で、私が話があるのは坊やじゃない――」
アンヴィエッタは煙管でアルヴィスの隣にいる人物を指す。
「スカーレット。ちょっと話がある、こっちに来い」
「拒否権は――無いようですね」
「わかっているようじゃないか。というわけで坊や、デートの途中で悪いが彼女を借りるぞ」
「デートって……。じゃあ俺は先に帰りますよ。またな、エリザ。明日も放課後頼むな」
「うん……。―― アルくん!」
アルヴィスがこの場を去るため歩き出そうと踏み込んだ瞬間、後ろから袖を引っ張られた。
「うぉっ!? ――どうしたエリザ?」
「君にこれを持っていてほしいの。ずっとじゃなくていいから、ダメ……かな?」
左手中指から指輪を外したエリザベスはアルヴィスの手を取ると握らせ渡した。
「指輪……だよな? さすがに入らないぞ?」
「い、いいの! 持っていてくれるだけで」
「んー、そうか? なら貰っとく」
「うん、ありがとう」
アルヴィスが指輪を制服の内ポケットに入れたのを見たエリザベスは優しく微笑し、アンヴィエッタのもとへと歩いていった。
2人が寮の1階にある寮長室へと入っていくのを見送ったアルヴィスは、1人になり気が抜けたのか、急に疲労感に襲われる。
今日はもう寝ようと部屋へ戻ると、制服を脱ぎ捨てベッドへ飛び込むように倒れ、そのまま眠りについた。
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