20 / 44
新人戦編 ―前編―
第19話 俺と――!
しおりを挟む
(ロキとロベルト戦のおかげでやっと名前を売るチャンスを獲たんだ。 あいつには悪いが辞退するつもりはねェ。むしろ利用させてもらうぞ)
「というわけでアンヴィエッタ先生、俺の心配はしなくて大丈夫だ」
「どういうわけなのかは知らんが端から心配などしとらんよ」
「かわいい教え子の心配ぐらいしてくれよ!?」
「憎たらしい、の間違いではないのかね?」
アンヴィエッタの口角がやや上がっていることにアルヴィスは気付いた。微笑、では決してない。どちらかと言えば嘲笑っているような類いのものだ。
「とまぁ冗談はさておき、坊やのことはホントに心配しとらんよ。どのみちアヒムに足を掬われる程度では優勝なんて出来ないからな」
「優勝か。……先生は俺とロベルト、どっちが優勝すると思ってるんだ?」
「……さあな。そんなこと、やってみなくちゃわからんだろ? だから面白いんじゃないか」
(正直、先程の戦闘を見てしまうとどちらが勝ってもおかしくない。予想ができんのが本音だが、そんなことを言えばまた坊やが調子に乗って癪だからな)
「精々坊やはこれから当日まで寝首を掻かれないことだな」
そう言い残すとアンヴィエッタは手をひらひらと振りながらこの場を去ってしまった。
「寝首ねぇー。逆に掻きに行ったらいいんじゃね? ……まぁ今の俺がそれをやっちまったら殺されるだけか。相手は子爵様だからなー」
アルヴィスは身分の差をここでも感じてしまい深い溜め息を吐く。爵位にランク、上下関係に縛られ過ぎているこの世の中の現状を孤児院暮らしだったアルヴィスは身をもって知っているのだ。
仕事の分配率、暮らしの水準、富・名声とアルヴィスは全てにおいて底辺だ。だがアルヴィスはそれでもいいと思っていた。大切な家族、つまり暮らし育った孤児院のみんなさえ守れれば、と。
アルヴィスはほんの1月前まで暮らしていた孤児院をふと思い出し軽いホームシック状態になっていると、いきなり肩をポンと叩かれた。誰かと思い顔だけ振り向く――と、右頬に細い何かが刺さる。
「やぁやぁ後輩くん、久し振りだねー! といっても先週振りだけどぉー」
振り向くとそこに立っていたのはニコニコと笑顔を向けるエリザベスだった。アルヴィスの頬に刺さっているのはどうやら彼女の指のようだ。
「エリザ、俺も会えて嬉しいがこんな大勢の前でこれは止めてくれ。恥ずかしいわ……」
頬を少し赤く染めているアルヴィスは刺さったままの指をどかし下げつつ、エリザベスに体も向ける。
「いやーつい君のことを見るといじめたくなっちゃうんだよねぇー」
あははーと笑うエリザベスの笑顔はご機嫌そのものだ。アルヴィスはあまりのご機嫌ぷりに何かあったのかと訊ねようとも思ったがあえて止めておいた。世の中には触れない方がいいこともあるのだと知っているからで、今回のこれはまさしくそれだと直感で感じたからだ。
「ところでさっきまで寮長と話していたみたいだけどどうしたの?」
「ん? あぁ、新人戦の話だよ。俺が代表者の1人になったんだ」
「おぉーっ、すごいねぇー! 頑張ってね!」
「ああ。エリザのときは誰が代表者だったんだ?」
「えーっとね、私も代表者だったんだよ? 後は誰だったかな……。とりあえず今の学院序列4位までは全員出てたかな?」
「エリザも代表だったのか、やっぱすげーな――っておい!」
(いま学院序列4位まで全員とか言わなかったか!? まさか全員4年生ってことか!?)
「ん? どうかした?」
「え、エリザさんって、学院何位なんですか?」
「えっとねー、今は4位だよ。この前ユキちゃんに負けちゃってさー」
あははーと笑いながら照れているように頭を掻く彼女のこの姿だけを見ていると、とても貴族とは思えない。
(負けてしまって4位ってことは――)
「じゃ、じゃあそれまでは――」
「3位でしたー! どう? お姉さんに惚れ直したかな?」
えへんと胸を張りながら3本指を立てるエリザベス。アルヴィスは、倒した相手のユキちゃんという生徒のことや惚れていないのに惚れ直すことはそもそも出来ないという考えも一瞬あったが、そんなことはどうでもいいと思考を一蹴した。
今、自身の目の前にいるこの生徒こそが、この学院を代表するトップ達の1人という事実を知ったことの方がとてつもなく大きかった。
以前に手合わせをした時から強いと体感し、あのアンヴィエッタ教授までも気に掛ける生徒ということだけあって凄い生徒ということは勘づいてはいたアルヴィスだったが、お気楽という言葉を体現しているような彼女が4位とは微塵も思ってもみなかったのだ。
(エリザに本格的に練習に付き合ってもらえれば、もしかしたらすげェー強くなれるんじゃないのか? これは好機なんじゃ……)
「え、エリザ! えっと、その……――俺と付き合ってくれないか!?」
「というわけでアンヴィエッタ先生、俺の心配はしなくて大丈夫だ」
「どういうわけなのかは知らんが端から心配などしとらんよ」
「かわいい教え子の心配ぐらいしてくれよ!?」
「憎たらしい、の間違いではないのかね?」
アンヴィエッタの口角がやや上がっていることにアルヴィスは気付いた。微笑、では決してない。どちらかと言えば嘲笑っているような類いのものだ。
「とまぁ冗談はさておき、坊やのことはホントに心配しとらんよ。どのみちアヒムに足を掬われる程度では優勝なんて出来ないからな」
「優勝か。……先生は俺とロベルト、どっちが優勝すると思ってるんだ?」
「……さあな。そんなこと、やってみなくちゃわからんだろ? だから面白いんじゃないか」
(正直、先程の戦闘を見てしまうとどちらが勝ってもおかしくない。予想ができんのが本音だが、そんなことを言えばまた坊やが調子に乗って癪だからな)
「精々坊やはこれから当日まで寝首を掻かれないことだな」
そう言い残すとアンヴィエッタは手をひらひらと振りながらこの場を去ってしまった。
「寝首ねぇー。逆に掻きに行ったらいいんじゃね? ……まぁ今の俺がそれをやっちまったら殺されるだけか。相手は子爵様だからなー」
アルヴィスは身分の差をここでも感じてしまい深い溜め息を吐く。爵位にランク、上下関係に縛られ過ぎているこの世の中の現状を孤児院暮らしだったアルヴィスは身をもって知っているのだ。
仕事の分配率、暮らしの水準、富・名声とアルヴィスは全てにおいて底辺だ。だがアルヴィスはそれでもいいと思っていた。大切な家族、つまり暮らし育った孤児院のみんなさえ守れれば、と。
アルヴィスはほんの1月前まで暮らしていた孤児院をふと思い出し軽いホームシック状態になっていると、いきなり肩をポンと叩かれた。誰かと思い顔だけ振り向く――と、右頬に細い何かが刺さる。
「やぁやぁ後輩くん、久し振りだねー! といっても先週振りだけどぉー」
振り向くとそこに立っていたのはニコニコと笑顔を向けるエリザベスだった。アルヴィスの頬に刺さっているのはどうやら彼女の指のようだ。
「エリザ、俺も会えて嬉しいがこんな大勢の前でこれは止めてくれ。恥ずかしいわ……」
頬を少し赤く染めているアルヴィスは刺さったままの指をどかし下げつつ、エリザベスに体も向ける。
「いやーつい君のことを見るといじめたくなっちゃうんだよねぇー」
あははーと笑うエリザベスの笑顔はご機嫌そのものだ。アルヴィスはあまりのご機嫌ぷりに何かあったのかと訊ねようとも思ったがあえて止めておいた。世の中には触れない方がいいこともあるのだと知っているからで、今回のこれはまさしくそれだと直感で感じたからだ。
「ところでさっきまで寮長と話していたみたいだけどどうしたの?」
「ん? あぁ、新人戦の話だよ。俺が代表者の1人になったんだ」
「おぉーっ、すごいねぇー! 頑張ってね!」
「ああ。エリザのときは誰が代表者だったんだ?」
「えーっとね、私も代表者だったんだよ? 後は誰だったかな……。とりあえず今の学院序列4位までは全員出てたかな?」
「エリザも代表だったのか、やっぱすげーな――っておい!」
(いま学院序列4位まで全員とか言わなかったか!? まさか全員4年生ってことか!?)
「ん? どうかした?」
「え、エリザさんって、学院何位なんですか?」
「えっとねー、今は4位だよ。この前ユキちゃんに負けちゃってさー」
あははーと笑いながら照れているように頭を掻く彼女のこの姿だけを見ていると、とても貴族とは思えない。
(負けてしまって4位ってことは――)
「じゃ、じゃあそれまでは――」
「3位でしたー! どう? お姉さんに惚れ直したかな?」
えへんと胸を張りながら3本指を立てるエリザベス。アルヴィスは、倒した相手のユキちゃんという生徒のことや惚れていないのに惚れ直すことはそもそも出来ないという考えも一瞬あったが、そんなことはどうでもいいと思考を一蹴した。
今、自身の目の前にいるこの生徒こそが、この学院を代表するトップ達の1人という事実を知ったことの方がとてつもなく大きかった。
以前に手合わせをした時から強いと体感し、あのアンヴィエッタ教授までも気に掛ける生徒ということだけあって凄い生徒ということは勘づいてはいたアルヴィスだったが、お気楽という言葉を体現しているような彼女が4位とは微塵も思ってもみなかったのだ。
(エリザに本格的に練習に付き合ってもらえれば、もしかしたらすげェー強くなれるんじゃないのか? これは好機なんじゃ……)
「え、エリザ! えっと、その……――俺と付き合ってくれないか!?」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ダンジョン探索者に転職しました
みたこ
ファンタジー
新卒から勤めていた会社を退職した朝霧悠斗(あさぎり・ゆうと)が、ダンジョンを探索する『探索者』に転職して、ダンジョン探索をしながら、おいしいご飯と酒を楽しむ話です。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女召喚に巻き込まれた私はスキル【手】と【種】を使ってスローライフを満喫しています
白雪の雫
ファンタジー
某アニメの長編映画を見て思い付きで書いたので設定はガバガバ、矛盾がある、ご都合主義、深く考えたら負け、主人公による語りである事だけは先に言っておきます。
エステで働いている有栖川 早紀は何の前触れもなく擦れ違った女子高生と共に異世界に召喚された。
早紀に付与されたスキルは【手】と【種】
異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された早紀は宮殿から追い出されてしまう。
だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる