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新人戦編 ―前編―
第19話 俺と――!
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(ロキとロベルト戦のおかげでやっと名前を売るチャンスを獲たんだ。 あいつには悪いが辞退するつもりはねェ。むしろ利用させてもらうぞ)
「というわけでアンヴィエッタ先生、俺の心配はしなくて大丈夫だ」
「どういうわけなのかは知らんが端から心配などしとらんよ」
「かわいい教え子の心配ぐらいしてくれよ!?」
「憎たらしい、の間違いではないのかね?」
アンヴィエッタの口角がやや上がっていることにアルヴィスは気付いた。微笑、では決してない。どちらかと言えば嘲笑っているような類いのものだ。
「とまぁ冗談はさておき、坊やのことはホントに心配しとらんよ。どのみちアヒムに足を掬われる程度では優勝なんて出来ないからな」
「優勝か。……先生は俺とロベルト、どっちが優勝すると思ってるんだ?」
「……さあな。そんなこと、やってみなくちゃわからんだろ? だから面白いんじゃないか」
(正直、先程の戦闘を見てしまうとどちらが勝ってもおかしくない。予想ができんのが本音だが、そんなことを言えばまた坊やが調子に乗って癪だからな)
「精々坊やはこれから当日まで寝首を掻かれないことだな」
そう言い残すとアンヴィエッタは手をひらひらと振りながらこの場を去ってしまった。
「寝首ねぇー。逆に掻きに行ったらいいんじゃね? ……まぁ今の俺がそれをやっちまったら殺されるだけか。相手は子爵様だからなー」
アルヴィスは身分の差をここでも感じてしまい深い溜め息を吐く。爵位にランク、上下関係に縛られ過ぎているこの世の中の現状を孤児院暮らしだったアルヴィスは身をもって知っているのだ。
仕事の分配率、暮らしの水準、富・名声とアルヴィスは全てにおいて底辺だ。だがアルヴィスはそれでもいいと思っていた。大切な家族、つまり暮らし育った孤児院のみんなさえ守れれば、と。
アルヴィスはほんの1月前まで暮らしていた孤児院をふと思い出し軽いホームシック状態になっていると、いきなり肩をポンと叩かれた。誰かと思い顔だけ振り向く――と、右頬に細い何かが刺さる。
「やぁやぁ後輩くん、久し振りだねー! といっても先週振りだけどぉー」
振り向くとそこに立っていたのはニコニコと笑顔を向けるエリザベスだった。アルヴィスの頬に刺さっているのはどうやら彼女の指のようだ。
「エリザ、俺も会えて嬉しいがこんな大勢の前でこれは止めてくれ。恥ずかしいわ……」
頬を少し赤く染めているアルヴィスは刺さったままの指をどかし下げつつ、エリザベスに体も向ける。
「いやーつい君のことを見るといじめたくなっちゃうんだよねぇー」
あははーと笑うエリザベスの笑顔はご機嫌そのものだ。アルヴィスはあまりのご機嫌ぷりに何かあったのかと訊ねようとも思ったがあえて止めておいた。世の中には触れない方がいいこともあるのだと知っているからで、今回のこれはまさしくそれだと直感で感じたからだ。
「ところでさっきまで寮長と話していたみたいだけどどうしたの?」
「ん? あぁ、新人戦の話だよ。俺が代表者の1人になったんだ」
「おぉーっ、すごいねぇー! 頑張ってね!」
「ああ。エリザのときは誰が代表者だったんだ?」
「えーっとね、私も代表者だったんだよ? 後は誰だったかな……。とりあえず今の学院序列4位までは全員出てたかな?」
「エリザも代表だったのか、やっぱすげーな――っておい!」
(いま学院序列4位まで全員とか言わなかったか!? まさか全員4年生ってことか!?)
「ん? どうかした?」
「え、エリザさんって、学院何位なんですか?」
「えっとねー、今は4位だよ。この前ユキちゃんに負けちゃってさー」
あははーと笑いながら照れているように頭を掻く彼女のこの姿だけを見ていると、とても貴族とは思えない。
(負けてしまって4位ってことは――)
「じゃ、じゃあそれまでは――」
「3位でしたー! どう? お姉さんに惚れ直したかな?」
えへんと胸を張りながら3本指を立てるエリザベス。アルヴィスは、倒した相手のユキちゃんという生徒のことや惚れていないのに惚れ直すことはそもそも出来ないという考えも一瞬あったが、そんなことはどうでもいいと思考を一蹴した。
今、自身の目の前にいるこの生徒こそが、この学院を代表するトップ達の1人という事実を知ったことの方がとてつもなく大きかった。
以前に手合わせをした時から強いと体感し、あのアンヴィエッタ教授までも気に掛ける生徒ということだけあって凄い生徒ということは勘づいてはいたアルヴィスだったが、お気楽という言葉を体現しているような彼女が4位とは微塵も思ってもみなかったのだ。
(エリザに本格的に練習に付き合ってもらえれば、もしかしたらすげェー強くなれるんじゃないのか? これは好機なんじゃ……)
「え、エリザ! えっと、その……――俺と付き合ってくれないか!?」
「というわけでアンヴィエッタ先生、俺の心配はしなくて大丈夫だ」
「どういうわけなのかは知らんが端から心配などしとらんよ」
「かわいい教え子の心配ぐらいしてくれよ!?」
「憎たらしい、の間違いではないのかね?」
アンヴィエッタの口角がやや上がっていることにアルヴィスは気付いた。微笑、では決してない。どちらかと言えば嘲笑っているような類いのものだ。
「とまぁ冗談はさておき、坊やのことはホントに心配しとらんよ。どのみちアヒムに足を掬われる程度では優勝なんて出来ないからな」
「優勝か。……先生は俺とロベルト、どっちが優勝すると思ってるんだ?」
「……さあな。そんなこと、やってみなくちゃわからんだろ? だから面白いんじゃないか」
(正直、先程の戦闘を見てしまうとどちらが勝ってもおかしくない。予想ができんのが本音だが、そんなことを言えばまた坊やが調子に乗って癪だからな)
「精々坊やはこれから当日まで寝首を掻かれないことだな」
そう言い残すとアンヴィエッタは手をひらひらと振りながらこの場を去ってしまった。
「寝首ねぇー。逆に掻きに行ったらいいんじゃね? ……まぁ今の俺がそれをやっちまったら殺されるだけか。相手は子爵様だからなー」
アルヴィスは身分の差をここでも感じてしまい深い溜め息を吐く。爵位にランク、上下関係に縛られ過ぎているこの世の中の現状を孤児院暮らしだったアルヴィスは身をもって知っているのだ。
仕事の分配率、暮らしの水準、富・名声とアルヴィスは全てにおいて底辺だ。だがアルヴィスはそれでもいいと思っていた。大切な家族、つまり暮らし育った孤児院のみんなさえ守れれば、と。
アルヴィスはほんの1月前まで暮らしていた孤児院をふと思い出し軽いホームシック状態になっていると、いきなり肩をポンと叩かれた。誰かと思い顔だけ振り向く――と、右頬に細い何かが刺さる。
「やぁやぁ後輩くん、久し振りだねー! といっても先週振りだけどぉー」
振り向くとそこに立っていたのはニコニコと笑顔を向けるエリザベスだった。アルヴィスの頬に刺さっているのはどうやら彼女の指のようだ。
「エリザ、俺も会えて嬉しいがこんな大勢の前でこれは止めてくれ。恥ずかしいわ……」
頬を少し赤く染めているアルヴィスは刺さったままの指をどかし下げつつ、エリザベスに体も向ける。
「いやーつい君のことを見るといじめたくなっちゃうんだよねぇー」
あははーと笑うエリザベスの笑顔はご機嫌そのものだ。アルヴィスはあまりのご機嫌ぷりに何かあったのかと訊ねようとも思ったがあえて止めておいた。世の中には触れない方がいいこともあるのだと知っているからで、今回のこれはまさしくそれだと直感で感じたからだ。
「ところでさっきまで寮長と話していたみたいだけどどうしたの?」
「ん? あぁ、新人戦の話だよ。俺が代表者の1人になったんだ」
「おぉーっ、すごいねぇー! 頑張ってね!」
「ああ。エリザのときは誰が代表者だったんだ?」
「えーっとね、私も代表者だったんだよ? 後は誰だったかな……。とりあえず今の学院序列4位までは全員出てたかな?」
「エリザも代表だったのか、やっぱすげーな――っておい!」
(いま学院序列4位まで全員とか言わなかったか!? まさか全員4年生ってことか!?)
「ん? どうかした?」
「え、エリザさんって、学院何位なんですか?」
「えっとねー、今は4位だよ。この前ユキちゃんに負けちゃってさー」
あははーと笑いながら照れているように頭を掻く彼女のこの姿だけを見ていると、とても貴族とは思えない。
(負けてしまって4位ってことは――)
「じゃ、じゃあそれまでは――」
「3位でしたー! どう? お姉さんに惚れ直したかな?」
えへんと胸を張りながら3本指を立てるエリザベス。アルヴィスは、倒した相手のユキちゃんという生徒のことや惚れていないのに惚れ直すことはそもそも出来ないという考えも一瞬あったが、そんなことはどうでもいいと思考を一蹴した。
今、自身の目の前にいるこの生徒こそが、この学院を代表するトップ達の1人という事実を知ったことの方がとてつもなく大きかった。
以前に手合わせをした時から強いと体感し、あのアンヴィエッタ教授までも気に掛ける生徒ということだけあって凄い生徒ということは勘づいてはいたアルヴィスだったが、お気楽という言葉を体現しているような彼女が4位とは微塵も思ってもみなかったのだ。
(エリザに本格的に練習に付き合ってもらえれば、もしかしたらすげェー強くなれるんじゃないのか? これは好機なんじゃ……)
「え、エリザ! えっと、その……――俺と付き合ってくれないか!?」
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