13 / 44
新人戦編 ―前編―
第12話 約束
しおりを挟む
「…………」
指を鳴らした刹那、砂塵が舞いアルヴィスは姿を消した。僅かな間フィールドは静寂に包まれ砂塵が止むと、そこには1人佇むアルヴィスと10m程先に横たわっているロキの姿が。
観戦している学生は一体何が起きたのか解らずざわめいている。
「──なんてやつだッ!?」
(通常の5倍速の加速系等魔術に縮地を合わせることでこの私ですら初動をとらえることが出来ないとは。──あそこまで速いと眼のみで追うのは無理だな。だから魔力を感じ取り動きを読むのがセオリーだが、さすがに序列5位とはいえまだ無理か)
アンヴィエッタは興奮のあまり立ち上がりフィールドの様子を眺めていた。
「うぅ……ぅっ……」
フィールドで転がり倒れているロキは微かに呻き声を上げている。鎧はというと腹部にあたる部分を中心に蜘蛛の巣状にヒビが入り破壊されていた。
「案外脆いもんだな、あんたのご自慢のそれ」
アルヴィスは鎧を殴り破壊した自身の右手を冷ますように息を吹き掛けながらロキに話しかける。だが返事を求めているわけではない。今のロキがとてもまともに会話など出来そうにもない状態だというのは追いやった当の本人なのだ、そのくらい聞かなくとも解っているつもりだった。
「……ぅっ……お、おいっ……はぁっ……はぁっ……」
(!?)
だが意外なことにロキは倒れて空を見上げたまま反応してきた。表情は苦しそうに片眼を瞑り息は荒いままだが。
「……貴様……この俺に……手を、抜いて……いたのか……?」
「いや、あんたのその鎧がなかったらこの術を試すつもりはなかったぜ、ロキ」
(生身相手じゃ殺しかねないからな)
「……ちっ、俺の判断ミスか……。──今回は貴様に勝ちをくれてやる……来月の新人戦、絶対に出てこい……そこで叩きのめしてやる」
(新人戦? そんなものがあるのか?)
「ああ、俺もまたあんたとは闘ってみたい。今度はお互い全力でだ」
「……ふんっ」
ロキはまるで自分はまだ全力ではないと言っているようなアルヴィスの言葉を鼻で一笑しそれを返事とすると、術を解き〈全身岩甲冑フルロックアーマー〉で武装された状態から素に戻る。鎧は形状変わらず地面に落ち、まるで脱皮を行った後の様にも見える。
ロキが術を解いたことを敗けを認めたと判断したのか、アンヴィエッタが二人の元まで近づいてくる。
アルヴィスはその時初めてもう一方のフィールドで行っていた模擬戦が既に終了し、生徒全員に観戦されていたことに気付く。
「私はいい試合程度にはなると思っていたが、まさか勝つとまでは思ってもみなかったぞ坊や」
「おいおい、試合をさせておいてそれはないだろ先生。それより、なんかそれ違和感があるんだけど?」
「序列5位を倒しておいて、もう君を〈最下位〉と呼ぶわけにもいくまい」
「んー、それでも坊やはちょっとなぁ。俺も15だぜ?」
「私からみたらまだまだ坊やさ」
(私からって、あんたもどう見たってまだ20代だろ)
アルヴィスは内心どこかまだ納得いっていないが改善されそうにもないので諦め、気になっていることを聞いてみることにした。
「ところで、さっきのロキと先生の約束。あれ、俺にも適用されるのか?」
「ん? ああ。──今ここでやるかい、坊や?」
「…………」
アルヴィスはアンヴィエッタの眼をジッと見つめ、暫しの時が経つ。
アンヴィエッタから感じる計り知れない程の魔力。強者の風格。
やってみたい。アルヴィスは好奇心という単純な欲望に満たされていた。
「──いや、また今度頼む」
が、アンヴィエッタとの模擬戦を断った。
「そうか」
(分かっているようじゃないか、今の君では試合にならないと)
アンヴィエッタは眼鏡の位置を直しながら鼻で笑い、密かにアルヴィスの評価を上げていた。
(ちっ。悔しいけど、今の俺じゃまだ足りねぇ)
アルヴィスは腰に両手を当て空を見上げると、己の中にもやもやと残る悔しさを吐き出すかのように溜め息を吐いた。
「皆今日の試合の反省をしっかり行うように! これにて終了とする!」
アルヴィスの様子を見たアンヴィエッタは話は終わりだと背を向けると、観戦席にいる生徒に聞こえるように大声で講義終了のあいさつを叫んだ。
指を鳴らした刹那、砂塵が舞いアルヴィスは姿を消した。僅かな間フィールドは静寂に包まれ砂塵が止むと、そこには1人佇むアルヴィスと10m程先に横たわっているロキの姿が。
観戦している学生は一体何が起きたのか解らずざわめいている。
「──なんてやつだッ!?」
(通常の5倍速の加速系等魔術に縮地を合わせることでこの私ですら初動をとらえることが出来ないとは。──あそこまで速いと眼のみで追うのは無理だな。だから魔力を感じ取り動きを読むのがセオリーだが、さすがに序列5位とはいえまだ無理か)
アンヴィエッタは興奮のあまり立ち上がりフィールドの様子を眺めていた。
「うぅ……ぅっ……」
フィールドで転がり倒れているロキは微かに呻き声を上げている。鎧はというと腹部にあたる部分を中心に蜘蛛の巣状にヒビが入り破壊されていた。
「案外脆いもんだな、あんたのご自慢のそれ」
アルヴィスは鎧を殴り破壊した自身の右手を冷ますように息を吹き掛けながらロキに話しかける。だが返事を求めているわけではない。今のロキがとてもまともに会話など出来そうにもない状態だというのは追いやった当の本人なのだ、そのくらい聞かなくとも解っているつもりだった。
「……ぅっ……お、おいっ……はぁっ……はぁっ……」
(!?)
だが意外なことにロキは倒れて空を見上げたまま反応してきた。表情は苦しそうに片眼を瞑り息は荒いままだが。
「……貴様……この俺に……手を、抜いて……いたのか……?」
「いや、あんたのその鎧がなかったらこの術を試すつもりはなかったぜ、ロキ」
(生身相手じゃ殺しかねないからな)
「……ちっ、俺の判断ミスか……。──今回は貴様に勝ちをくれてやる……来月の新人戦、絶対に出てこい……そこで叩きのめしてやる」
(新人戦? そんなものがあるのか?)
「ああ、俺もまたあんたとは闘ってみたい。今度はお互い全力でだ」
「……ふんっ」
ロキはまるで自分はまだ全力ではないと言っているようなアルヴィスの言葉を鼻で一笑しそれを返事とすると、術を解き〈全身岩甲冑フルロックアーマー〉で武装された状態から素に戻る。鎧は形状変わらず地面に落ち、まるで脱皮を行った後の様にも見える。
ロキが術を解いたことを敗けを認めたと判断したのか、アンヴィエッタが二人の元まで近づいてくる。
アルヴィスはその時初めてもう一方のフィールドで行っていた模擬戦が既に終了し、生徒全員に観戦されていたことに気付く。
「私はいい試合程度にはなると思っていたが、まさか勝つとまでは思ってもみなかったぞ坊や」
「おいおい、試合をさせておいてそれはないだろ先生。それより、なんかそれ違和感があるんだけど?」
「序列5位を倒しておいて、もう君を〈最下位〉と呼ぶわけにもいくまい」
「んー、それでも坊やはちょっとなぁ。俺も15だぜ?」
「私からみたらまだまだ坊やさ」
(私からって、あんたもどう見たってまだ20代だろ)
アルヴィスは内心どこかまだ納得いっていないが改善されそうにもないので諦め、気になっていることを聞いてみることにした。
「ところで、さっきのロキと先生の約束。あれ、俺にも適用されるのか?」
「ん? ああ。──今ここでやるかい、坊や?」
「…………」
アルヴィスはアンヴィエッタの眼をジッと見つめ、暫しの時が経つ。
アンヴィエッタから感じる計り知れない程の魔力。強者の風格。
やってみたい。アルヴィスは好奇心という単純な欲望に満たされていた。
「──いや、また今度頼む」
が、アンヴィエッタとの模擬戦を断った。
「そうか」
(分かっているようじゃないか、今の君では試合にならないと)
アンヴィエッタは眼鏡の位置を直しながら鼻で笑い、密かにアルヴィスの評価を上げていた。
(ちっ。悔しいけど、今の俺じゃまだ足りねぇ)
アルヴィスは腰に両手を当て空を見上げると、己の中にもやもやと残る悔しさを吐き出すかのように溜め息を吐いた。
「皆今日の試合の反省をしっかり行うように! これにて終了とする!」
アルヴィスの様子を見たアンヴィエッタは話は終わりだと背を向けると、観戦席にいる生徒に聞こえるように大声で講義終了のあいさつを叫んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
三日月の竜騎士
八魔刀
ファンタジー
「レギアス、お前の中には【ドラゴンの血】が半分流れている」
ドラゴンと人間が争っている世界に生きる青年レギアスは、父親に驚きの真実を告げられた。
ドラゴンの力を目覚めさせたレギアスは、国王の命により力を制御する術を得る為、王都にあるイングヴァルト王立騎士学校へと入学する事になる。
そこで「もう一度会おう」と、嘗て約束を交わした幼馴染みであるベール王女と再会を果たす。
レギアスはドラゴンの力を隠して騎士学校に通い、力の制御を学びながら自身の生まれた理由や存在意義を知っていく。
彼は、ドラゴンと人間――どちらの道を歩むのか。
これは、ドラゴンと人間の運命に挟まれた青年の物語。
旧題=クレセント・グレイブ ―イングヴァルト王立騎士学校の竜騎士ー
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ダンジョン探索者に転職しました
みたこ
ファンタジー
新卒から勤めていた会社を退職した朝霧悠斗(あさぎり・ゆうと)が、ダンジョンを探索する『探索者』に転職して、ダンジョン探索をしながら、おいしいご飯と酒を楽しむ話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる