孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~

神堂皐月

文字の大きさ
上 下
5 / 44
入学編

第4話 模擬戦・1

しおりを挟む
 アルヴィスは演習場入口まで走り着くと、さすがに2km程ある距離を全力で走り続けるのは相当に疲れたようだ。肩で息をしながら演習場内に入る。



 フィールドには8組程の利用者の姿があった。



 アルヴィスはエリザを見つけるため、キョロキョロと場内を見回しながら歩くとすぐに見つかった。



 エリザはフィールド中央を1人陣取っていた。というよりも、どうやら他の生徒がわざと距離を大きく開けているためエリザが孤立している様に見えるのだ。



 手を腰の辺りで組み片脚をぷらぷらと振りながら待つその姿は、とても19歳になる女の子には見えずもっと幼い印象をアルヴィスに与えた。



 アルヴィスが10m程の距離まで近づくと、エリザも気配で気づいたのか俯き地面を見ていた顔をハッとアルヴィスへと向け近づいて来る。



「やぁやぁ後輩君、私に何か言うことはあるかな?」



「すまん! 寝過ごした」



 アルヴィスは頭を下げ、両の手のひらを頭より高い位置で合わせる。



 平謝りを決めた姿勢だ。



 アルヴィスの姿勢を見たエリザは嘆息程ではないが小さく息を吐く。呆れたというよりは、幼子の悪戯を許す親の様な表情をしていた。



 アルヴィスの流す大量の汗を見てどれだけ急いで来たのか察したのだろう。



 そんな表情をしているエリザを頭を下げているアルヴィスには確認出来ない。つまり既に許されていることが分からないアルヴィスは、何の反応も返ってこないのでエリザの機嫌を窺うようにゆっくりと頭だけを上げた。勿論両手は合わせたままだ。



「あ、あれ……?」



 頭を上げた視界には、先ほどまで目の前に居たエリザの姿がない。



「おーいっ、早速始めるよ!」



 慌てているアルヴィスに、エリザは10m程離れた距離から片手を振り叫ぶ。



(許してくれた、のか?)



「始めるって何をだ?」



「まずは君の魔法ちからも知りたいし、戦闘スタイルも分からないから模擬戦からしてみよう」



「実戦ってわけか。OK、いつでもいいぜ」



 アルヴィスは手首足首を廻しながら首を左右に振りポキポキと鳴らしながら準備運動をしつつ応える。



「道具アイテムの用意はしていないけど、大丈夫?」



「ああ、問題ない」



 アルヴィスの返事にエリザは片手を上げ応えると、制服の上着右ポケットからコインを取り出し親指で空中に弾いた。



 どうやらコインが地面に落ちた瞬間が開始の合図のようだ。



 アルヴィスは半身になり戦闘体勢ファイティングポーズになった。右脚を後ろに引き、右拳は緩く握り顔よりやや下に位置する。前手の左手は開いたままだ。



 いかにも格闘技のように殴り合うことが前提の体勢スタイルだ。



 一方エリザはというと、以前に見せた淡い青白い光を纏い、構えることもなくただコインの落下を見つめている。



 トスッという極々小さな音を鳴らし地面に落下した。コインが放たれてからその間僅か5秒程だ。



 そして開始と同時に───



「…………」



「…………」



 どちらも動かなかった。



「あれ……? 掛かって来ないの?」



 僅かな沈黙を先に破ったのはエリザだった。



「いやー、相手の何の情報も無いなかで開始早々いきなり飛び込むなんて、早死にするタイプだぜ」



「君は違うんだね?」



「どうだかな?」



(アンヴィエッタ先生が気にしている人みたいだし、かなりの実力者ってことは間違いないんだ。願わくばエリザから掛かってきて欲しかったけどな)



「ふーん……まぁ、いきなり飛び込む様なことをしてたら確かに一瞬で終わってたかもね」



「はは……っ」



 アルヴィスはエリザの発言に冷や汗を頬に流しつつ、わずかに安堵した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ダンジョン探索者に転職しました

みたこ
ファンタジー
新卒から勤めていた会社を退職した朝霧悠斗(あさぎり・ゆうと)が、ダンジョンを探索する『探索者』に転職して、ダンジョン探索をしながら、おいしいご飯と酒を楽しむ話です。

聖女召喚に巻き込まれた私はスキル【手】と【種】を使ってスローライフを満喫しています

白雪の雫
ファンタジー
某アニメの長編映画を見て思い付きで書いたので設定はガバガバ、矛盾がある、ご都合主義、深く考えたら負け、主人公による語りである事だけは先に言っておきます。 エステで働いている有栖川 早紀は何の前触れもなく擦れ違った女子高生と共に異世界に召喚された。 早紀に付与されたスキルは【手】と【種】 異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された早紀は宮殿から追い出されてしまう。 だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...