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そして、ふたたび春
最終話 婚約式の四阿で
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春。皇国は再び芽ぶきの季節を迎える。固く凍りつき眠っていた大地が目を覚まし、全ての生命が一斉に動き出す。
アポロデアの皇室は春の園遊会を催し、それよりすこし遅れてエリアス公爵家でも、春の茶会が催された。しかし、グリード第二皇子はそのどちらにもどの令嬢も伴わず、ひとりで参加していた。
これは近年なかったことで、とうとうエリアス公爵令嬢は皇子を見限ったのではと貴族たちは噂した。
その状況だけでもかなりスキャンダラスであったわけなのだけれど、さらにグリード皇子は公爵邸の茶会で婚約者のエリアス公爵令嬢に、話があると声をかけたのだ。
「パルマローザ、どうか、心を決めて欲しいんだ」
貴族たちは水を打ったようにしずかになった。ざわめいているのは、暖かな南風にふかれてそよぐ五月の薔薇の茂みだけだ。
息をひそめて貴族たちはなりゆきを見守るが、グリードは一向に意に介さない様子でパルマローザの腕をひき、茶会の上座に置かれた美しい蔓薔薇の四阿へと連れていった。
ごくり、と誰かの唾を飲み下す音が聞こえた。それくらいの沈黙がおりていたのだ。ぴんとはりつめた緊張感のなか、パルマローザ・エリアス公爵令嬢の返答をまつ。
パルマローザは頬をばらいろにそめたまま黙って、グリードがどうするのかをみていた。榛いろの髪を麗しく結い上げてあり浅葱色のジョーゼットの生地のドレスがとても似合っている。今日この日のために、誰かが彼女のために誂えたと信じられるだけの逸品を着て、彼女はそこに立っていた。
やはり、また婚約破棄の話か、と貴族たちは眉をひそめる。このような場所で度々名誉を傷つけられて、泣くか、あるいは怒って立ち去るか。皆が固唾をのんで彼女を見守った。
ぱちん、とパルマローザは顔を隠していた扇を閉じた。
「……却下ですわ」
え、とグリードが首をひねる。パルマローザはその琥珀色の瞳で彼をみつめた。
「却下、と申しました。いかな婚約者でも、それなりに礼儀というものがございますわ。さあ、グリードさまはどうなさりたいの?」
おお、とまわりから拍手が起こる。パルマローザの意見は正しい。ぐうの音もでないほどだ。
しかし、
「私は本当の愛をみつけたんだ、それをそんなありきたりな……」
ありきたり?とパルマローザはまばたきをした。
「なるほど、たしかに婚約というものはありきたりなものですわね。では、ここで貴方のお心をうかがいたいですわ。グリード様の口から」
再びしいん、と庭園は静まっている。
「……どうなさいましたの?まさか、できないなんてことは、ありませんわよね?」
ハッとした顔で、グリードはパルマローザの前へ進み出た。
「もちろん、だ。君はその、運命の、相手なんだから……パルマローザ…」
ふうん、とパルマローザが目を細めた瞬間、グリードは片膝をついてパルマローザを見上げた。そして、胸元に入れていた小箱を取り出す。
見ればそれは、美しい細工のなされた指輪だった。
「まあ……」
パルマローザは口許へ扇子をあてて、その様子を見下ろした。
「皇子が跪くだなんて。立ってくださいませ、グリード様」
言われても、グリードは首をふる。そして、少しのあいだため息とも深呼吸とも思える深い息を繰り返した後、
「パルマローザ・エリアス公爵令嬢!結婚してくれ!」
と叫んだ。文字通り、叫んだのだ。ふーっ、ふーっ、と肩で息をするグリードにパルマローザもしゃがみこみ、まったく、と苦笑いをした。
「せっかく完璧に整えたのに、オシャレな舞台が台無しですわ」
そんな風にいいながら、グリードの頬を両手で挟む。
「わかりました、グリード様。わたくし、グリード様と結婚いたしますわ」
そういって、ドレスが汚れるのも厭わず膝をついてグリードに腕をのばし、首の後ろに手をまわした。
「まあ!なんてことなの!」
保守的などこかの婦人は眉をしかめ、若い令嬢たちは、顔をかくす素振りをしながらも指の間からふたりをしっかり見た。紳士たちはもっとあからさまだ。
「グリード殿下!令嬢に恥をかかせないように!」
ヤジを飛ばした声はジェンキンスのようだった。
それをきいて、グリードは我に返り、自分がパルマローザにキスされている、とようやく理解した。柔らかな体が自分の腕のなかにあり、唇は甘いと感じるほどしっとりとしている。
「パルマローザ、愛してる」
それは、心から出た一言だった。それを聞いたパルマローザは動きをとめ、うつむいてしまった。
「嫌だったか?」
いいえ、とパルマローザは首を振る。
「嬉しいのです…ずっと、その言葉を待っていましたの…わたくしもグリード様を愛しておりますわ」
微笑んだその笑顔に、わっと拍手がおこった。凄いわ、とまだうら若い少女たちから歓喜の声が上がる。
離れたところからみていた貴族たちが、口々に祝福を述べながら、しかしなんとなく困惑したように近づいてくるのを見ながら、ふたりはたちあがった。
「…これでいいのか?」
小さく、グリードがパルマローザにささやく。
「ええ、素晴らしいですわ」
パルマローザも、手を振りかえしながらグリードにささやきかえす。
「グリード様をかならず幸せにいたしますわね!」
パルマローザは嬉しそうにグリードにわらいかけた。
「なんだかわからないが、頼もしいよ」
グリードはそんなパルマローザに腕を貸しながら、つぶやくのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その3年のち、パルマローザは侯爵となったグリードと共に、貴族のための庭に作る柵や噴水を販売し始めた。
それは、パルマローザがあの婚約式で使用していた蔓薔薇の四阿で結婚式や婚約披露がしたいという、若いカップルがパルマローザのもとへどんどんやってくるようになっていったからだ。
「その前は君が結婚披露宴で着けていた、髪にぶら下げるかたちの髪飾り。その前は私が着ていた男性用の麻の昼用のスーツだった…いっそ怖いくらいだ。一体どうなってる?」
グリードが家令に渡された契約書をまとめて片付けながらつぶやくと、パルマローザはほほえんだ。
「あら、お約束したじゃありませんの。グリードさまがあくせく働かずとも、私はグリード様を幸せにいたしますと」
そういって、窓の外を見下ろした。
「次は国中からできるだけ多くの乳母をあつめて、教育をはじめねばいけませんわ。すぐに必要になりますから」
そう言って、パルマローザは自分のまだ出ていないお腹をなでた。
「そうだな、大切な私たちの子供だからな」
屈託なく笑うグリードに、ええ、とパルマローザは微笑みを返したのだった。
さらに数年のち、パルマローザとグリードの構える商会は教育、建築、服飾の分野で幅広く名を馳せる巨大な商団となり、皇国一の資産を誇ることになるのだが、このときにはまだ、そんなことは想像すらしていなかった。
…少なくとも、グリードにとっては、だが。
「公爵家令嬢と婚約者の憂鬱なる往復書簡」
おわり
アポロデアの皇室は春の園遊会を催し、それよりすこし遅れてエリアス公爵家でも、春の茶会が催された。しかし、グリード第二皇子はそのどちらにもどの令嬢も伴わず、ひとりで参加していた。
これは近年なかったことで、とうとうエリアス公爵令嬢は皇子を見限ったのではと貴族たちは噂した。
その状況だけでもかなりスキャンダラスであったわけなのだけれど、さらにグリード皇子は公爵邸の茶会で婚約者のエリアス公爵令嬢に、話があると声をかけたのだ。
「パルマローザ、どうか、心を決めて欲しいんだ」
貴族たちは水を打ったようにしずかになった。ざわめいているのは、暖かな南風にふかれてそよぐ五月の薔薇の茂みだけだ。
息をひそめて貴族たちはなりゆきを見守るが、グリードは一向に意に介さない様子でパルマローザの腕をひき、茶会の上座に置かれた美しい蔓薔薇の四阿へと連れていった。
ごくり、と誰かの唾を飲み下す音が聞こえた。それくらいの沈黙がおりていたのだ。ぴんとはりつめた緊張感のなか、パルマローザ・エリアス公爵令嬢の返答をまつ。
パルマローザは頬をばらいろにそめたまま黙って、グリードがどうするのかをみていた。榛いろの髪を麗しく結い上げてあり浅葱色のジョーゼットの生地のドレスがとても似合っている。今日この日のために、誰かが彼女のために誂えたと信じられるだけの逸品を着て、彼女はそこに立っていた。
やはり、また婚約破棄の話か、と貴族たちは眉をひそめる。このような場所で度々名誉を傷つけられて、泣くか、あるいは怒って立ち去るか。皆が固唾をのんで彼女を見守った。
ぱちん、とパルマローザは顔を隠していた扇を閉じた。
「……却下ですわ」
え、とグリードが首をひねる。パルマローザはその琥珀色の瞳で彼をみつめた。
「却下、と申しました。いかな婚約者でも、それなりに礼儀というものがございますわ。さあ、グリードさまはどうなさりたいの?」
おお、とまわりから拍手が起こる。パルマローザの意見は正しい。ぐうの音もでないほどだ。
しかし、
「私は本当の愛をみつけたんだ、それをそんなありきたりな……」
ありきたり?とパルマローザはまばたきをした。
「なるほど、たしかに婚約というものはありきたりなものですわね。では、ここで貴方のお心をうかがいたいですわ。グリード様の口から」
再びしいん、と庭園は静まっている。
「……どうなさいましたの?まさか、できないなんてことは、ありませんわよね?」
ハッとした顔で、グリードはパルマローザの前へ進み出た。
「もちろん、だ。君はその、運命の、相手なんだから……パルマローザ…」
ふうん、とパルマローザが目を細めた瞬間、グリードは片膝をついてパルマローザを見上げた。そして、胸元に入れていた小箱を取り出す。
見ればそれは、美しい細工のなされた指輪だった。
「まあ……」
パルマローザは口許へ扇子をあてて、その様子を見下ろした。
「皇子が跪くだなんて。立ってくださいませ、グリード様」
言われても、グリードは首をふる。そして、少しのあいだため息とも深呼吸とも思える深い息を繰り返した後、
「パルマローザ・エリアス公爵令嬢!結婚してくれ!」
と叫んだ。文字通り、叫んだのだ。ふーっ、ふーっ、と肩で息をするグリードにパルマローザもしゃがみこみ、まったく、と苦笑いをした。
「せっかく完璧に整えたのに、オシャレな舞台が台無しですわ」
そんな風にいいながら、グリードの頬を両手で挟む。
「わかりました、グリード様。わたくし、グリード様と結婚いたしますわ」
そういって、ドレスが汚れるのも厭わず膝をついてグリードに腕をのばし、首の後ろに手をまわした。
「まあ!なんてことなの!」
保守的などこかの婦人は眉をしかめ、若い令嬢たちは、顔をかくす素振りをしながらも指の間からふたりをしっかり見た。紳士たちはもっとあからさまだ。
「グリード殿下!令嬢に恥をかかせないように!」
ヤジを飛ばした声はジェンキンスのようだった。
それをきいて、グリードは我に返り、自分がパルマローザにキスされている、とようやく理解した。柔らかな体が自分の腕のなかにあり、唇は甘いと感じるほどしっとりとしている。
「パルマローザ、愛してる」
それは、心から出た一言だった。それを聞いたパルマローザは動きをとめ、うつむいてしまった。
「嫌だったか?」
いいえ、とパルマローザは首を振る。
「嬉しいのです…ずっと、その言葉を待っていましたの…わたくしもグリード様を愛しておりますわ」
微笑んだその笑顔に、わっと拍手がおこった。凄いわ、とまだうら若い少女たちから歓喜の声が上がる。
離れたところからみていた貴族たちが、口々に祝福を述べながら、しかしなんとなく困惑したように近づいてくるのを見ながら、ふたりはたちあがった。
「…これでいいのか?」
小さく、グリードがパルマローザにささやく。
「ええ、素晴らしいですわ」
パルマローザも、手を振りかえしながらグリードにささやきかえす。
「グリード様をかならず幸せにいたしますわね!」
パルマローザは嬉しそうにグリードにわらいかけた。
「なんだかわからないが、頼もしいよ」
グリードはそんなパルマローザに腕を貸しながら、つぶやくのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その3年のち、パルマローザは侯爵となったグリードと共に、貴族のための庭に作る柵や噴水を販売し始めた。
それは、パルマローザがあの婚約式で使用していた蔓薔薇の四阿で結婚式や婚約披露がしたいという、若いカップルがパルマローザのもとへどんどんやってくるようになっていったからだ。
「その前は君が結婚披露宴で着けていた、髪にぶら下げるかたちの髪飾り。その前は私が着ていた男性用の麻の昼用のスーツだった…いっそ怖いくらいだ。一体どうなってる?」
グリードが家令に渡された契約書をまとめて片付けながらつぶやくと、パルマローザはほほえんだ。
「あら、お約束したじゃありませんの。グリードさまがあくせく働かずとも、私はグリード様を幸せにいたしますと」
そういって、窓の外を見下ろした。
「次は国中からできるだけ多くの乳母をあつめて、教育をはじめねばいけませんわ。すぐに必要になりますから」
そう言って、パルマローザは自分のまだ出ていないお腹をなでた。
「そうだな、大切な私たちの子供だからな」
屈託なく笑うグリードに、ええ、とパルマローザは微笑みを返したのだった。
さらに数年のち、パルマローザとグリードの構える商会は教育、建築、服飾の分野で幅広く名を馳せる巨大な商団となり、皇国一の資産を誇ることになるのだが、このときにはまだ、そんなことは想像すらしていなかった。
…少なくとも、グリードにとっては、だが。
「公爵家令嬢と婚約者の憂鬱なる往復書簡」
おわり
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