公爵家令嬢と婚約者の憂鬱なる往復書簡

西藤島 みや

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8通目 第二皇子グリードから

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親愛なるパルマローザ

    昨日はとてもきれいだったね。贈った髪飾りをしてきてくれて有難う。エスコート出来なくて申し訳なかった。怒っているかな?

 昨日の彼女はラングスティ伯爵の孫娘で、けしてやましい相手ではない。ただ、ラングスティ伯爵が先日私のところへ直接やってきて、腰を痛めたので代わりにエスコートして欲しいと頼みにきたから、断れなかっただけなんだ。兄上に頼んでみようかと思ったけれど、兄上は海洋視察団の相手で手一杯だったし。

 それはそうと、君たちの楽しい旅行に水をさした奴らの処遇だけれど、とりあえず賊に関しては街道引回しのうえでリューゼルヌの丘へ48日程立たせることに決まったよ。丘で生き残れば禁固刑だ。私はぬるいと思ったんだけれど、直接の被害が馬車と僅かな金銭だけだから、こんな程度らしい。

ジェンキンスがアレンダンスキャッスルのメイド長と家令を、不敬を行った罪で捕えてきた。君に対して、大変な無礼を働いたときいた。本当に申し訳ないことをしたと思っているよ。それに彼らは解雇だけだった。両手を切り落としてもいいか、父上にききたかったけれど、兄上が強固に反対されたからね。

ジェンダル伯爵には相応の謝礼をする予定だ。離宮での扱いに傷ついた君に寄り添ってくれたことには感謝しているからね。ただ、君と伯爵には孫娘と祖父くらいの関係でいて欲しいと思っている。君には私という婚約者がいるのだから。

ところでジェンキンスは結局三人ともにフラれたらしいな、珍しく手ぶらでかえってきたから、皆なにごとかと騎士詰所に様子を見に行っている。天変地異の前触れでなければいいがと、父上が気になさっていた。


シュミューラ公姫のことは、8年ちかくまえのことだろう。それにあれは君があんまりにも泣くから驚いてやめたんじゃないか。もう忘れたのか?
「そんな遠くにお婿に行かれては一緒にかくれんぼもゲームもできません」
と君が泣き出して、私もそれはつまらないからとやめにしたんだよ。10歳にもなって、かくれんぼでもないだろうと兄上には笑われたけど、あのときは2人ともエリアス邸の薔薇迷宮に夢中だったよね。

あまりにも夢中になりすぎて、きみの母上様に叱られたりしたのを覚えているよ。身体中にかき傷を作って、葉っぱだの土だのクモの巣で2人ともぼろぼろだったから、使用人にも随分迷惑をかけてしまった。子供らしく遊ぶこともあまりしてこなかったけれど、あのときのことはとても鮮明に覚えているよ。

君の母君にまたお茶を送った。今回は薬湯ではなくて、母君が好むと言っていた薔薇を使ったお茶だから、喜んでもらえるといいとおもう。少しでも君の母君が笑顔でいられるよう、願うばかりだ。

それから、今朝、皇宮の法務審議官から婚約破棄のための書類が届いた。君が兄に頼んで取り寄せ、君の名の書かれたものだ。まずはありがとう、私のために取り寄せてくれたと聞いた。だが、まだ私は君から一度も
「婚約破棄したくない」
とも
「他に好きな人がいるから破棄して欲しい」
とも聞いていない。

君はいつでも私に頷くが、絶対に従わない。だから私もサインはしなかった。

どうしたいのか、ちゃんと話し合おう。来週の金曜日に、宮殿に来てくれ。いいね?



                                     グリード
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