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終章

断罪のとき

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レンブラントは哄笑していた。
こんな刻限に、こんな場所でと見咎められたとしても、こんなにも気分の良い日はありえないというふうに。ようやく彼女と娘を迎えられる。両親の無念も、晴らすことができると考えたのだろうか。

レイノルズ屋敷の尖塔の先は、夏だというのに湿り気をおびた冷たい風がふいて、レンブラントの前髪をゆらしていた。
着ていたジャケットの襟をたてて、捕らえた二人の男を、にたりとみおろした。



「レンブラント、これはいわば反逆罪だ。こんな、恐ろしい計画を…私が許しておくわけがないだろう?」
両手をしばられ、柱へ括りつけられたローランドは、血のあじのする唾を吐きすてて言った。
先ほどから彼の仮の主はぐったりとして、返事もない。彼に殴る蹴るの暴行をくわえたのは、誰あろう彼…ルーファス公爵の忠実な僕であるべき、屋敷の使用人たちだった。

「反逆者か。私の父もあらぬ罪をきせられて、そう呼ばれたが……次にそう呼ばれるのは、お前たちだ」
そういって、屋敷の森のむこうをゆびさした。
「おろかな女だ。あの老いぼれを助けるために態々南領の夜盗くずれを頼ったばかりに!」

そういうと、またひとしきりレンブラントは嗤った。
「お若い皇太子は婚約者に裏切られ、身も心もずたずたでここへつくだろう。それもこれも、お前たちの仕組んだ策略のせいでな!」

「策略などと!俺が殿下に何をするというのだ!」
ローランドが怒鳴ると
「ふふ、その薄汚い偽物公爵は、皇太子の婚約者に傍惚れしたのさ。だが、男にだらしのないあの女に弄ばれて棄てられた。だから、お前たちは皇太子を北領からこの王都へ続く山岳地で、あのカネに汚い夜盗子爵の仲間に襲わせる計画をたてた。私はその皇太子殿下をお助けするのだよ。正統な、公爵家の後継者としてね!」

がつ、と音がして、ローランドの体が地面に引き倒された。レンブラントが靴底でローランドの頭を踏みつけたのだ。


「なるほど、君の計画はよくわかった。だが、その偽物だの女だのは何処にいるのかな」
まだよ、と私は合図をしたけれど、クロード様はそれ以上見ていられなかったのか、隠れていた塔の陰からとびだしていってしまった。
「これは皇太子殿下!お早いお着きで!」
レンブラントは驚き、後ずさってローランドから足を放した。


「殿下、逃げてください」
ローランドは呻くけれど、クロード様はかまわずレンブラントのほうへあるいていく。
「いいや?遅くなったよ。なにせ出立するまえに馬車が故障してね」
クロード様はレンブラントから目を離さずに腰に下げている剣をぬいた。
「ひッ……ば、馬車?馬車でお越しになったので?」
「ああ、子爵の馬車は壊れたので、使用人が乗ってゆく予定だった小型のものに乗り換えた。ラングが用意してくれてね。お陰でこうして間に合った」
ラング、あいつ…とレンブラントが歯噛みした。

「子爵、こちらへ来て縄をといてくれないか」
こちらへクロード様が話しかける隙に、レンブラントは駆け出した。着ていたコートを投げ捨て、塔の柵を乗り越えようとする。

オックスがそれより早く駆け寄り、レンブラントの足を引摺って引きたおし、馬乗りになって拳をうち下ろした。がつ、がつ、と重い音がして、わたしは恐ろしくなり、おもわず目をおおった。
「クララベル子爵、殺すな」
クロード様の声がして音はやみ、そっと覗くとオックスをローランドが取り押さえていた。

「恨む気持ちはわかるが、今ここで殺せば男爵家の死の真相は葬られてしまう」
クロード様はルーファスの縄をはずし、ぐったりとしているレンブラントにその縄をかけはじめた。
「これで大丈夫…アイリス、おいで。公爵を介抱してくれ」


そう言われて、わたしはルーファスの側へ駆け寄った。縄目のついた腕を持って体を横たえ、ルーファス、と声をかけた。
閉じられていた瞼から、鳶色の瞳がうっすらとみえて、
「アイリス?きみ、怪我をしてるの?」
ルーファスは自分がぼろぼろになっているのにそんな風に言って、心配そうに首をかしげた。

「落馬したのよ」
わたしが言うと、
「他所の馬は流星ほどおとなしくはないのだから、気をつけないと…」
と言って苦笑いした。その声は意外なほどしっかりしていて、ええ、ええそうね、とわたしは頷く。自然と涙がこぼれた。

「公爵、立てるか?」
話をきいていたクロード様がルーファスにちかづいてきて手をさしだした。
「悪いが、この家にすむ悪魔を残らず叩き出したい…国を滅ぼす悪魔をね。手伝ってくれたら感謝するよ」
「身に余る光栄です」
ルーファスが片ヒザをたてておきあがり、クロード様に笑いかけた。

「アイリスも行こう、レイノルズ邸の悪魔を倒す」
私は黙ってうなづいた。

夜明けにちかづき、尖塔から見える朝日がすべてを燃やしつくそうとするように、あかあかと輝いていた。












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