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レイノルズの悪魔 社交界をあるく
友情のファーストダンス
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「かわいいものを見てしまったわ」
謁見がおわり、ダンスフロアに行くと若い女性に声をかけられた。
「アイリス・レイノルズです」
私が頭を下げると、ふふ、とその女性は笑った
「エルよ。エリザベス・ローザリア」
王弟ローザリア侯の娘、クロードの従姉妹のひとりだ。以前の私はいわば女の敵だったから、誰も話しかけてはこなかったし、こちらも顔なんて覚えてはいなかったけれど、たしか少しだけ年上だったような…
「あの、なにか」
以前なら一番言われていたのは、クロードに私は相応しくない、か、ダンスの交代についてだったけれど。
「貴方が一緒にいたのは、レイノルズ家のかた?」
「いいえ、クララベル子爵は、いまのクララベル男爵様の類縁のかたです…縁あって今日はエスコートをお願いしましたの」
「アイリスの父親みたいなものらしいぞ、エルはああいうのが好みなのか?」
クロード少年があけすけにものを言うので、どぎまぎしてしまう。
「ええ、素敵だなって」
流石従姉妹というか、普通に会話になっている。感心するうち、いつの間にか音楽がはじまっていた。
「行こう、アイリス」
クロード少年に手をとられ、輪のなかへ。
一曲目は必ず約束のある相手とする。
つまり、いまここで私がクロード少年と踊るのは、私が后がねだと知らしめることになるのだ。知らず知らずに、背筋が伸びた。
優雅な曲にあわせてステップを踏めば、クロード少年は凄いと笑った。
「アイリスのダンスの教師は優秀だな、とても踊りやすい」
それはそうだろう、かつての私は何千回も、ただクロード様と踊る為だけに練習した。クロード様が私と踊るのは、はじめの一曲だけ。
それも後にはレミの役目になっていって、時には何曲も何曲も、ただレミとクロード様が踊るのをみていた。
それでも、王妃になるにはダンスは必須なのだから、完璧に優雅に美しく踊れるようにといわれて、何時間も飲まず食わずで練習させられた。血が出ても、休むことは許されなかった。
いま思えば単に、レミとクロード様がお茶をしたり図書室で一緒に本を読む、その邪魔をしないように舞踏室へ閉じ込められていただけなのだけど。
「…どうかしたかい?」
クロード少年はホールドしている手が疲れてきたのか、繋ぎ直してから尋ねた。
「練習のときを思い出したので」
つい呟くと、クロード少年も小声で
「わたしも練習は嫌いだ」
と返して眉をしかめた。ふたりでひそひそ話しながら踊っていたら、曲はいつの間にか三曲目のリールになっていた。
「また後でね」
笑いあって次の相手とお辞儀をする。
今のって、友達みたいだった!なんだか楽しくなってきて、弾けるような音楽が鳴るリールの間じゅう、私はニヤニヤするのをやめられなかった。
謁見がおわり、ダンスフロアに行くと若い女性に声をかけられた。
「アイリス・レイノルズです」
私が頭を下げると、ふふ、とその女性は笑った
「エルよ。エリザベス・ローザリア」
王弟ローザリア侯の娘、クロードの従姉妹のひとりだ。以前の私はいわば女の敵だったから、誰も話しかけてはこなかったし、こちらも顔なんて覚えてはいなかったけれど、たしか少しだけ年上だったような…
「あの、なにか」
以前なら一番言われていたのは、クロードに私は相応しくない、か、ダンスの交代についてだったけれど。
「貴方が一緒にいたのは、レイノルズ家のかた?」
「いいえ、クララベル子爵は、いまのクララベル男爵様の類縁のかたです…縁あって今日はエスコートをお願いしましたの」
「アイリスの父親みたいなものらしいぞ、エルはああいうのが好みなのか?」
クロード少年があけすけにものを言うので、どぎまぎしてしまう。
「ええ、素敵だなって」
流石従姉妹というか、普通に会話になっている。感心するうち、いつの間にか音楽がはじまっていた。
「行こう、アイリス」
クロード少年に手をとられ、輪のなかへ。
一曲目は必ず約束のある相手とする。
つまり、いまここで私がクロード少年と踊るのは、私が后がねだと知らしめることになるのだ。知らず知らずに、背筋が伸びた。
優雅な曲にあわせてステップを踏めば、クロード少年は凄いと笑った。
「アイリスのダンスの教師は優秀だな、とても踊りやすい」
それはそうだろう、かつての私は何千回も、ただクロード様と踊る為だけに練習した。クロード様が私と踊るのは、はじめの一曲だけ。
それも後にはレミの役目になっていって、時には何曲も何曲も、ただレミとクロード様が踊るのをみていた。
それでも、王妃になるにはダンスは必須なのだから、完璧に優雅に美しく踊れるようにといわれて、何時間も飲まず食わずで練習させられた。血が出ても、休むことは許されなかった。
いま思えば単に、レミとクロード様がお茶をしたり図書室で一緒に本を読む、その邪魔をしないように舞踏室へ閉じ込められていただけなのだけど。
「…どうかしたかい?」
クロード少年はホールドしている手が疲れてきたのか、繋ぎ直してから尋ねた。
「練習のときを思い出したので」
つい呟くと、クロード少年も小声で
「わたしも練習は嫌いだ」
と返して眉をしかめた。ふたりでひそひそ話しながら踊っていたら、曲はいつの間にか三曲目のリールになっていた。
「また後でね」
笑いあって次の相手とお辞儀をする。
今のって、友達みたいだった!なんだか楽しくなってきて、弾けるような音楽が鳴るリールの間じゅう、私はニヤニヤするのをやめられなかった。
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