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閑話 うちのおかしな妹について
レイモンド・カーラントベルク
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ごうごうと燃え盛る化け物が庭をのたうち回り、アシュレイ嬢が連れ去られた。悪鬼から国をすくったけれど、あまりにも犠牲が大きすぎる。
大丈夫だろうか、と僕はちらりと妹のほうを見る。
絶望して、泣いているだろうか。
アシュレイ嬢の姿だったはずの妹…マリアが自分の姿を取り戻しているのを見て、目をみはった。
「マリア、姿が!」
ふわりとしたドレス、緋色に近い褐色の髪。何より、妙に姿勢が悪い。そうだ、別に背が高いわけでもないのに、医者の娘のくせに猫背なのだ。
「元に戻ってるわ…」
自分の髪を掴んでしげしげと眺めている。目付きが悪い!近眼なのか睨むようにするところまで戻っている。
なんというか、がっかりするほどわが妹だ。
「ま、いいわ!お兄様、急いでアシュレイ様を追いましょう!」
へ?と思ううちに、腕を捕まれた。少しむこうで、パチパチとなにかがはじける音がしている。
奇妙なことに、アシュレイ嬢の妖精の炎は悪鬼を呑み込んで火柱をあげているけれど、庭にも屋敷にも燃え移らない。第二皇子や魔術師たちが不思議そうに覗きこんでいるのが見えた。彼らにとっては格好の研究材料だろう。
「もう!お兄様ったら、ぼんやりしないで!」
雑に掴んで遠慮なく、ぐいぐい引っ張るからシャツがぐしゃぐしゃになる。けさ、アシュレイ嬢がそっとボタンを留めてくれた手と同じ手とは思えないほど、ちがう。
さっきからバチバチと音をたてていた白いつるバラの茂みが、とうとう炎をあげて燃え始めた。
なぜ、あれだけ延焼したんだ?と僕はまだ引っ張られながらも考えていた。慎重に燃えるバラの茂みを回り込む。気づけばあの、アシュレイ嬢と迷い込んだバラの迷宮だった。
「行くって、どこへ行くつもりなんだ?」
あまりひっぱられては困るので、足を早めて隣に並ぶ。慣れないよそ行きを着ているマリアだから簡単に追いついた。
「フィヨールトにお姉様を連れ戻しに行くにきまってますわ!」
僕はどんな顔をしているだろうか?さっきまでは確かにもうだめだ、と思っていたのに、この妹といると、そんな気分はまるでどうでもいいような気さえしてくる。
「マリア、君は…すごいね」
ハア?と面白くもなさそうな声を出され、じろりと一瞥されて、ああ、妹がかえってきたんだな、と思った。アシュレイ嬢ではない人間が、この妹はほぼどうでもいいのだ。
「でも、どうやって追いかけるっていうんだ?」
にこ、とマリアが微笑む。
「お姉様のにおいを辿ります!」
……うん、マリアらしいやりかただね…。
大丈夫だろうか、と僕はちらりと妹のほうを見る。
絶望して、泣いているだろうか。
アシュレイ嬢の姿だったはずの妹…マリアが自分の姿を取り戻しているのを見て、目をみはった。
「マリア、姿が!」
ふわりとしたドレス、緋色に近い褐色の髪。何より、妙に姿勢が悪い。そうだ、別に背が高いわけでもないのに、医者の娘のくせに猫背なのだ。
「元に戻ってるわ…」
自分の髪を掴んでしげしげと眺めている。目付きが悪い!近眼なのか睨むようにするところまで戻っている。
なんというか、がっかりするほどわが妹だ。
「ま、いいわ!お兄様、急いでアシュレイ様を追いましょう!」
へ?と思ううちに、腕を捕まれた。少しむこうで、パチパチとなにかがはじける音がしている。
奇妙なことに、アシュレイ嬢の妖精の炎は悪鬼を呑み込んで火柱をあげているけれど、庭にも屋敷にも燃え移らない。第二皇子や魔術師たちが不思議そうに覗きこんでいるのが見えた。彼らにとっては格好の研究材料だろう。
「もう!お兄様ったら、ぼんやりしないで!」
雑に掴んで遠慮なく、ぐいぐい引っ張るからシャツがぐしゃぐしゃになる。けさ、アシュレイ嬢がそっとボタンを留めてくれた手と同じ手とは思えないほど、ちがう。
さっきからバチバチと音をたてていた白いつるバラの茂みが、とうとう炎をあげて燃え始めた。
なぜ、あれだけ延焼したんだ?と僕はまだ引っ張られながらも考えていた。慎重に燃えるバラの茂みを回り込む。気づけばあの、アシュレイ嬢と迷い込んだバラの迷宮だった。
「行くって、どこへ行くつもりなんだ?」
あまりひっぱられては困るので、足を早めて隣に並ぶ。慣れないよそ行きを着ているマリアだから簡単に追いついた。
「フィヨールトにお姉様を連れ戻しに行くにきまってますわ!」
僕はどんな顔をしているだろうか?さっきまでは確かにもうだめだ、と思っていたのに、この妹といると、そんな気分はまるでどうでもいいような気さえしてくる。
「マリア、君は…すごいね」
ハア?と面白くもなさそうな声を出され、じろりと一瞥されて、ああ、妹がかえってきたんだな、と思った。アシュレイ嬢ではない人間が、この妹はほぼどうでもいいのだ。
「でも、どうやって追いかけるっていうんだ?」
にこ、とマリアが微笑む。
「お姉様のにおいを辿ります!」
……うん、マリアらしいやりかただね…。
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