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令嬢は甦る
悪鬼の牢獄
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ミルラはぐったりとしていたけれど、かろうじて身動きはしているようだった。
「ミルラに何をしたの」
私はじりじりとミュシャへ近づこうとした。
「近づいては駄目です、あの檻のなかにいるのは、悪鬼の一部分だけ」
マリアが私の腕をひいた。
「見えるの?」
私が尋ねると、マリアはうなづいた。私と入れ替わってから、マリアは精霊の力を見ることができなくなっていたのに。なにが起きているの?
「魔術も駄目ってことか」
第二皇子殿下が言うのと、檻の外側にトグロを巻くような巨大なムカデの胴体が現れるのは同時だった。
「っくそッ」
お義兄様が宝剣で伸びてきた足を断ち切る。一瞬は断ち切れたようにみえるけれど、それはすぐに再生してくる。レイモンド様が切った部分も同様だ。魔術師の使う魔術や第二皇子の持つ剣では、それすら叶わず弾かれていた。
「アシュレイ様がいけないんですよ、こんなうるさいハエを私のところへ放つなんて」
ずるり、と私の足元が沈んだ。
「アシュレイ!」
お義兄様が叫ぶのが聞こえたけれど、すでに私の足は膝まで土の中に引きずりこまれていた。
「やっぱり。姿かたちを変えても、臭うのよ……沢山の人間を屠ってきた…キンバリーに染み付いた死臭が」
ぞわわっ、と足元から赤黒い虫が這い上がってきた。
だめだ、引き込まれる。
マリアが私の手首をつかみ、レイモンド様はダガーで虫を払おうとする。早く手を離してくれないと、マリアまで引きずりこまれてしまうわ。なんとかマリアの手を振り払おうとしたけれど、うまくいかない。
「マリア、手を離して!」
「いやです!はなしません!」
マリアが叫んだとたん。私とマリアは、どぼ、というぬめるような感覚とともに真っ暗闇のなかへ落ちていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私とマリアは、薄暗い、まるくて小さな石でできた建物のなかへと落ちてきた。まるで、井戸の中みたい。
「お兄様の、ダガー…」
ポツリと言ったマリアが、まだぼんやりと光っている短剣をもちあげた。
「あってもなくても、それでは戦えないわ」
ミルラが言っていたではないか、ミュシャと戦うにはミルラの鱗粉か、核が必要だ、と。
「ちゃんと撤退してればいいけど」
私は立ち上がり、確信をもって歩きだした。
「アシュレイお姉様、どこへ?」
マリアがダガーをかまえながらついてきた。
「お義兄様は騎士の数や魔術で制圧するつもりだったんでしょうけど、ミルラのいうとおりそんなの効かないわ。みたでしょ」
お義兄様やレイモンド様が持つ家に伝わる宝剣には一時的にでも断ち切る力があるようだけど。
「元を断たなきゃ」
そう、ミルラは沢山のヒントをくれていたのだ。私は見逃していたけれど、すでにあの時みつけていた。あそこへいかなければ。
「……中庭よ、皇宮の」
このトンネルがなんなのか、私はすぐ分かった。井戸だ。中庭に置かれていたあの井戸。
「わかりました、私がアシュレイお姉様を守ります!」
「あなたが一緒にいてくれて心強いわ」
危険な場所だから、本当は逃げてほしいけど。ここがなにか本当の話をしたら、マリアはどんな反応をするのかしら?
「アシュレイ…」
誰かがマリアの脚をつかんだ。ひっ、と短い悲鳴をあげてマリアがそれを蹴ると、つぶれたカエルのような声があがった。
「アシュレイ、来てくれたんだな、ハハハ!」
それは痩せて、ぼろぼろの姿ではあったけれど、ルディ殿下だった。いまはもう金の髪は抜け落ちて所々に生えているだけになり、もとは美しかっただろう服もやぶれて泥と汚物にまみれてはいたけれど。
どうやら彼は私とマリアが入れ替わっていることに気づかないようで、マリアの服にとりすがってしゃべりつづけている。
「あの化け物が私をこのような牢獄へ落としたんだ、だが、お前は出口を知っているのだろう?アシュレイ!ああ、それでこそ私の婚約者だ!役に立つ女…!」
ガッ、とルディの頬にマリアの履いている靴が食い込んだ。
「やだ、お姉様の靴が汚れてしまいました」
マリアが声をあげる。
「汚ならしい悪鬼のペットの癖にお姉様の足に触ろうとするから」
さらに何度かあちこち蹴りつけ、ハンカチでスカートの裾をはらい、マリアは苦しむルディ殿下に一瞥もせず立ち去ろうとする。
「マリア?でも、殿下が」
「お姉様があんな奴の心配をしてやる必要はないと思います」
ええ…と私はまだ頬を押さえて転げまわっているルディ殿下を見た。でも、ここにいるってことは、彼もミュシャに閉じ込められたってことでしょ?ほおっておけば、ミュシャの非常食として何百年もここでひとりでさ迷うことにならない?
「情けは必要ありませんわ」
ぽん、とマリアが私の肩をたたいた。えええ…。
◇◇◇◇◇◇
少し歩いたところで、マリアが言った。
「さっき、悪鬼の手のひらのうえにいたのが、ミルラですか?」
私の頷きに、そう、とマリアがうつむき、とても言いづらそうにしている。
「なにか、見えたの?」
マリアはきゅっと唇をかんで、
「私には妖精は見えませんが、あの悪鬼の手のうえにあった光は…ほとんど消えかけてみえました」
私はそれを聞いて立ち止まった。
「そんな、駄目よ!」
ミルラが消える、ミルラは私を助けてくれたのに?
「私はお姉様がどうして、お姉様に毒を盛り、私とお姉様を入れ替えた妖精を庇おうとするのかわかりません…」
マリアは両手をぎゅっと握りあわせた。
「でも、お姉様がアレを大切にしているなら、助けたいです」
私はマリアの両手を包むように握った。
「ありがとう、ミルラは私のはじめての友達なの。おかしな子だけど…ミルラがマリアにも会わせてくれたんだわ。あの…私たち、友達よね?」
マリアはちょっと眉をよせてからなんとなく口元をひきあげて笑みのかたちにした。
「はい。勿論です…ちょっと、恐れおおい気もしますが。お姉様の友達なら、私も仲良くなれます」
「元にもどって、見えるようになったらきっと驚くわよ、ミルラはとっても元気な子だから」
私たちはまた歩きだした。でも、闇雲に歩いても、けしてでられないと分かっている。ここは一本道のトンネルに見えるけれど、やはり牢獄なのだ。
「やっぱり使うしかないのね」
あまり使いたくはなかったけど。
レイモンド様のダガーだ。緑の精霊王の加護を持つカーラントベルク侯爵家の宝剣。悪鬼を断ち切ることができて、いまも瘴気に反応して光っている。
「マリア、ダガーを床に突き立ててくれる?」
「あ、はい」
マリアはうなづき、躊躇なくダガーを石と石のあいだに突き立てた。思った通り、それは何の抵抗もなく突き刺さる。
「バロウズ、いるんでしょ…乙女のお呼びだしよ。約束どおり願い事を叶えて」
ギチギチギチ、と足元に亀裂がはいる。ダガーがその亀裂の下へと滑り落ちて、消えた。
「あ!」
マリアがそれを追おうと手をのばしたとき、何かが彼女の腕をからめとって落下を防いだ。やんわりとマリアの体を包み込み、ついで私の髪にからんで、亀裂から引きずり出す。
眩しい、ひかりのなかへ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
飛び出してきたのは、なぜか公爵邸の庭。
「またここ?」
私は困惑したまま、髪にからんだ蔓をほどいてなんとか庭に降り立った。なんでバロウズはいつも公爵邸に現れるんだろう?むしろ公爵邸にしか現れないのでは?
「乙女、大丈夫かい?」
マリアだけ腕にだきとめたバロウズが尋ねる。
「………離してください」
ひどく冷たいこえでマリアが言い、すぐに下りてこちらへと歩いてきた。
「アシュレイ!」
すぐ近くで、お義兄様の声がして、私は辺りを見回す。
「アシュレイ嬢、無事ですか?」
レイモンド様が駆け寄ってきた。え、こんな短時間で、どうやって?
「悪鬼はキンバリーの血筋を狙ってるんだ。君があの沼に落ちたとき、悪鬼はこの屋敷へと移動をはじめた。それを僕たちは追ってきたんだよ。なんせとんでもなくでかいからね、魔術師でなくとも…あれ、こちらは?」
第二皇子殿下がバロウズに気づいて首を傾げる。
「…ふん」
名乗る気もないのか、バロウズはそっぽをむいている。
「あの、皇子殿下、こちらは」
説明しようとしたとき、誰かが優しく私の肩をひいた。
「アシュレイ嬢、君のものでは?」
レイモンド様が渡してくれたのは、あの時井戸に置いてきた小鳥のかたちのブローチだ。
「ミルラの核だわ!」
心臓!?とレイモンド様が取り落としそうになるのを、ぎりぎりでキャッチした。
「ありがとうございます。とても、大事なものなの」
ぎゅっと胸元に抱き寄せると、あの甘いような、苦いような、懐かしいような臭いがした。
ふんわりとそこだけが温かくなる。手のひらに何か柔らかなものを感じて手のひらを開くと、
「ミルラ!」
ぼろぼろになった、小さな妖精が体を起こそうとしていた。
「ミルラに何をしたの」
私はじりじりとミュシャへ近づこうとした。
「近づいては駄目です、あの檻のなかにいるのは、悪鬼の一部分だけ」
マリアが私の腕をひいた。
「見えるの?」
私が尋ねると、マリアはうなづいた。私と入れ替わってから、マリアは精霊の力を見ることができなくなっていたのに。なにが起きているの?
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「っくそッ」
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「アシュレイ様がいけないんですよ、こんなうるさいハエを私のところへ放つなんて」
ずるり、と私の足元が沈んだ。
「アシュレイ!」
お義兄様が叫ぶのが聞こえたけれど、すでに私の足は膝まで土の中に引きずりこまれていた。
「やっぱり。姿かたちを変えても、臭うのよ……沢山の人間を屠ってきた…キンバリーに染み付いた死臭が」
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だめだ、引き込まれる。
マリアが私の手首をつかみ、レイモンド様はダガーで虫を払おうとする。早く手を離してくれないと、マリアまで引きずりこまれてしまうわ。なんとかマリアの手を振り払おうとしたけれど、うまくいかない。
「マリア、手を離して!」
「いやです!はなしません!」
マリアが叫んだとたん。私とマリアは、どぼ、というぬめるような感覚とともに真っ暗闇のなかへ落ちていった。
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私とマリアは、薄暗い、まるくて小さな石でできた建物のなかへと落ちてきた。まるで、井戸の中みたい。
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ポツリと言ったマリアが、まだぼんやりと光っている短剣をもちあげた。
「あってもなくても、それでは戦えないわ」
ミルラが言っていたではないか、ミュシャと戦うにはミルラの鱗粉か、核が必要だ、と。
「ちゃんと撤退してればいいけど」
私は立ち上がり、確信をもって歩きだした。
「アシュレイお姉様、どこへ?」
マリアがダガーをかまえながらついてきた。
「お義兄様は騎士の数や魔術で制圧するつもりだったんでしょうけど、ミルラのいうとおりそんなの効かないわ。みたでしょ」
お義兄様やレイモンド様が持つ家に伝わる宝剣には一時的にでも断ち切る力があるようだけど。
「元を断たなきゃ」
そう、ミルラは沢山のヒントをくれていたのだ。私は見逃していたけれど、すでにあの時みつけていた。あそこへいかなければ。
「……中庭よ、皇宮の」
このトンネルがなんなのか、私はすぐ分かった。井戸だ。中庭に置かれていたあの井戸。
「わかりました、私がアシュレイお姉様を守ります!」
「あなたが一緒にいてくれて心強いわ」
危険な場所だから、本当は逃げてほしいけど。ここがなにか本当の話をしたら、マリアはどんな反応をするのかしら?
「アシュレイ…」
誰かがマリアの脚をつかんだ。ひっ、と短い悲鳴をあげてマリアがそれを蹴ると、つぶれたカエルのような声があがった。
「アシュレイ、来てくれたんだな、ハハハ!」
それは痩せて、ぼろぼろの姿ではあったけれど、ルディ殿下だった。いまはもう金の髪は抜け落ちて所々に生えているだけになり、もとは美しかっただろう服もやぶれて泥と汚物にまみれてはいたけれど。
どうやら彼は私とマリアが入れ替わっていることに気づかないようで、マリアの服にとりすがってしゃべりつづけている。
「あの化け物が私をこのような牢獄へ落としたんだ、だが、お前は出口を知っているのだろう?アシュレイ!ああ、それでこそ私の婚約者だ!役に立つ女…!」
ガッ、とルディの頬にマリアの履いている靴が食い込んだ。
「やだ、お姉様の靴が汚れてしまいました」
マリアが声をあげる。
「汚ならしい悪鬼のペットの癖にお姉様の足に触ろうとするから」
さらに何度かあちこち蹴りつけ、ハンカチでスカートの裾をはらい、マリアは苦しむルディ殿下に一瞥もせず立ち去ろうとする。
「マリア?でも、殿下が」
「お姉様があんな奴の心配をしてやる必要はないと思います」
ええ…と私はまだ頬を押さえて転げまわっているルディ殿下を見た。でも、ここにいるってことは、彼もミュシャに閉じ込められたってことでしょ?ほおっておけば、ミュシャの非常食として何百年もここでひとりでさ迷うことにならない?
「情けは必要ありませんわ」
ぽん、とマリアが私の肩をたたいた。えええ…。
◇◇◇◇◇◇
少し歩いたところで、マリアが言った。
「さっき、悪鬼の手のひらのうえにいたのが、ミルラですか?」
私の頷きに、そう、とマリアがうつむき、とても言いづらそうにしている。
「なにか、見えたの?」
マリアはきゅっと唇をかんで、
「私には妖精は見えませんが、あの悪鬼の手のうえにあった光は…ほとんど消えかけてみえました」
私はそれを聞いて立ち止まった。
「そんな、駄目よ!」
ミルラが消える、ミルラは私を助けてくれたのに?
「私はお姉様がどうして、お姉様に毒を盛り、私とお姉様を入れ替えた妖精を庇おうとするのかわかりません…」
マリアは両手をぎゅっと握りあわせた。
「でも、お姉様がアレを大切にしているなら、助けたいです」
私はマリアの両手を包むように握った。
「ありがとう、ミルラは私のはじめての友達なの。おかしな子だけど…ミルラがマリアにも会わせてくれたんだわ。あの…私たち、友達よね?」
マリアはちょっと眉をよせてからなんとなく口元をひきあげて笑みのかたちにした。
「はい。勿論です…ちょっと、恐れおおい気もしますが。お姉様の友達なら、私も仲良くなれます」
「元にもどって、見えるようになったらきっと驚くわよ、ミルラはとっても元気な子だから」
私たちはまた歩きだした。でも、闇雲に歩いても、けしてでられないと分かっている。ここは一本道のトンネルに見えるけれど、やはり牢獄なのだ。
「やっぱり使うしかないのね」
あまり使いたくはなかったけど。
レイモンド様のダガーだ。緑の精霊王の加護を持つカーラントベルク侯爵家の宝剣。悪鬼を断ち切ることができて、いまも瘴気に反応して光っている。
「マリア、ダガーを床に突き立ててくれる?」
「あ、はい」
マリアはうなづき、躊躇なくダガーを石と石のあいだに突き立てた。思った通り、それは何の抵抗もなく突き刺さる。
「バロウズ、いるんでしょ…乙女のお呼びだしよ。約束どおり願い事を叶えて」
ギチギチギチ、と足元に亀裂がはいる。ダガーがその亀裂の下へと滑り落ちて、消えた。
「あ!」
マリアがそれを追おうと手をのばしたとき、何かが彼女の腕をからめとって落下を防いだ。やんわりとマリアの体を包み込み、ついで私の髪にからんで、亀裂から引きずり出す。
眩しい、ひかりのなかへ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
飛び出してきたのは、なぜか公爵邸の庭。
「またここ?」
私は困惑したまま、髪にからんだ蔓をほどいてなんとか庭に降り立った。なんでバロウズはいつも公爵邸に現れるんだろう?むしろ公爵邸にしか現れないのでは?
「乙女、大丈夫かい?」
マリアだけ腕にだきとめたバロウズが尋ねる。
「………離してください」
ひどく冷たいこえでマリアが言い、すぐに下りてこちらへと歩いてきた。
「アシュレイ!」
すぐ近くで、お義兄様の声がして、私は辺りを見回す。
「アシュレイ嬢、無事ですか?」
レイモンド様が駆け寄ってきた。え、こんな短時間で、どうやって?
「悪鬼はキンバリーの血筋を狙ってるんだ。君があの沼に落ちたとき、悪鬼はこの屋敷へと移動をはじめた。それを僕たちは追ってきたんだよ。なんせとんでもなくでかいからね、魔術師でなくとも…あれ、こちらは?」
第二皇子殿下がバロウズに気づいて首を傾げる。
「…ふん」
名乗る気もないのか、バロウズはそっぽをむいている。
「あの、皇子殿下、こちらは」
説明しようとしたとき、誰かが優しく私の肩をひいた。
「アシュレイ嬢、君のものでは?」
レイモンド様が渡してくれたのは、あの時井戸に置いてきた小鳥のかたちのブローチだ。
「ミルラの核だわ!」
心臓!?とレイモンド様が取り落としそうになるのを、ぎりぎりでキャッチした。
「ありがとうございます。とても、大事なものなの」
ぎゅっと胸元に抱き寄せると、あの甘いような、苦いような、懐かしいような臭いがした。
ふんわりとそこだけが温かくなる。手のひらに何か柔らかなものを感じて手のひらを開くと、
「ミルラ!」
ぼろぼろになった、小さな妖精が体を起こそうとしていた。
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