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見えない殺意

仄かな明かりさえ見えない場所で

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授業が終わり、メアリグレースとリアム、それにジャスパー達生徒会の仲間が、昼休みをとろうと廊下を歩いていると、廊下の端にひとりのメイドが立っていた。

メアリグレースはリアムの腕をしっかりつかんだまま、
「この子、なにか困っているみたい。私で手助けできるようなら、こたえてあげたいわ」
と、優しげに微笑んでみせた。

それからメイドを一瞥し、メアリグレースはなあに、と尋ねた。メイドはメアリグレースの耳元近くで囁いた。
「フィオラ・バセッティは例の魔女です」
メイドはまだ年端のいかぬ少女といった外見ではあるものの、眼光が鋭く、単なる平民の娘のようにはみえない。

「そう、では、邪魔をさせないように手を打たねばね」
メアリグレースは、にぃ、と口の端をひきあげた。

「フィオラはただのワガママ娘だよ、メアリグレースが相手にせずとも」
リアムが口をひらいたが、
「わたしはそうは思えませんの、だからわざわざこの子を選んだんですもの。それとも猊下はあの女を庇い立てしますの?」

しなだれかかるメアリグレースを押し退けながら、リアムはメアリグレースを睨んだ。
「メアリグレース、僕は単なる司祭の息子だ。不敬に処せられるような呼び方は止めてくれないか」

それを聞くとふん、とメアリグレースは鼻で笑い、鞄からなにか取り出した。
「今は、でしょ」
そう言って、取り出した紙切れになにか書き付けると、すいっとそれをリアムの胸に貼るようにした。

ぼうっと紅く光るそれは辺りに熱と焔のようななにかを撒きながら回転し、そして燃え尽きた。

「さ、みなさんも行きましょう?お昼が遅くなってしまっては申し訳ないわ」
メアリグレースが言うと、どこかぼんやりとそれを見守っていた生徒会の男子生徒たちは、まるで引き寄せられるようにそれに頷き、彼女に従って歩きだす。後にのこったリアムは、メイドが立ち去った方をちらりと見、それからメアリグレース達の背中を睨みながら、ぐ、と拳をにぎった。

「奪わせてなるものか、ようやく探し当てたものを」

どこかちぐはぐな表情は、言葉よりかなり苦し気にみえるが、それを見たものは誰もいなかった。




リアムは、音も光も見えない闇のなかに囚われていた。時おり、馴染んだ学校や級友の顔が見えるが、それも段々と回数が減っている。
「リュゼは僕を乗っ取るつもりなのか」
声に出したはずが、やはり音は聞こえない。

時おり、あの魔方陣がチリチリとてのひらで燃えるような感覚をもたらし、それは唯一自分が生きている証でもあり、しかしリュゼが己とリアムを繋ぐ枷でもあった。

「何とかフィオラに会う方法を考えなくてはいけない…いっときでもいいから」
リアムにはリュゼが分かっていた。
繋がったその感覚は、リュゼのものともリアムのものともわけられないものだが、しかし、禁呪で無理矢理に繋げられたそれは、自然に記憶が残ったフィオラのものとちがって、不完全で不安定なものらしい。

リュゼは探している。フィオラをリュゼやミアのようにフィロニアにする方法を。

しかし、まだ自分は完全にリュゼに乗っ取られたわけではなく、こうして意識を残している。何とかしてフィオラと会えさえすれば、フィオラの手元にはカンタレラがあり、せめてフィオラは助かるのではないか。
「フィオラ……」
ぎゅっと手の平をにぎり、リアムは目を閉じた。それはまるで祈るように。




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